「〆のきしめん」は名古屋グルメの新トレンドになるか!?
大人気店のきしめんがサービスでつく居酒屋が登場!
“きしめん離れ”とも呼ばれた一時の低迷期を脱し、ここ数年人気急上昇中の名古屋名物、きしめん。当サイトでも新店舗「星が丘製麺所」のブレイク、冷たいきしめんのブームの兆しなど、きしめんを取り巻く新たな動きをくり返し紹介してきました。
そして、きしめんの可能性をさらに広げる食べ方が登場! “〆のきしめん”です。
この“〆のきしめん”を味わえるのが先ごろオープンした「天ぷら食堂たもん」(名古屋市千種区)。夜の居酒屋営業時には、きしめんが〆の一品として何と無料でついてくるのです(!)。しかも、麺とつゆは「星が丘製麵所」製。連日行列ができる話題の店とのコラボです。
「酒場できしめん」にマッチする新しい提供スタイルをひらめく
「『星が丘製麺所』のきしめんを食べて、ダシにも麺にも衝撃を受けた。“これぞ新しい時代のきしめんだ!”と思ったんです」とオーナーの川島直樹さん。さらに「“酒場できしめん”という新しい食文化をつくりたい、という『星が丘製麺所』の“きしめん愛”にも感銘を受けました」といいます。
川島さんは名古屋市内に複数の居酒屋を出店。今回の新店はもともと「星が丘製麺所」共同経営者の衣笠太門さんが「うどんや太門」として営業していた物件で、“うどん酒場”というこれまで名古屋になかったスタイルで人気を博していました。同店の“うどん、きしめんで〆る”という様式美を継承しつつ、「星が丘製麺所」のきしめんを活用するという方針から業態開発がスタート。川島さんは、これまでにない方法できしめんを提供する、新しいスタイルの店をつくろうと考えました。
「そば居酒屋という業態がある通り、そばは日本酒と相性がいい。でも、きしめんはつまみになりにくく、お酒を飲みながら食べるのはイメージしにくい。頭を悩ませていた時にふと“お通しの替わりに〆のサービスとして出せばいいんだ!”と思いつきました」(川島さん)。
居酒屋では最初にちょっとしたおつまみが出て、その分をお通し代として300円ほど上乗せされるのが一般的。これは実質的な席料で、お客からすると注文もしていない一品が自動的に出てくるのを不満に感じる人もいます。「喜んでもらえないお通しを出すくらいなら、最後にきしめんを出した方がおトクに感じてもらえると考えました」(川島さん)。
〆のきしめんはちょっと小ぶりの丼入り。つゆは冷たい“ころ”(冷たいつゆをかけたきしめん、うどんを指す名古屋特有の表現)で、さっぱりした白醤油ベース。幅広の麺はつやつやもっちり。するすると食べやすく、後味はさっぱり。まさに飲んだ後の〆にぴったりです。
「きしめんを名古屋のソウルフードに」の野望に一歩近づく(?)
この麺とつゆを供給しているのが「星が丘製麺所」。昨年5月の開業以来、行列ができる店としてにぎわっていますが、一繁盛店をつくるのが目的ではなく、創業のテーマは「きしめんを今一度名古屋のソウルフードにする」こと。職人でなくてもおいしく調理できる冷凍麺を製造し、きしめんスタンドのチェーン化や既存の飲食店のメニューとしてきしめんを広めていくことを目標に掲げています。
アンテナショップという位置づけのイートインショップがあまりに人気沸騰したため、麺の製造・流通が追いつかなくなっていたのですが、「天ぷら食堂たもん」の“〆のきしめん”は、「星が丘製麵所」の本来の目的に見事にマッチした提供法といえます。
「お客さんは100%召し上がってくださいます。きしめんをいらない、とおっしゃる方はこれまで1人もいません」と店長の林卓朗さん。実際に意見を求めても「コシがあっておいしい!普段はきしめんをあまり食べないけど〆のきしめん、いいんじゃないかな」(30代・男性)、「星が丘製麺所は何度も食べに行ってます。昼食として食べるのとはちょっと違ったおいしさに感じるね」(60代・男性)とお客の反応も上々です。
伝統あるきしめんが拓く、名古屋の新たな食文化に
一方で、「星が丘製麺所久屋大通店」では「おいしいきしめん屋さんだと聞いて来たので、きしめんだけ食べました。お酒やつまみもあるんですね」(30代・女性)という声も。きしめんはもともとうどん店で食べるもので、昼食需要が大半を占めてきました。当のうどん店につまみや酒類を豊富にそろえた店はめったになく、昼営業だけのところも少なくないほど。飲んだ後の〆にきしめんを味わう、という楽しみ方は、名古屋人の間でもまだなじみのない新しいグルメのスタイルなのです。
しかし、だからこそ“〆のきしめん”は、きしめんを食べる機会、マーケットを広げるポテンシャルを秘めていると考えられます。
「そば居酒屋、うどん居酒屋は大都市圏では増えてきていますが、“〆のきしめん”、きしめん居酒屋の長所は、やはりきしめんが名古屋名物であること。地元客だけではなく観光客のウケもよいはずです。何年か後には『ケ〇ミンSHOW』で“愛知県民は飲んだ後にきしめんで〆る”と特集されるようになるといいですね(笑)」と「星が丘製麺所」の衣笠さん。「天ぷら食堂たもん」オーナーの川島さんも「今後、自社の他の業態でも提供する可能性もある。他の飲食店にも広がって、名古屋の食文化として定着すると面白いんじゃないでしょうか」といいます。
伝統ある名古屋めし、きしめんが拓く新たな食文化。つるつるさっぱりと食べられる“〆のきしめん”が名古屋じゅうで食べられるようになることを期待しましょう!
(写真撮影/すべて筆者)