ノーベル賞に「消された」早稲田大学の博士号取り消し決定~目をそらしてはならない
巷は2014年のノーベル物理学賞のニュースで湧いている。
そのニュースにかき消された感はあるが、同じ日、2014年10月7日に大きなニュースがあった。早稲田大学が小保方晴子氏の博士号を取り消すという決定をしたのだ。ただし、論文の再提出の機会、いわゆる「猶予期間」が与えられた。
早稲田大学の公式ホームページにまだ情報がアップロードされていないので、弁護士ドットコムのサイトに掲載されている資料から要点を引用させていただきたい。
早稲田大学は、調査報告書の事案認定を踏まえながらも、小保方氏が公聴会による実質的な審査の対象となった論文とは大きく異なる博士学位論文を提出したことは、研究者としてわきまえるべき基本的な注意義務を著しく怠ったものであり、これによって最終的な合否判定が行われたことは「不正の方法により学位の授与を受けた事実」に該当すると認定し、博士学位の取り消しを決定した。
ただし、誤って提出された学位論文に対して、博士学位が授与されたことについては、先進理工学研究科における指導・審査過程に重大な不備・欠陥があったものと認められることから、概ね1年間程度の猶予期間を設けて、博士論文指導と研究倫理の再教育を行い、論文を訂正させ、これが適切に履行された場合には学位が維持できるものとした。
指導者への処分もなされた。
・指導教員でかつ主査であった者 停職1か月。
・副査であった本学教員 訓戒。
・総長 役職手当の20%5か月分を返上。
・当時の研究科長 役職手当の20%3か月分相当額を返上。
その他の700件の博士号を調査したところ、「すべての博士学位論文について学位授与に相当する研究の実体が確認されたが、研究の本質的な部分以外の部分に不適切とみなされる箇所のある博士学位論文が複数発見された」という。そして、それらの論文については、
不適切な博士学位論文について、不正の方法により学位の授与を受けた事実が判明したときは、学位規則第23条に則り、学位を取り消す。学位の取り消しにあたらなくても、その博士学位論文の放置が不適切と判断される場合は、本人と連絡を取り、適切な是正措置を行い、経過を公表する。
これは先の調査委員会の「学位取り消しに当たらない」という報告書と、早稲田の(日本の)博士号の質への信頼性をどう保つのかという問題との間の妥協の決定だと思う。この決定に関しては、意見が真っ二つに分かれている。軽すぎる、という意見と、逆に重すぎるという意見だ。それくらいセンシティブな問題だということだろう。
問題は多々ある。今回の決定は、博士論文の形式の問題で、論文の内容は問題がないものと考えている。しかし、ウェブ上では、論文の内容自体にも多々問題があるとの指摘がある(小保方晴子の博士論文の疑惑まとめ)。
また、常田教授への処分が果たして妥当かどうか、という問題点もある。学外ということもあるが、副査の責任をどうするかという問題もある。
山本一太前科学技術担当大臣は、9月2日の記者会見で以下のように述べている。
一度与えた学位を取り消す重みを考えると、今回の決定は妥当なのかもしれない。しかし、問題はこれからだ。
すでに日本の博士号がずさんなことは世間に知れてしまっている。問題は小保方氏だけでなく、早稲田大学だけではない。早稲田大学が今後博士号がかかえる諸問題に本気で改革に取り組むのか、そして日本の科学コミュニティが本気で博士号の問題に取り組むのかが問われている。
少々残念なのが、一部の研究者から、「せっかくノーベル賞で盛り上がっているのに水を差すな」と言わんがばかりの声が出ていることだ。
小保方氏個人の問題として叩くのも、逆に小保方氏の問題など些細なこと、というのも、今後に何の教訓も残さない。ノーベル賞は1980年代から90年代の物理学(電子工学)の成果であり、それを現在の生命科学にまで適応するのは過剰反応だ。
問題を矮小化せず、拡大解釈もせず、冷静にみつめていくことが今求められている。「なかったこと」にしてはいけない。