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SUGIZOが語る「異なるもの」の魅力―排外主義へ憤り、平和への想い

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
SUGIZOさん 撮影:田辺佳子

 国際情勢が荒れ、各地での紛争が深刻になる中、世界の難民は増加し続け、その総数は1億1730万人にも達しています(2023年統計)。その上、各国で排外主義が蔓延しており、日本も例外ではありません。以前から、日本は難民を難民として認定する数や割合が異常に低いことが指摘されてきましたが、それに加え、昨今ではクルド人難民に対するヘイトスピーチが深刻です。その根源にあるのは、「異なるもの」への偏見と反感でしょう。そんな中、LUNA SEA、X JAPANという日本を代表するロックバンドのカリスマ的ギタリスト/ヴァイオリニストであるSUGIZOさんにお話をうかがいました。様々なジャンル、世界各国の土着的な音楽を融合させる表現活動を続けているSUGIZOさんは「異なるもの」の魅力や、差別や暴力に対する憤り、平和への思いについて、熱く語りました。

*本稿は、theletter で志葉が書いた記事に加筆したものです。

 https://reishiva.theletter.jp/

〇国際平和デーで難民ミュージシャン達と共演

 今年9月21日、国連が定める国際平和デーに呼応したイベントとして、「PEACE DAY 2024」が催され、そこで行われたフリーライブで、SUGIZOさんは彼の長年の友人である谷崎テトラさん(作家/音楽家)とのユニット、S.T.K. (Sensual Technology Kooks)として、演奏を披露。そこに、紛争地からの難民ミュージシャン達が参加しました。SUGIZOさんのヴァイオリンが、谷崎さんの電子音響、ウイグル人の伝統的な弦楽器、コンゴ人の太鼓、アフガニスタン人の吹くフルートと、それぞれ全く異なるものが混然一体となり、正に平和を音楽で表現している―長年、中東諸国やウクライナ等の紛争地で取材を重ねてきた筆者は、このライブに強く心を揺り動かされました。

PEACE DAY 2024でのS.T.K.とTaiYouSymphonyのミュージシャンの共演 筆者撮影
PEACE DAY 2024でのS.T.K.とTaiYouSymphonyのミュージシャンの共演 筆者撮影

 独自の文化や自由を中国当局に厳しく抑圧されているウイグル、「アフリカ大戦」とも呼ばれた世界最悪レベルの人道危機の後、今なお情勢が混迷し続けるコンゴ、長年の内戦と米軍による侵攻の後に発足した政府が崩壊、イスラム原理主義組織タリバンが統治するアフガニスタン。これらの国・地域から逃れてきたミュージシャン達とどのようにして出会ったのでしょうか。SUGIZOさんは「TaiYouSymphony -太陽交響曲- という団体のプロジェクトで『地球音楽食祭』という地球上の色々な民族が集まって、音楽と食を一緒に楽しむ、すごく素敵な企画があって、そこに僕とテトラさんも参加したんです」と語ります。「ただ、僕は彼らが難民だからというより、彼らの才能や技術が評価できるから一緒にやっているんですよね」(同)。

PEACE DAY 2024でのSUGIZOさん 撮影:田辺佳子
PEACE DAY 2024でのSUGIZOさん 撮影:田辺佳子

コンゴのミュージシャン達 撮影:田辺佳子
コンゴのミュージシャン達 撮影:田辺佳子

〇異なるものがまざって素敵な幸福感を産む

 それぞれのルーツに根ざした音楽の魅力について語る、SUGIZOさんはとても楽しそうです。

 「コンゴというか、アフリカといっても様々な民族がいるわけで、一つにまとめて話すのは難しいのですけど、全般的に、いい意味で野性的。灼熱の大地のグルーブを感じます。多分、音一発で何キロ先まで響かせなきゃいけないような状況もあっただろうし、音の通りの違いというか、アフリカでしか感じ得ないグルーブが僕は大好きで。ウイグルの方は、やはり広い大地を感じさせるのだけど、もっと凍てついた感覚があって、それはアフリカのグルーブとは全く違うのだけど、大好きです。アフガニスタンはやはり中東音楽なのですが、同国から来たジャムシットは西洋の楽器であるフルートを吹いて、それが自分のルーツを反映した西洋の吹き方とは違う吹き方をしていて、非常に面白いです」(SUGIZOさん)。

ウイグルのミュージシャン達 撮影:田辺佳子
ウイグルのミュージシャン達 撮影:田辺佳子

 全く異なる文化をルーツとするミュージシャン達と共に演奏、それぞれの良さを引き出すことができるのは、SUGIZOさんが、様々なジャンルを自身の表現に取り入れてきた、長年の経験があるとのこと。

 「僕は元々、クラシックのヴァイオリンから音楽を始めて、そこからジャズにハマったり、テクノにハマったりしながら、(米国ロック界の異才の)フランク・ザッパにハマった。1997年に初めてソロアルバムを出した時も、激しいギターリフやドラムンベースに琴や雅楽の笙(笛の一種)を取り入れていました。様々な音楽の要素を共存させ、混在させるのがすごく好きなんです。僕は、ジュノ・リアクターというイギリスのサイケデリックトランス・バンドにも、10年程メンバーとして関わっていたのですが、サイケデリックトランスというのは民族的な要素も強い音楽で、ジュノ・リアクターもリーダーはイギリス人なんだけど、南アフリカ人やインド人のメンバーもいて、バンドがブルガリアに行った時は、地元のブルガリア人のアーティストとセッションしたりしました。そうやって、様々なルーツを持った民族文化と音楽を介して、ずっと渡り合ってきたから、異なるものがまざって素敵な幸福感を産むことっていうのは、僕にとっては、ごくごく当たり前というか、自分の音楽の作り方になっています」(SUGIZOさん)。

ウイグルのミュージシャン達 撮影:田辺佳子
ウイグルのミュージシャン達 撮影:田辺佳子

〇受け継がれる坂本龍一さんの遺志 

 音楽や社会への向き合い方でSUGIZOさんが影響を受けたのが、世界的な音楽家である坂本龍一さんなのだそうです。 

 「僕の音楽のつくり方の師匠が、坂本龍一さんなんです。坂本さんはテクノ曲の中に沖縄の民謡が入ってきたり、日本の和楽器とクラシックを融合したりされてきた。僕とテトラさんは、坂本さんと一緒に活動する機会もあって。青森県の六ヶ所村で建設・稼働される核燃料再処理施設がこれは危険なのではないかと、2005年当時、坂本さんを中心に僕ら音楽関係者が動き始めたんです。最初に、坂本さんが自身が作られたトラックにラッパーのShing02さんのラップを乗せたものを発表して、僕ら含めあらゆるアーティストに『この楽曲のデータ権利を解放するので、ここからさらにリメイク・リミックス・再構築して、どんどんこのメッセージを発信してください』とおっしゃった。その楽曲を元に、S.T.K.がリビルドした曲が、『Rokkasho』なんです。今は、S.T.K.は坂本さんの音源を使っていないのですけども、坂本さんの意識は、今も僕達の音楽に入っていると思います」(SUGIZOさん)。

 これ以後、S.T.Kとして、一貫して音楽を通じて「反戦」「反核」「環境保護」のメッセージを呼びかける活動をおこなってきたSUGIZOさんと谷崎テトラさん。その楽曲「FEELING」のミュージックビデオが、2023年、ドバイで開催された COP28(国連気候変動枠組条約締約国第28回会議)のDA4C(デジタルアートフォークライメート)の参考作品として上映され、世界最大の環境アクションデー「アースデイ(地球の日)」のグローバル・アンバサダーにSUGIZOさんが選ばれる等、日本国内のみならず国際的にもメッセージを発信しています。 


〇音楽を介して、どんな民族でも国でも友達になれる

 日本において、とりわけメジャーな音楽シーンにおいて、"ミュージシャンは政治に関わるべきではない"、"戦争や平和、環境問題等について発言するな”という様な、おかしな風潮がありますが、その中にあって、SUGIZOさんは、この世界の現実に最も向き合っている日本のトップミュージシャンの一人でしょう。SUGIZOさんは、イラクやパレスチナの難民キャンプで演奏し、イラクの小児がん・白血病の子ども達への医療支援等を行っている日本イラク医療支援ネットワークのキャンペーンにも協力し続けています。ウクライナ関連でも、来日した同国の人気バンドのKAZKAと共にライブを行ったり、日本に逃げてきたウクライナ避難民の人々を自身の公演に招待してきました。

SUGIZOさんとウクライナのバンドKAZKAの共演 2023年7月 撮影:藍沙
SUGIZOさんとウクライナのバンドKAZKAの共演 2023年7月 撮影:藍沙

 様々な異文化を音楽として融合し、実際に現場にも足を運び、紛争地の難民の人々と触れあってきたからこそなのか、SUGIZOさんは、今、世界でますます深刻化している暴力、日本でも蔓延る差別に対し、憤りを感じていると言います。

 「当然だけど、肌の色が違っても同じ人間だし命の重さも同じだし、僕は違いが全く嫌じゃないんですね。世界中には違いが嫌で憎しみあったりすることもあるのだけど、僕は理解できない。日本でも埼玉のクルド人の人々への差別が広がっていますけども、勿論、中には悪い人もいると思うけれど、それは何人であっても同じだし、何人であってもルール違反は駄目だけど、その民族の全員がマイナスの見方をされるのは、やっぱり僕としてはいかがなものかと思うんですよね。肌でも民族でも信仰、考え方でも勿論、自分と違うことで、相手を罵倒するように、殺すようになっちゃいけない。違ったら違ったで、それを認識しながら共存できないわけないし、もし、共存できないのなら、距離をおけばいいので。今、イスラエルとイランが戦争しそうになっていますけど、ごく一部の指導者達の、1%の人間達のプライドとかのために、99%の人々が傷つくことはあってはいけないと思うので、やはり、日本も含めて国際社会が動くべきだと、強烈に、心から思っています」(SUGIZOさん)。

SUGIZOさんと谷崎テトラさん(写真中央)とTaiYouSymphonyのミュージシャン達 撮影:田辺佳子
SUGIZOさんと谷崎テトラさん(写真中央)とTaiYouSymphonyのミュージシャン達 撮影:田辺佳子

 「音楽を介して、どんな民族でも国でも友達になれると、僕は思います」と語るSUGIZOさん。名実共にトップミュージシャンの発信を受け止めて日本の音楽シーン全体が変わっていければ、それに感化された日本全体もより多様性が尊重され、平和をつくっていく上で、世界に貢献していけるような国になっていければ、それは非常に素晴らしいことでしょう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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