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今期“ジャニーズ系ドラマ”の楽しみ方

碓井広義メディア文化評論家

ドラマを見るのは好きだけど、「ジャニーズ系の人たちが主演」と聞くと、急に引いてしまう大人の男性視聴者がいます。でも、それって、ちょっとモッタイナイ。今期のドラマにも、大人のオトコが楽しめる“ジャニーズ系ドラマ”があるのです。

ポイントの第1は、主役が、演技においても実績のある「嵐」のメンバーたちであること。第2に、秀逸な脇役たちの存在。そして、ドラマを支える巧みなストーリー・テリングです。

大野智の『世界で一番難しい恋』(日本テレビ系)

嵐の大野智(35)といえば、すぐ思い浮かぶのが「怪物くん」。まさかの実写化でした。あの怪物くん(1960年代後半、「少年画報」で読んでいました)を、一体誰が演じられるのかと思っていたら、なんと大野がピタリとはまってしまった。びっくりだ。

あれから6年。その可愛げのある“とっちゃん坊や”ぶりを、いかんなく発揮しているのが「世界一難しい恋」である。大野は、チェーンホテルの御曹司にして社長というポジション。仕事の上では冷酷な判断も平気なヤリ手だが、恋愛に関しては、短気で、わがままで、ジコチューな、いわば子供っぽい性格が災いして、成就したことがなかった。

そんな若社長が新入社員の波瑠(24)に恋をした。ホテルの仕事に夢と意欲を持つ彼女。実は大野が最も好きな「正義感の塊で世話好きな学級委員みたいなタイプ」だった。波瑠も、はじめは大野の気持ちに戸惑うが、その素顔に少しずつひかれていく。

このドラマのスパイスとなっているのが、大野に対する”恋愛指南”だ。指南役の一人は社長秘書(小池栄子 35)であり、もう一人がライバルホテルの社長(北村一輝 46)である。特に、ある時は慈母のごとく慰め、またある時は姉のように励ます小池のキャラが立っている。「モテ男は優しさを求めません。与え続けるのです!」といった名言が並ぶのだ。

指南役たちのアドバイスにやや翻弄されながら、すねたり、ふてくされたりする大野がおかしい。波瑠との距離感や関係の微妙な変化も丁寧に描かれており、日本テレビの“お家芸”の一つ、良質のラブコメディーになっている。

松本潤の『99.9―刑事専門弁護士―』(TBS系)

香川照之(50)が出ている「日曜劇場」にはハズレがない。「半沢直樹」「ルーズヴェルト・ゲーム」「流星ワゴン」、そして今回の「99.9―刑事専門弁護士―」然りだ。

主役は嵐の松本潤(32)。飄々としていながら、とことん事件を追究する弁護士、深山大翔(みやま ひろと)を好演している。どんなに逆転するのが難しそうな案件であっても、「事実が知りたいんです」と言って、まったくひるまない。同僚弁護士の榮倉奈々(お得な役柄です)、パラリーガルのマギー(出てくるだけで和む)や片桐仁(毎回の怪演に拍手!)などの力を借りつつ、その真相に迫っていく。

香川が演じる佐田は、深山が所属する刑事専門ルームの室長だが、本来は企業弁護のエキスパートだ。元検事で、かなりの野心家。超マイペースで暴走気味の深山にブレーキをかけたり、時には手柄を横取りしたりする。ハラに一物も二物もあるこの男を、香川は緩急自在の芝居で造形していく。

しかもここ数週で、18年前の事件の再審請求にからんで、佐田の過去が浮かび上がってきた。宇田学のオリジナル脚本は、しっかりした伏線とその回収が毎回見事だが、ドラマの後半戦に入ってますます冴えている。松本潤と香川照之の本格的な演技勝負もこれからだ。

そうそう、佐田が唯一言いなりになってしまう、というか尻に敷かれ気味の年下妻役、映美くらら(元・宝塚月組トップ娘役)がいい味を出している。もしかしたら、ズバリ!“ポスト檀れい”の出現、かもしれません。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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