新黒部駅からわずか300メートルの駅に残る木造駅舎 富山地方鉄道本線 舌山駅(富山県黒部市)
平成27(2015)年3月14日に長野~金沢間が開業した北陸新幹線。富山県黒部市では北陸新幹線と富山地方鉄道本線の交差地点に黒部宇奈月温泉駅が設置されたが、それに先駆けて富山地鉄では2月26日に新黒部駅を開業させた。そんな新黒部駅から宇奈月温泉方面にわずか300メートルの地点にあるのが、「舌山(したやま)」駅だ。駅間の300メートルは富山地鉄では最も短い駅間で、全国的に見ても有数の短さである。
舌山駅は大正11(1922)年11月5日、黒部鉄道の三日市~下立間開業に際して新設された。当時の所在地は下新川郡若栗村舌山で、駅名は字(あざ)から取られている。明治の町村制までの当地は下新川郡舌山新村だった。「舌山」の地名は、布施山の下にあることに由来し、「下山」と書くべきところを誤って表記してこの地名となったのだという。ちなみに「下山」の地名は隣の入善町にもあるため、地名の識別という点では結果的に「舌山」になってよかったのかもしれない。
花緑青色に塗られた駅舎は、背の高さの割に扉や窓が小さく、鈍重な印象だ。均整の取れたスタイルではないが、それゆえにこそ、小さな地方私鉄の手づくりといった風情が漂う。大正11(1922)年開業時以来のもの、あるいは、昭和18(1943)年11月11日の昇圧・ホーム改修時に建て替えられたものと思われる。
駅舎は平成22(2010)年7月23日から25日にかけて、地元住民の手で現在の色に塗られたが、それ以前は茶色だった。
構内は相対式ホーム2面2線。駅舎側が2番線で反対側が1番線と通常とは逆の附番であるが、これは1番線が1線スルーとなっていることによるものであろう。列車の行き違いを行わない場合は、原則1番線発着で、行き違い時のみ下り宇奈月温泉方面行きが2番線に発着する。新黒部駅開業に際しては、折り返し不可能な新黒部駅に代わって舌山駅で折り返す列車が設定されたものの、こちらは令和3(2021)年4月1日に廃止された。
正面(駅前側)から見ると、大人しい印象を受ける駅舎だが、ホーム側には三角屋根の小さなファザードが変化を加えている。赤く錆びたトタン屋根といい、色褪せた外壁と言い実に詫び寂びを感じさせる駅舎だ。ホームには幾度にも渡って嵩上げされた痕跡があり、こちらも舌山駅が重ねてきた歴史を感じさせてくれる。
1番ホーム上には木造の待合室があり、こちらも駅舎と同色で塗られている。嵩上げされたホームとの間に段差が生じていないあたり、昭和18(1943)年のホーム改修時あるいはそれ以降のものだろう。駅舎の右奥に見えるビルは若栗農協会館で、右の大きな建物は農協の倉庫だ。鉄道で農産物を積み出していた時代の名残を感じさせる設備である。
前述のように新黒部駅までの距離はわずか300メートル。黒部宇奈月温泉駅の高架は駅構内からも見ることができ、歩いて10分もかからない。電車に乗れば一瞬だ。その近さゆえに新黒部駅開業に際しては廃止も囁かれたものの、交換駅として重宝するためか、舌山駅は生き延びてさらに歴史を重ねることとなった。
新幹線駅からも歩いて行けるくらいに近い舌山駅。もし、新黒部駅で乗り換えの時間が空いたなら散策がてら足を延ばしてこの駅から電車に乗るのもいいだろう。近くには「北陸の銀閣」の異名を持つ天真寺松桜閣や、若栗城址など見どころも多い。
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