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イスラエルとハマスの戦争の裏にあるエネルギー資源争奪の真相

田中良紹ジャーナリスト

フーテン老人世直し録(728)

極月某日

 ガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスのイスラエルに対する大規模攻撃から2か月以上経ったが、まだ停戦の兆候は見られない。この間の報道は人道上の問題だけに集中し、戦争の真相に迫ろうとしない。

 ハマスの目的は、米国のバイデン大統領が実現させようとしたサウジアラビアとイスラエルの国交正常化を阻止することにあったとフーテンは見ていた。サウジアラビアが「交渉継続を凍結する」と表明したことで、ハマスの目的は一応達成された。

 一方のイスラエルはハマスの殲滅と捕虜の奪還を掲げ、ハマスに対する攻撃の手を緩めていない。それによってパレスチナの民間人に多大な犠牲者が出ているため、国際社会はイスラエルに厳しくパレスチナに同情的である。

 さらに国際社会はイスラエルだけでなく、イスラエル支持と人道的配慮の両方を主張する米国外交の欺瞞性を批判するようになった。米国の外交力の衰えを見透かすように、中国とロシアがイスラエルとハマスの停戦に乗り出す構えを見せている。

 これがイスラエルとハマスの戦争を巡る表の見方だ。そこに天然ガス・石油利権を巡る話は出てこない。不思議なほどに出てこない。しかしこの戦争の裏にはガザ沖に眠る莫大な天然ガス・石油利権の争奪戦があるという見方が存在する。

 まずフーテンがなぜそのような情報を得たのかを述べる。昨年2月24日にロシア軍がウクライナとの国境線を超えた時、西側世界では一斉に「帝国主義的野心に燃えたプーチンの侵略戦争」という報道が流れた。見事なほど一致した報道だった。

 しかし冷戦が終わった90年代初頭からワシントンに事務所を置いて米国議会を取材してきたフーテンは全く逆の見方をした。ロシア軍が国境を超えれば、国連憲章違反、国際法違反の責めを負うのはロシアのプーチン大統領だ。ただそうさせたのは米国のバイデン大統領である。フーテンには「バイデンの戦争」に見えた。

 バイデンは22年秋の中間選挙の敗北が必至だった。21年夏にアフガニスタンから一方的に米軍を撤退させ、国の内外から猛批判を浴びていたからだ。米国に裏切られた傀儡政権はたちまちタリバンに敗れ、米国の同盟国は米国が味方を裏切る国であることを知った。

 バイデンは撤退の理由を「中国との競争に備えるため」と言ったがそれも嘘だった。21年11月に「タイガーチーム」という組織が政権内に作られ、そこではウクライナ戦争が準備されていた。

 14年にウクライナの親露派政権がマイダン革命で打倒された時、プーチンはすぐにロシア海軍の拠点があるクリミア半島を武力制圧しロシアに併合した。その直後から米英は軍事顧問団をウクライナに派遣し、クリミア奪還のための訓練を指導する。

 ゼレンスキー大統領は21年3月に軍に対してクリミア奪還の指令を発し、東部ドンバス地方の親露派住民をドローン攻撃で殺害する挑発行為を行った。それをけん制するためにプーチンは国境付近に軍を集めて演習をやらせた。

 21年12月に行われた米露首脳会談で、プーチンはウクライナがNATOに加盟すれば、ロシアの安全が脅かされると主張した。しかしバイデンはNATOに加盟していないウクライナに米軍は出兵しないと発言し、ロシアが攻撃するなら今しかないと思わせた。

 ウクライナに米国の核攻撃基地ができれば10分もせずにモスクワに核爆弾が落ちる。それをロシアは防ぎようがない。キューバ危機でケネディ大統領が核戦争を覚悟したのと同じ状況にプーチンは置かれた。

 だからロシア軍が国境を越えた時、フーテンは「プーチンの戦争」ではなく「バイデンの戦争」だと思った。目的はバイデンが中間選挙に負けないためで、アフガン撤退の負の記憶を消すのにバイデンは新たな戦争を必要としていた。

 フーテンと同じ見方は日本では皆無だった。しかし米国シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授やフランスの人口学者エマニュエル・トッド氏は、フーテンと同じ見方で米国に責任があると主張したが、日本だけは「プーチンは悪」の金太郎飴だった。

 フーテンはプーチンが国際的非難を覚悟して軍に国境を越えさせたのはなぜかを考えた。思い出すのはイラク戦争である。大量破壊兵器を保有しているという理由で米国はイラクを先制攻撃したが、大量破壊兵器は見つからなかった。そしてこの戦争をフランスとドイツは強く反対した。

 日本でイラク戦争の真相は不明のままだ。フーテンはイラクのサダム・フセイン大統領がユーロで石油の決済を行おうとして米国の怒りを買い殺されたという見方をした。米国が世界を支配できるのは、ドルが石油決済の通貨だからである。サダム・フセインはそれを破り、ユーロで決済しようとして、見せしめに殺された。

 ウクライナに軍事侵攻したロシアを西側世界は経済制裁した。すると中国、インド、サウジアラビアがロシアの石油を大量に輸入し、経済制裁する欧州に売りつけるという現象が起きた。そのロシア産石油はドルで決済されない。ドルの基軸通貨体制は崩れ始めた。

 その頃フーテンはマリン・カツサ著『コールダー・ウォー』(草思社)という本を読んだ。それはエネルギー産業を対象にした投資ファンドマネージャーが、2015年のクリミア併合直後に米国で出版した本である。

 プーチンは米国のドル覇権を破壊するため着々と手を打っているという内容だ。そのなかにイラクのサダム・フセイン抹殺は米国がドル基軸体制を守るためだったと書かれていた。フーテンの見方が専門家によって裏付けられた。だとすればプーチンがウクライナ戦争を始めたのも、ドル覇権を崩すためだという仮説は間違っていないことになる。

 そしてその本には2000年にパレスチナのガザ沖で膨大な天然ガス田が米国企業によって発見され、それをイスラエルがロシアと組んで欧州に輸出しようとしていることが書かれていた。

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ジャーナリスト

1969年TBS入社。ドキュメンタリー・ディレクターや放送記者としてロッキード事件、田中角栄、日米摩擦などを取材。90年 米国の政治専門テレビC-SPANの配給権を取得。日本に米議会情報を紹介しながら国会の映像公開を提案。98年CS放送で「国会TV」を開局。07年退職し現在はブログ執筆と政治塾を主宰■オンライン「田中塾」の次回日時:11月24日(日)午後3時から4時半まで。パソコンかスマホでご覧いただけます。世界と日本の政治の動きを講義し、皆様からの質問を受け付けます。参加ご希望の方は https://bit.ly/2WUhRgg までお申し込みください。

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