“格差”が死語になったわけ
民主代表選に出馬した長妻さんが「格差是正」を全面に打ち出している。ここでいう“格差”というのは、世代間格差とか一票の格差ではなく、いわゆる貧富の格差全般のことだ。すっかり死語になった感があり、久しぶりに聞いた気がする。
なんていうと「まだまだ困ってる人はいっぱいいるじゃないか」と思う人もいるかもしれないが、“格差”を死語に追いやったのは誰あろう、当の民主党である。
09年選挙に際し、民主党は「小泉改革で格差拡大」という旗を掲げて戦い、見事政権交代を成し遂げた。その後、厚生労働大臣となった長妻さんたっての肝入りで、初めて日本全国の貧困調査も行われた(以下、厚労省作成資料より)。
でも、結果はなんと、過去10年で唯一貧困率が改善したのが小泉政権期だったという(彼ら民主党とリベラル派の皆さんにとっては)衝撃的な事実がばっちりわかってしまった。よほど恥ずかしかったのだろう。それ以来、民主党はほとんど格差云々の話はしなくなり、彼らの支持層の間でも格差問題そのものが語られなくなったように思う。気が付けば派遣村も消滅し、反原発で盛り上がるまで、リベラルそのものが影が薄くなっていた。
もちろん、筆者は小泉改革で格差問題が解決に向けてすごく前進したと言うつもりはなくて、経済がうまく回ったからパイの量が増えて、相対的に前後よりマシだったというだけの話だと思う。問題の解決のためには、大企業正社員とか高齢者に偏った社会保障に抜本的にメスを入れるしかない。もちろん、新しい再分配を実現するためには増税でもなんでもするしかない。
湯浅氏のようにそのことを明言する人もいるが、リベラル界隈の多くの人は(うすうす気づいていても)そういう議論はしたくないのだろう。連合の組合員なら終身雇用という民営セーフティネットがすでにあるわけで、誰でも使えるセーフティネットなんて新設されたら自分たちの負担が増えるだけだから。日本人というのは「可哀想だから誰か助けてやれ!」と大声で叫ぶのは好きだが、自分も負担せにゃならんとなると途端に目をそらすのが大好きな国民性である。そういうわけで、格差は死語になったのだ。
そういう状況を知ってか知らずか、懲りずに「格差是正こそ民主党の道」と断言しちゃう長妻さんはホント空気読めてないと思われる。「格差是正こそ民主党の道。だから今度は構造改革断行、労働市場の流動化もやります」くらい言えれば、お通夜みたいな代表選ももうちょっとは盛り上がると思うのだが。