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米新型コロナで初の死者 介護施設でも感染爆発か 市中感染も続々「隔離や都市封鎖に効果なし」専門家

飯塚真紀子在米ジャーナリスト
アメリカ西海岸では感染経路が不明の市中感染が続々確認されている。(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカで、新型コロナウイルス感染による初の死者が確認された。

 亡くなったのはワシントン州に住む50代の男性で、持病があった。保健当局によると、旅行を通じて感染した証拠はない。ワシントン州は「非常事態宣言」を発令、感染爆発に備えて、州のリソースを必要な新型コロナ対策に注ぐ予定だ。

 また、ワシントン州の介護施設では、ヘルスケアワーカーと70代の女性にも陽性判定が出た。介護施設の108人の入居者中約27人に、また、180人のスタッフ中25人にも感染の症状が見られ、現在、検査中だ。

「多くの高齢者が住むこの環境での感染爆発を非常に懸念している。検査キット不足と検査対象に縛りがあることから、感染者の発見が遅れた。もっと早期に検査できていれば、もっと早期に患者を見つけられただろう」

と同州保健当局は話している。

 アメリカでは、2月26日(米国時間)、初めて、渡航歴がなく、渡航者や感染者とも接触していない感染経路不明の感染者が、カリフォルニア州ソラノ群で確認されたが、2月28日には、カリフォルニア州サンタクララ群でも、同様の感染者が確認された。感染者は持病を持つ高齢の女性だ。

 さらに、オレゴン州ポートランドでは小学校の職員の感染が、ワシントン州ではハイスクールの学生の感染が確認された。どちらも感染経路が不明である。

医療関係者から感染という内部告発も

 カリフォルニア州では、これまでに34人の感染者が確認されており、この数はアメリカの州の中では最多だ。うち、24人が、米軍機で武漢から避難した人々で、7人が旅行で感染した人々、1人が伴侶から感染した人、2人が感染経路不明の感染者だ。

 アメリカで最初に感染経路が不明の感染者となった、カリフォルニア州ソラノ群在住の女性は、当初、検査対象となる条件(渡航歴があるか、渡航者や感染者と接触した人)に当てはまらないことから、ウイルス検査が4日も遅れ、現在重体だ。

 当局は、女性がどこから感染したのか感染経路を調査中で、現在、女性と濃厚接触したと考えられる人々を自宅隔離している。

 また、女性が入院している医療センターで勤務する、少なくとも124人の看護師や医療従事者も自宅隔離している。

 ちなみに、ソラノ郡には、武漢から退避した米国民が隔離されたトラビス空軍基地が立地している地域。そのため、同基地で隔離された人々に対応した医療関係者を通じて、感染が地域に広がっているのではないかという噂も流れている。

 基地に派遣された医療従事者たちが、モニターも検査もされることなく、基地の外で自由に行動できたことが、同地にウイルスを拡散したのではないかと訴える内部告発が起きたからだ。

 カリフォルニア州では、28日時点で、49の自治体が、アジアの国々から民間機で入国した約9380人以上の人々の健康観察を行っており、この数は日々増えている状況だ。

 ロサンゼルスの郊外のリバーサイド郡は、海外渡航から戻った約50人の人々を14日間、自宅隔離下に置いた。その多くが、中国からの帰還者で、症状を見せてはいなかったものの、1日2回体温測定するよう求め、職員が毎日コンタクトしたという。

都市封鎖は不可能、効果もなし

 アメリカでも日々増えていく感染経路不明の市中感染。

 専門家からは、アメリカでも、イタリアのようにあっという間に感染が拡大するという懸念の声が上がっている。

 そんな中、専門家たちが、米ニュースサイト「デイリー・ビースト」で、市中感染の防止策について見解を述べているので紹介したい。

 ヒーリックス・インターナショナルのチーフ医療オフィサー、エイドリアン・ハイズラー博士はこう話している。

「飛沫感染と接触感染で簡単に感染するため、ウイルスは非常に早く拡散します。特に、ニューヨークのような場所では、混雑した地下鉄や電車で、非常に急速に感染拡大するでしょう。隔離策は感染拡大防止の助けにはなりますが、ニューヨークのような都市で市中感染がすでに起きているとしたら、その時は、都市全体の封鎖を組織的に行うのはほとんど不可能で、ましてや効果もないでしょう。より効果的な解決法は、注意深く自分の健康観察を行い、症状が現れたら自主隔離しようなどの情報を人々に広めることです」

 CDC(米疾病予防管理センター)で勤務経験のあるUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の伝染病学准教授、ジェフリー・クローズナー氏はいう。

「ある場所から、突然、20〜30人の感染例が出るかもしれませんが、過度に心配する必要はありません。全ての人々に風邪ウイルスの検査をしたら、何十万人もの感染者が見つかります。コロナは風邪ウイルスであり、風邪は簡単にヒトヒト感染するものです。人々が濃厚接触しそうな冬は、風邪ウイルスに感染する人々の数が急速に増えます。クルーズ船での隔離は、おそらく、これまでで最も愚かなアイデアだったのです

 世界健康シンクタンク「アクセス・ヘルス・インターナショナル」社長ウィリアム・ハーセルタイン博士も、隔離や都市封鎖に反対している。

「コロナウイルスへの間違った対処法は隔離することです。渡航禁止や都市の封鎖は決して考慮すべきではない。インフルエンザの時、そんなことをしますか? しません。インフルエンザのようにコロナウイルスに対処するとしたら、都市の封鎖はありえない。渡航制限もありえない」

 伝染病の専門家、イーヤル・レスヘム教授は「社会距離戦略」と取るのが最善と訴える。

「隔離や旅行制限よりも、学校閉鎖、テレワーク、集会の中止、公共交通機関の閉鎖などの「社会距離戦略」(人と人との距離を開け、接触機会を減らす感染症対策)を取るのがベストでしょう。ある地域社会で、非常に伝染力のある疾病の伝染リスクが高まっている時、隔離はあまり効果的ではなくなります。なぜなら、患者が接触した全ての人々を辿ることは不可能だからです」

検査対象を拡大

 ところで、カリフォルニア州は最初に受け取った200人分のウイルス検査キットを使い果たしたため、1日最大1200人の検査ができるだけの検査キットをCDCから受け取る予定だ。

 また、CDCは、感染経路不明のソラノ郡の女性が確認された翌日、検査対象を、「感染経路は不明だが、コロナウイルスに感染した症状を示している人」に拡大した。日本も、検査対象を限定したままでは、ウイルス検査を受けられなかった感染者が4、5日後には重体となる、ソラノ郡の女性のようなケースも出てくるのではないか。

 サンフランシスコ市に続き、オレンジ郡、サンタクララ郡、サンディエゴ郡といったカリフォルニア州の自治体も「非常事態宣言」を発令した。検査対象の拡大に伴い、市中感染する人々の数が増えることが予測されるアメリカは「感染大国」にならぬよう準備を急いでいる。

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在米ジャーナリスト

大分県生まれ。早稲田大学卒業。出版社にて編集記者を務めた後、渡米。ロサンゼルスを拠点に、政治、経済、社会、トレンドなどをテーマに、様々なメディアに寄稿している。ノーム・チョムスキー、ロバート・シラー、ジェームズ・ワトソン、ジャレド・ダイアモンド、エズラ・ヴォーゲル、ジム・ロジャーズなど多数の知識人にインタビュー。著書に『9・11の標的をつくった男 天才と差別ー建築家ミノル・ヤマサキの生涯』(講談社刊)、『そしてぼくは銃口を向けた」』、『銃弾の向こう側』、『ある日本人ゲイの告白』(草思社刊)、訳書に『封印された「放射能」の恐怖 フクシマ事故で何人がガンになるのか』(講談社 )がある。

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