コメダも参戦!「冷たいきしめん」がブームの兆し
「きしころスタンプラリー」できしめん人気復権!
「きしめん離れ」といわれて久しかった名古屋名物・きしめん。しかし、この夏は一転、ブーム本格到来の兆しが! 夏の風物詩となった食べ歩き企画、大人気店の新店オープン、さらにあのコメダ珈琲店も姉妹ブランドで「冷やしきしめん」を発売。つるつるとおいしいきしめんを食べたくなる話題が目白押しなのです。
近年のきしめんV字回復の原動力となっているのが「きしころスタンプラリー」(参加店など詳細はリンク先参照)です。これは名古屋市内のうどん店を中心とした食べ歩きイベント。今年で8回目で、例年30~40店舗が参加しています。ちなみに“きしころ”とは冷たいつゆをかけたきしめんを指す名古屋特有の呼び方です。
「10年ほど前まではきしめんを食べる人は減る一方でした。他県から来る人は駅のホームの立ち食いきしめんで満足してしまい、店からすると手間がかかる割に売れないので、きしめんをやめてしまう店もあったほどです」と「みそ煮込の角丸」(名古屋市東区)3代目の日比野宏紀さん。そんな状況に危機感を抱いて、2015年にスタートさせたのがこのスタンプラリーでした。
「きしめんは“ころ”が一番うまい! 一番おいしく食べられる夏にいろんな店を巡ってもらおうと企画しました。ひと口できしめんといっても、大半の店は自家製麺なので幅も厚みも食感も違う。食べ比べることで店ごとの個性や、きしめんの多彩な魅力も知ってもらうことができると考えました」と日比野さん。きしめんは幅が広い分、舌の上をぺろぺろっと滑らかにすべる独特の食感に魅力があります。冷たいと麺がしまってそんな食感をより実感しやすくなる、それがきしめんは“ころ”が一番うまいという理由です。
その魅力が徐々に伝わって、ラリーを回るお客はじわじわと増え、昨年はコロナ禍にありながら過去最多に。5店舗を回ると進呈される食事券の配布枚数が、例年100~200枚台だったところ380枚以上を記録しました。
このスタンプラリーの効果もあって、かつては売れなくて悩みの種だったきしめんは、今や各店の主力メニューに返り咲き。ラリー参加店に尋ねると、ほぼすべての店がラリー以前よりきしめんが売れるようになったといい、大半の店が年間を通してうどんよりもきしめんの方が売れるようになったともいいます。
爽やかな“すだちきしころ”が今年の目玉
今年のスタンプラリーの目玉はすだちきしころ。徳島県産すだちを使ったメニューが、参加店40店舗中26店舗で8月1日から提供されます。
「柑橘系のすだちできしころがよりさっぱり食べられ非常に相性がいい。また、すだちはやや苦味があるんですが、名古屋のきしめんはダシに風味の強いムロアジを使うので、お互いが負けることなく主張してこれもまた相性がいいんです」と日比野さん。各店のすだちメニューはほとんどが今年のラリーのために開発された新作。毎年参加しているユーザーも初体験のメニューを味わえ、新たな楽しみが加わりました。
いち早く新作すだちメニュー「幅六きしめんの温がえし」を売り出しているのは1888(明治21)年創業という名古屋屈指の老舗「森田屋」(名古屋市東区)。「白醤油のつゆと柑橘類が不思議と合うんです。つゆはあえて温かく。麺は通常のきしめんの6割程度に細くして食べやすく。お腹に優しく、夏バテの時でも食べやすいですよ」と4代目の玉津亮さん。
「晴れの日名古屋飯 七フク」(名古屋市中区)は今年5月にオープンし、スタンプラリー初参加。レモンを乗せたレギュラーメニューの寿老人を、8月からはすだちトッピングにアレンジして提供します。「すだちはレモンと比べて酸味がおだやか。よりさっぱり召し上がっていただけます」と店主の塚原美奈子さん。
大ブレイク店「星が丘製麵所」が都心部にニューオープン
昨年の「きしころスタンプラリー」の人気をけん引したのが「星が丘製麵所」です。この年5月にオープンした同店は、インパクトのある幅広麺、カフェのようなおしゃれな店づくり、そして何よりつややか&もっちりした麺のおいしさで行列ができる大ヒット店に。同店で配布されたスタンプラリー台紙は実に1000枚。この店でラリーを知り、他の店にも足を運んだお客も少なくありませんでした
大ブレイクを果たしたこの話題の店が、今年のスタンプラリーにタイミングを合わせるかのように6月30日、2号店をオープン。しかも名古屋の中心部・栄エリアに進出を果たしました。
「1号店では、若い女性の2人組など、麺類食堂ではこれまで見られなかった層の方にもたくさん来ていただけました。2号店は名古屋駅にもグッと近づいたので、市外・県外の人にも足を運んでもらいやすくなりました」と共同代表の堀江高広さん。
同店の一番の人気メニューが「太門」と名づけられたすだちきしころ。他県の人がきしめんと聞いてまず思い浮かべる茶褐色のたまり醤油ベースの温かいつゆではなく、透明感のある白醤油ベースの冷たいつゆが特徴。すっきりしてすだちの爽やかさがいっそう引き立ちます。
地元の人でもこの清涼感あふれるきしころには、これまで味わったことのない驚きを感じるはず。この店が1号店と同様に連日にぎわえば、「きしめん、おいしい!そして流行ってる!!」という評判が広がり、昨年からじわじわ盛り上がっていたきしめんブームがいよいよ本格化しそうです。
コメダの姉妹ブランド「おかげ庵」でも「冷やしきしめん」の新作が
そして、盛り上がりつつあるきしめんシーンにさらに大きな動きが。あのコメダ珈琲店も新たな冷たいきしめんを売り出したのです。
きしめんをメニューに採用しているのは姉妹ブランドの「コメダ和喫茶おかげ庵」。この夏、レギュラー商品のざるきしめんに加えて、3種の冷やしきしめんの季節限定販売を始めました。
「季節限定の3品はすべて新開発メニューです。4月のメニュー改定の際に麺のブラッシュアップを図り、つるっとしたのどごし、小麦本来の風味をより感じられるようになりました。冷やしきしめんだと麺がキュッとしまって、この麺の魅力をより感じていただけます」とマーケティング本部の八反田麻莉子さん。
4月以降、食事類の販売数が伸びたといい、この業績アップにきしめんも少なからず貢献しているよう。「冷やしきしめん」メニューの強化は売れスジ商品をよりプッシュしていくための戦略というわけです。
実食してみると、麺はのどごし滑らかな上にもっちり感もあり、非常にするすると食べやすい印象。筆者はメニュー改定以前のきしめんも食べたことがありますが、確かによりおいしく進化していました。すだちきしめんはさっぱりしたつゆ、山菜おろしきしめんはやや甘めのざるつゆと使い分けるあたりにもこだわりを感じます。
冷たくておいしいきしめんが、いよいよいたるところで食べられるようになっているこの夏の名古屋! ひんやりうみゃ~きしめんを求めて、名古屋および周辺地域を是非食べ歩いてみてもらいたいものです。
(写真撮影/すべて筆者)