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『名探偵コナン 天国へのカウントダウン』のスケボー跳躍に驚愕。地上262mで⁉ 時速110kmで!?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

9月15日の「金曜ロードショー」は、『名探偵コナン』の劇場版映画『天国へのカウントダウン』だ。

2001年に公開されたこの作品は、劇場版に黒ずくめの組織が初登場する物語であり、組織から脱退した灰原哀と、少年探偵団の活躍がしっかり描かれた傑作だ。

ストーリーも緊張感満載。

なかでも筆者が胸を躍らせたのは、コナンくんが「ターボエンジン付きスケートボード」でビルからビルへ跳び移ったシーンである。

しかも、そんじょそこらのビルではなくて、超高層ビル。

なんちゅう危ないことをするのか、コナンくん!と思うが、もちろん彼も望んでやったわけではなく(たぶん)、やらざるを得ない状況に陥ったからである。

それがどれほどすごい行為か、ここで考えてみたい。

劇中で灰原がスラスラ暗算するのも見どころだけど、本稿を読んで「金ロー」を見ると、ますます臨場感が高まるはずです。

◆地上262mで大ジャンプ!

事件の舞台は、西多摩市にオープン間近のツインタワービル。

75階建て319mのA塔(劇中表記)と、68階建て294mのB塔からなる。

現在日本でいちばん高いビルは、今年6月に竣工し、11月に開業する「麻布台ヒルズ森JPタワー」で、高さは330m。

それまでの最高は、2014年竣工の「あべのハルカス」300mだったから、01年のこの映画は20年以上も前に、日本一の超高層ビルを登場させていたわけだ。

すごいですなあ。

感心すべきは、そこではない。

劇中、A塔75階でパーティが行われていたとき、地下4階と地上40階が爆破される。

火災が発生し、階下には降りられない。

人々はB塔への避難を急ぐが、連絡橋も破壊され、A塔の60階に少年探偵団員の4人が取り残されてしまった。

彼らを救うため、コナンくんは「ターボエンジン付スケボー」で、B塔の60階からA塔の60階へ跳び移るのである。

75階が319m、68階が294mなら、60階は地上262mになる。

ここから落ちたら、時速258kmで地面に激突する。新幹線にハネられるのと大差ない。

そんな場所で、ビル間の跳び移り……!?

劇中の灰原哀の説明によれば、ビルとビルのあいだは50m。

ただしコナンくんは、崩れ残った連絡橋の残骸から残骸へ跳んでおり、画面を測定すると、その距離は13mほどだ。

お。だいぶ短くなりましたな。

などと喜んでいる場合ではない。

13mとは4車線道路を跳び越えるようなもので、人として尋常ではありません。

◆どんなジャンプをすればいい?

この跳躍が成功するか否かは、コナンくんのジャンプ力と、スケボーの速度にかかっている。

スケボーを走らせながらジャンプすると、コナンくんとスケボーは下の図のように斜めに飛び出し、放物線を描いて跳んでいく。

水平方向の速度は変わらないが、垂直方向の速度は重力によって減速し、最高点で0になった後は、重力によって加速する。

そして元の高さまで落ちたとき、水平方向に13m以上進んでいれば、この跳躍は成功するわけだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

たとえば、成人男性の垂直跳びの平均は60cm。

滞空時間は、ジャンプの高度だけで決まり、60cmの場合は0.7秒。

この0.7秒の間に13m進む必要があるわけで、求められるスケボーの速度は、時速67kmとなる。

実際には、どうだったのか。

劇中の描写を計測すると、コナンくんが宙を舞っていた時間は5秒間。

滞空時間5秒のジャンプとは、高さ31mである。

コナンくんは、水平に13m進むために、垂直に31m跳ぶという、ややこしいことをやったことになる。

が、いくらなんでも高さ31mのジャンプはできないのでは……!?

◆スケボーは時速110km!

そこで、5秒とは演出上の時間だったと思うことにして、もっと現実的なジャンプ力で考えてみよう。

そもそも、コナンくんの体は小学1年生なのだ。

いったいどれほどジャンプできるのか?

調べてみたが、小1の垂直跳びは測定されていないようだ。

そこで、小5男子の「50m走9.3秒、垂直跳び35.07cm」という平均記録などから、「垂直跳びの高さは、50m走の速度の2乗に比例する」と考えてみよう。

小1男子の50m走は11.7秒なので、すると垂直跳びは22cmになる。

小1だから当然だけど、さすがに低いですなあ。

その高度のジャンプなら、滞空時間は0.43秒しかない。

その間に13m進むためには、スケートボードの速さは時速110kmだったことになる!

速い!

読売テレビのサイトでは「ターボエンジン付スケボー」について、

「新一、元太、光彦の3人(総重量78キロ!)が乗ってもびくともせず乗用車を追跡できるほどの馬力は魅力的!」

と紹介している。

3人乗りで乗用車を追跡できるのなら、コナン単独なら時速110kmくらい充分に出せそうだ。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

すると、ビル間の跳び移りは見事成功することになる。おめでたい!

が、それはそれで大変である。

劇中、スケートボードは鉄骨にぶつかって落下し、コナン君はゴロゴロ転がっていたのだ。

高速道路を時速110kmで爆走中の車から転げ落ちたのと同じ……!

それでもコナン君は自力で立ち上がっていた。

恐るべき強靭な肉体だ。

地上262mで、スケボーを時速110kmに加速し、距離13mを跳躍するなど、並の精神力ではないと思うが、それだけではなく、肉体の丈夫さも必要なんですなあ。

灰原の存在感、少年探偵団の活躍に加え、コナンくんのすごさも実感できる『天国へのカウントダウン』である。

20年経っても名作と呼ばれるのもナットク。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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