信長・秀吉・家康になりたい人が年々増加。史上初・30代三英傑で若返る「名古屋まつり」はどう変わる?
信長・秀吉・家康になりたい! 応募者は3年連続史上最多を更新
「第70回名古屋まつり」が10月19日(土)、20日(日)に開催されます。1955(昭和30)年に始まった名古屋まつりは、伝統ある山車や華やかなパレードが行進しながら名古屋市中を彩り、市内各所で様々なステージイベントなどがくり広げられる名古屋で最大級のおまつり。例年およそ150万人もの人が参加、見学のためにくり出します。
一番の目玉は郷土英傑行列。名古屋にゆかりのある戦国時代のヒーロー、三英傑=織田信長・豊臣秀吉・徳川家康を中心とした行列が、豪華絢爛な歴史絵巻となって市内中心部をねり歩きます。パレードは、先行するフラワーカーパレードなどを含むと総勢およそ1000人にもおよびます。
このような歴史行列では、芸能人が主役を務めるケースも少なくないのですが(2022年の「岐阜信長まつり」で木村拓哉さんが信長に扮して大フィーバーを巻き起こしたのは記憶に新しいところ。2023年の静岡県「浜松まつり」では俳優の松本潤さんが家康公騎馬武者行列に参加)、名古屋まつりは一般公募により選ばれるのが基本。応募条件は、名古屋市在住か在勤の25歳以上であることのみ。性別、国籍も不問です。郷土の英雄になりたい!と夢見る人は多く、ここ3年間の応募者は100名以上と毎年史上最多を更新しています。
3人そろって30代は史上初! フレッシュな今年の三英傑
今年の三英傑の記者発表は、まつりのおよそ一ヶ月前の9月17日。織田信長に松井健斗さん(30歳)、豊臣秀吉に森川功脩さん(36歳)、徳川家康に永井伸樹さん(37歳)が選ばれ、お披露目されました。
この新・三英傑の顔ぶれに名古屋まつりウォッチャーは「おぉッ!」と色めき立ちました(私だけ?)。それはかつてない異例の特徴をもつ3人だったから。その特徴とは「若い!」こと。3人がそろって30代というのは筆者調べでは史上初めてです。
歴代三英傑は40~60代が中心。その理由とは・・・?
筆者はゆえあって過去の三英傑の年齢的傾向を独自に調べていました。主な特徴、傾向は次の通りです。
■ 織田信長 / 平均年齢47・7歳 最年少27歳 最年長67歳
■ 豊臣秀吉 / 平均年齢50・5歳 最年少29歳 最年長64歳
■ 徳川家康 / 平均年齢54・1歳 最年少37歳 最年長71歳
(1973年の公募制導入以降の年齢が公表されている年のデータから算出)
各英傑役の年齢には、それぞれの没年齢が反映されていると思われます。3人の享年は信長49歳、秀吉62歳、家康75歳(数え年)。多くの人がまず思い浮かべるのは、肖像画でも知られている高齢時の姿です。選考も英傑それぞれのイメージに合っているかが重要な要素になると思われるので、おなじみの肖像画に近く、殿様らしい威厳や風格を兼ね備えた40~60代が選ばれることが多いというわけです。
若返りに名古屋市の意図はあったのか?
そんな中、今年は大役を射止めた3人がすべて30代。一気に若返りが印象づけられました。主催する名古屋まつり協進会(名古屋市の各部署を中心に構成)にも若返りを図ろうという意識があったのでしょうか?
「審査員のおひとりおひとりの観点から三英傑を選出しており、郷土英傑行列の庶務担当である当方は、選考のポイントや決め手などについては把握していませんし、判断基準も設けてはいません。そのため、若返りを図るといった意図はありません」とは名古屋市財産管理課担当者。審査員は外部の有識者らによって編成され、名古屋まつり協進会としては選考にはタッチしていないとのこと。今回はたまたま各英傑の候補者のうち最適な人材がそろって30代だった、ということのようです。
女・信長&秀吉にドラ戦士英傑! 郷土英傑行列トリビア
ここでちょっと箸休め。名古屋まつり郷土英傑行列に関するトリビアを紹介しましょう。
【初期の三英傑は市政功労者からの選出だった】
1955(昭和30)年の第1回~1972(昭和47)年の第18回までは三英傑は市政功労者・・・区長や地元企業の偉いさんなど、いわゆる地元の有力者、名士から選ばれていました。一般からの公募制になったのは1973(昭和48)年の第19回から。以降も地元企業の社長などの応募は少なくなく、三英傑に選ばれるのは大変名誉なことでした。
【三英傑とペアを組む姫役は地元百貨店から選出】
信長には濃姫、秀吉にはねね、家康には千姫(ここだけ妻ではなく孫娘)の姫がペアを組みます。この三姫は例年、濃姫=三越、ねね=ジェイアール名古屋タカシマヤ(以前は丸栄)、千姫=松坂屋の女性社員から選ばれます。地元では広く知られていることですが、100名前後で構成される各英傑の隊全体も各百貨店が提供していることは意外と知られていないのでは?
【ドラゴンズOBが三英傑に!】
2004(平成16)年は、名古屋まつり第50回を記念して中日ドラゴンズOBが三英傑に。信長を谷沢健一さん、秀吉を彦野利勝さん、家康を今中慎二さんが演じました。ちなみに三姫も何度か女性タレントが務めたことがあります。
【有名人は三英傑になれない(!?)】
三英傑を著名人が演じたのは上の第50回のみ。「名古屋在住・在勤の25歳以上」が応募条件の公募制で、地元タレントなどが応募することも。名古屋のご当地タレントのきくち教児さん(日テレ『ズームイン!!朝!』のレポーターなどで活躍)、映画の名脇役として知られる俳優の神戸浩さんも応募したことがありますがいずれも落選。「売名行為と勘ぐられたのかも?」とはきくちさんの弁。
【歴女ブームで女性が英傑に】
名古屋まつり70年の歴史の中で、一度だけ女性が英傑に選ばれたことが。2014(平成26)年の第60回名古屋まつりで、信長、秀吉を女性が演じました。女性が英傑役になったのは後にも先にもこの一度、この2名だけ。2000年代半ばから沸き上がった歴女ブームを象徴する事象のひとつといえるかも。
【史上最年少12歳の姫役は女子アナに】
家康とペアを組むのが千姫。例年、松坂屋の女性社員が演じるのが基本ですが、2014(平成26)年の第60回では、当時中学1年生、12歳の地元出身のアイドルが抜擢されました。元・千姫こと犬塚しおりさんは今年、アナウンサーとして名古屋の東海テレビに入社。奇しくも姫役から10年後の今年、先導車に乗って郷土英傑行列の解説を担当します(10月19日)。
新たな見どころ、史上初の揃い踏みパフォーマンス
三英傑の若さ以外にも、今年の名古屋まつりにはいくつかの変化があります。まず、三英傑と三姫が搭乗するフロートのリニューアル。三英傑の各隊を担当する百貨店がデザインしたものが新調され、行列がより映えるものになりそうです。
続いて、三英傑・三姫のそろい踏みのパフォーマンス。19日・20日両日とも、行列の出発時に、6人が勢ぞろいしたパフォーマンスが行われます。これまでは信長、秀吉、家康の各隊は順番に出発して、行列中に全員がそろうことはありませんでした。まつりの主役が顔をそろえるこのパフォーマンスは、絶好の映えポイントになることでしょう。
他にも、9輌の山車が城下町のメインストリート・本町通を64年ぶりに曳行される「本町通山車揃(だしぞろえ)」など、第70回にふさわしいみどころも盛りだくさんです。
三英傑OBもフレッシュな新・三英傑を評価
さて、主催者が意図していないことだったとはいえ、これまでミドル世代以上が大半だった郷土英傑行列の三英傑がグッと若返ったことは確か。三英傑経験者によるOB会、その名も英傑会の会長、鈴木貞夫さん(2013{平成25}年第59回名古屋まつり・秀吉役)はこう評価します。
「名古屋まつり開催に先駆けて、私たち英傑会のメンバーと一緒に新・三英傑の皆さんと熱田神宮を参拝しましたが、3人とも長身でスタイリッシュ。並んで歩くと人目を引き、市民の呼びかけに早速手をふったり握手をしたりと、気さくで礼儀正しい若者でした。名古屋まつり当日も、郷土英傑行列は大いに盛り上がることうけあいです!」
若者世代の参加でまつりの継承・発展のきっかけに
若い三英傑が新時代の名古屋まつりのきっかけとなる。そんな期待感は、信長役・松井健斗さんの言葉に象徴されます。
「小学生の頃に見た名古屋まつりの三英傑の姿が原体験となり、かねてから30歳になったら郷土英傑行列の信長に挑戦しようと決めていました。『名古屋を若者の力で盛り上げる街にする』が私の信念。『名古屋の若者が立ち上がって動き出した』、その象徴や合図となれるよう、全身全霊を込めて名古屋の地を駆け巡ります!」
全国の祭礼や伝統行事にとって共通する最大の課題は後継者です。まつりを担う人々の高齢化が進み、行事自体が休止となってしまうケースも決して少なくありません。若い世代が参加し、引き継いでいくことが、まつりの継続、発展にとって何より重要な要素といえます。その意味でも、名古屋まつりのフレッシュな三英傑は頼もしい限り。主催する名古屋まつり協進会も「若返りは意図したものではなくプラス効果を狙ったものではないが、今後の三英傑応募状況の変化を注視したい」といい、来年以降、若い世代の英傑候補が増えることが期待されます。
また、郷土英傑行列の沿道の観客は、英傑役の身内や友人も多くを占めるといいますから、今年は観客の平均年齢もグッと下がりそうです。それをきっかけに若者や子どもたちがまつりに興味を抱くようになれば、その思いは来年以降にもずっとつながっていくはず。若くてりりしい殿様たちはもちろんのこと、沿道の若い熱気も合わせて楽しむことができそうです。
(ちょっと手前味噌ですが、筆者の著書『英傑会の謎 名古屋まつりを彩る郷土三英傑』(風媒社)がこのほど刊行されます。上記のトリビアのような知られざるまつりの舞台裏が満載。名古屋まつり、郷土三英傑についてもっと知りたい!という方はご覧下さい)
※写真は名古屋市、英傑会、犬塚しおりさん提供。巻頭の三英傑と審査書類の写真は筆者撮影