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「政治とカネ」の問題に特捜部の介入を許すようでは日本政治はまともにならない

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(726)

極月某日

 自民党の政治資金パーティが連日メディアで取り上げられ、中でも最大派閥の安倍派と党内きっての親中派である二階俊博氏が率いる二階派の資金集めに違法性があると報道されている。

 そうした報道は東京地検特捜部のリークによる。メディアはそれに乗せられているに過ぎない。東京地検特捜部のリークは岸田政権の意向に逆らうものではなく、むしろその意向を忖度するものだというのが、ロッキード事件以来「政治とカネ」の検察捜査を見てきたフーテンの見方である。

 このところの検察による「政治とカネ」の摘発にフーテンは政局がらみの臭いを感じてきた。幕開けは洋上風力発電を巡る汚職事件である。来年の自民党総裁選挙で岸田総理の最大のライバルとみられる河野太郎衆議院議員の右腕と言われた秋本真利衆議院議員が9月7日に受託収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕された。

 秋本議員は脱原発を主張する再生可能エネルギー推進派として知られ、河野議員の側近であると同時に菅義偉前総理とも大学の同窓であることから近い関係で、岸田総理にとっては来年の自民党総裁選を考える時、最も潰しておきたい側の一人だった。

 その秋本議員は「日本風力開発」というベンチャー企業から競走馬の購入資金の提供を受け、見返りに国会で洋上風力発電の入札に「日本風力開発」が有利になる質問をしたとして逮捕された。

 秋本議員が逮捕されたのは岸田総理が内閣改造人事を行う1週間前で、この逮捕を見てフーテンは改造人事の目的が来年の自民党総裁選を意識したライバル潰しにあるのではないかと思った。同時に国会質問が受託収賄の構成要件になるという点に疑問を感じた。

 民主主義政治の基本は、国民から支持を受けて当選した議員が、自分を支持した国民のために国会で質問するなど政治活動を行うことである。支持者はその政治活動を支えるため献金を行う。その献金を賄賂と考えるとすれば民主主義は成り立たなくなるのではないか。

 賄賂とは、行政府の官僚など権力を持つ者が利益を供与され、政策を捻じ曲げることを言う。それと同じことを立法府の議員に適用できるのか。例えば米国には議員に政策の変更を求めて働きかけを行うロビイストがいる。ロビイストは登録を行えば議員に資金を提供し政策の変更を求めても民主主義政治に必要な活動と看做される。

 ともかくフーテンは秋本逮捕を見て、岸田内閣の改造人事の目的を来年の自民党総裁選のライバル潰しと見たが、9月13日に行われた改造人事はフーテンの思った通りになった。ライバルになりそうな議員に要職を与えて反乱を起こさせないようにし、全ての派閥の要求をすべて受け入れ、そのためまったくインパクトのない人事になった。

 これでは支持率が上がるはずもないが、岸田総理の頭にあるのはそれよりも来年の総裁選挙で誰も対抗馬にならない状況を創り出すことだ。解散する気などさらさらない。来年の春闘で物価を上回る賃上げを実現すれば、「デフレから脱却させた総理」としてアベノミクスと共に安倍元総理の残像を消すことができる。

 解散はその後に考えれば良い。そう思わせる岸田総理の改造人事だった。すると次に起きた「政治とカネ」は、江東区長選挙でのインターネットを活用した公職選挙法違反事件と、それに絡む柿沢未途衆議院議員の江東区議会議員に対する選挙買収事件である。

 柿沢衆議院議員はそもそもは野党系議員で、それが菅前総理と近い秋元司元衆議院議員がカジノ汚職で逮捕されたため、自民党に入党して自民党議員になった。そして4月の江東区長選挙に自民党都連の推す候補ではなく木村弥生氏を担ぎ、安倍派5人衆の一人である萩生田光一都連会長と対立した。

 木村候補は柿沢議員からアドバイスされ、インターネットを使って選挙で投票を呼び掛けた。これが公職選挙法違反に当たるとして、10月24日に東京地検特捜部は江東区長室などを家宅捜索、木村区長は辞任に追い込まれた。柿沢議員もアドバイスの責任を取るとして31日に法務副大臣の辞表を提出した。

 柿沢議員は「違法だとは知らなかった」と述べたが、フーテンもインターネットを使った選挙活動が違法だとは知らなかった。政党がインターネットで投票を呼び掛けることは合法だが、個人は許されないというのである。これがフーテンには理解できない。公職選挙法が政党に有利で個人に不利にできているのはなぜか。

 さらにこの程度の事件で特捜部が家宅捜索に乗り出したことにも驚いた。安倍派の萩生田都連会長と谷垣グループに所属する柿沢議員の対立が背景にあるのかと考えてみたが、事件は別の方向に発展した。柿沢議員の陣営が江東区議らに「陣中見舞い」として現金を渡した選挙買収事件が明らかにされたのである。

 これは2019年に河井克之元法務大臣が妻の案里氏を参議院選挙で当選させるため、広島県の地方議員に幅広く金をばらまいた事件と似た構図である。あの事件は岸田総理が推す宏池会の溝手謙正参議院議員を安倍元総理が嫌い、溝手議員を落選させるため自民党本部から1億5千万円の資金を河井夫妻側に渡したことが明るみに出て大事件になった。

 河井元大臣から買収された地方議員たちは取り調べで検察から「受領を認めれば不起訴にする」と言われて受領を認めたが、買収した河井夫妻が起訴されたのに受領した側が不起訴はおかしいと批判され、検察が一転して起訴に踏み切るという捜査のおかしさを浮き彫りにした。

 しかも1億5千万円が誰の指示によって何にどう使われたのかも判然としないまま捜査は収束した。そして岸田総理の地元である広島県の自民党組織はズタズタにされた。そうしたことと関係があるのかどうかが分からないが、構図は似ていると言っても規模の小さな江東区の選挙買収事件に警視庁ではなく東京地検特捜部が乗り出すのは尋常ではない。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:3月31日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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