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―タテジマに悔いを残さず― 12球団合同トライアウト・前編《阪神ファーム》

岡本育子フリーアナウンサー、フリーライター
草薙球場での合同トライアウトに臨んだ3人。左から加藤投手、玉置投手、藤原投手。

ことしの『日本プロ野球 12球団合同トライアウト』は10日、静岡県草薙総合運動場の公式野球場で行われました。昨年までと違って1回だけの開催になったため、変わった点もいくつかあります。まずテストであるシートバッティングは、これまでのカウント1-1からでなく0-0から開始。例年通り投手の参加人数が多く、後半に登板予定だと相当待たねばならないので、投手のみ9時集合と11時半集合の2部制にしてありました。

テストが始まる前、スコアボードに映し出された『12球団合同トライアウト』の映像。
テストが始まる前、スコアボードに映し出された『12球団合同トライアウト』の映像。
一度中断しただけで無事に終了。その直後からご覧のような大雨になりました。
一度中断しただけで無事に終了。その直後からご覧のような大雨になりました。

その参加人数は投手33人(オリックス・中山慎也投手は申請していたものの不参加)と野手14人。昨年までの1回目と比べれば野手がかなり少なかったですね。よって1人7打席くらい回っています。ただ投手は1人で打者3人ずつと、ここ数年の4人ずつから減りました。でもカウントや人数が試合と同じで入りやすいかもしれません。まあヒットや四球があっても3人で終わりますけどね。

2013年、2014年と雨にたたられた草薙球場でのトライアウト。ことしは翌11日に予備日が設けられていたものの、予報が悪くて参りました。朝は回復傾向に思えた空がどんよりして、12時15分から降り出した雨が少し強まった12時半に中断。20分後に再開されて、その後は照明を点灯しながら最後まで行われました。ただし全部終わってからは土砂降りで、やがて雷まで!帰っていく選手は大変だったと思いますが、テストが無事終わって本当によかったです。

開始前、レフトの芝生でウォーミングアップをする藤原投手(左)と、楽天の上園投手。
開始前、レフトの芝生でウォーミングアップをする藤原投手(左)と、楽天の上園投手。
集合して進行の説明を受ける玉置投手。右は日本ハム・鵜久森選手、同級生です!
集合して進行の説明を受ける玉置投手。右は日本ハム・鵜久森選手、同級生です!

視察に訪れたのはNPB12球団の編成担当をはじめ、ルートインBCリーグ・福井の吉竹春樹監督、武蔵の小林宏之次期監督、石川の佐野滋紀取締役、福島の岩村明憲球団代表や、他にも多くの方が来られています。社会人チームの方々もですね。カナフレックスの河埜敬幸監督と梁川浩樹マネージャーにはお会いしました。他にもテレビの取材で藪恵壹さんや、選手たちとガッチリ握手をかわす井上一樹さん、そうそう!アンダーアーマーの的場寛一さんと齊藤悠葵さんの姿もありました。

阪神からは加藤康介投手(37)、玉置隆投手(29)、藤原正典投手(27)、田上健一選手(27)の4人と、ルートインBCリーグ・石川ミリオンスターズ所属の西村憲投手(28)がエントリー。きょうはその中から加藤投手、玉置投手、藤原投手の3人について書かせていただきます。田上選手と西村投手、そして阪神で新人王を獲った楽天・上園啓史投手(31)の話は〈後編〉でご紹介しますので、お待ちください。

5つ目のユニホームも見たい!

加藤、玉置、藤原の3投手は、揃って三者凡退でした。3人で4三振を奪っています。では、まず加藤康介投手(37)。3組目で登板して、結果は【中日・藤澤拓斗】カウント0-2からの3球目で見逃し三振、【阪神・田上健一】1-2からの4球目で二ゴロ、【西武・林崎遼】初球で中飛。計8球です。

渾身の力を込めて投げる加藤投手に大きな成案が飛びます。
渾身の力を込めて投げる加藤投手に大きな成案が飛びます。
いきなり当たってしまった加藤投手vs田上選手。結果はセカンドゴロでした。
いきなり当たってしまった加藤投手vs田上選手。結果はセカンドゴロでした。
投げ終えてベンチに戻った加藤投手を迎える藤原投手。
投げ終えてベンチに戻った加藤投手を迎える藤原投手。

「投げたのはスライダーと真っすぐだけ。そこそこよかったと思います。最後(林崎選手)は、あそこまでパワーヒッターだと思っていなかったけど、でもあそこは力で押せました」。同僚の田上選手との対戦もあり、投げにくかったかと聞かれると「いっしょにやってきた仲ですけど、こういう場所なのでわかってくれるかなと。思いきりいかせてもらいました」と答えています。

戦力外を告げられ、そこでおそらく引退とか球団に残るという提案もあったと勝手に推測しますが「正直いろいろ迷いました。タイガースに入った当初はタイガースで終わろうと思っていたんですけど、いざそうなると…意思が弱いんで(笑)。もうちょっとやれるんじゃないかと。ただ、やると決めてからも、やっぱり無理かなとか気持ちの変化があった。そうやって今日という日を迎えて、戦力外を告げられてからは一番よかったと思うし、今後もよくなると自分では思っているんで」と明るく答えた左腕。

その決め手となったのは?「まだやれるんじゃないかという部分。また周りの人たちから『やめろ』と言われないまでも『もういいんじゃないか』という話はあったんですが、ここまできたのは自分だけの力じゃなく、ほとんどが周りに支えられてきた部分。やめることを自分で決めたくなかった。それは投げられる場所がなくなった時に、と思った」。戦力外を告げられた時に「ここまでやれたのはタイガースのおかげ。自分のスタイルが見つかった、すごくありがたい5年間だった」と話していて、その感謝の意を表すためにもこだわった現役続行でした。

「僕、あきらめが悪いんですよ」と笑っていた加藤投手。開始前は厳しい表情に。
「僕、あきらめが悪いんですよ」と笑っていた加藤投手。開始前は厳しい表情に。

またトライアウトを受験するのは「ことし働けていないので印象が悪かったのではないかと。それもあって他球団の人がどう見ているか、これだけ投げられるというのを見せておく方が自分にはいいかもしれない」という考えだったそうです。マウンドでは「最後になるかもしれないので、みじめな部分は見せられないし、地元でもあるから情けない姿を見せたくない。それだけですね。応援してくださった方の期待を裏切ることはしたくなかった。最後に地元で、この年で受けるトライアウトが静岡というのも縁なのかなと思って、プラスに考えながら投げた」と言います。

登板後はご覧のように取材攻勢。地元の新聞やテレビもありました。
登板後はご覧のように取材攻勢。地元の新聞やテレビもありました。

「1球投げるまで何とも言えない感じだったんですけど、終わってみて気持ちの中でスッキリしたところもある」と振り返りましたが、“有終の美”なんて表現は違いますね。加藤投手にとって「終わるために行ったわけじゃない。そこは間違いないです。オファーがあれば勝ち取りたい」というトライアウトですから。100%の力を出し切って、そこで「可能性を感じた。もっとできると思った」とも。

地元とあって声援がものすごく大きかったでしょう?「あ、聞こえていなかったです。自分の世界に入っていました」と苦笑い。登板後は取材が次から次へと続き、清水商業野球部時代の先輩や同級生とも対面したりで休む間もありません。帰る頃にはもうグッタリだったみたいです。お疲れ様でした。加藤投手の5球団目、期待して待っています。

「多くの方に支えられて、ここに来られた」

玉置隆投手(29)は8組目で【日本ハム・佐藤賢治】1-2からの4球目で空振り三振、【オリックス・原大輝】初球で三ゴロ、【広島・中村憲】3-1からの5球目で二ゴロ、計10球で三者凡退。

戻ってきてすぐ話を聞かせてくれた玉置投手は「試合と違って、1点を守りにいく勝負じゃないので難しかったですね。ランナー出したらどうしようと思いました。最後の最後でいいところと悪いところが出た。やっぱり僕やった」と笑います。内野ゴロ2つは真っすぐでしたが、最初に奪った三振は131キロのチェンジアップ!これこそ玉置投手と涙が出そうになりました。

投げたのは10球。「いいとこと悪いとこが出たのは自分らしい」と玉置投手。
投げたのは10球。「いいとこと悪いとこが出たのは自分らしい」と玉置投手。
ウォーミングアップ中に、スタンドからの声援に笑顔で答えるところ。
ウォーミングアップ中に、スタンドからの声援に笑顔で答えるところ。
集合がかかる前に、ベンチで先輩の藪恵壹さんと少し話を。
集合がかかる前に、ベンチで先輩の藪恵壹さんと少し話を。

「一発勝負でしたが、普段通りの先頭の入り方ができてよかったかなと思います。でも、ここで納得する人は少ないんじゃないですかねえ。最後(中村憲選手)は、カウント悪くしてフォアボールで終わりたくないと思って、そこはしっかり投げられてよかったです」

今回は野手が少なく、全部を選手で守ることは難しかったためボランティアの方が守備についたりしました。2人目の原大輝選手は三ゴロで「謎のファインプレーでしたね(笑)、サードの素人さん」と玉置投手。確かに、他で謎のヒットというかエラーもあったのですが、思うに一応どこかの野球部ではないでしょうか。でも考えたらプロ野球選手と一緒に守るなんて、なかなかありませんしね。そりゃ緊張もしますよ。

そうそう、外野でウォーミングアップをしている時、玉置投手はスタンドのタイガースファンの方から声をかけられて笑顔になっていましたね。柵のところまで行って挨拶もしていたし。「嬉しかったですよ。ああやって声をかけてくれるのも、タイガースファンならではでしょ?」とまた笑顔になりました。

最後に、鳴尾浜へ顔を出すことはあるかと尋ねたら、こんなふうに答えています。「鳴尾浜にはもう行かないですね。でも、いろんな方からサポートしていただいて、きょうを迎えることができました。練習できずに迎えた人もいる、そんな中で僕はしっかり準備をさせてもらった。多くの方に支えられて、きょうここに来られてよかったです。このユニホームは最後なんで、いろんな思いを持ってマウンドへと向かいました

投げ終えて戻ってきた玉置投手を1枚。穏やかないい表情でした。
投げ終えて戻ってきた玉置投手を1枚。穏やかないい表情でした。

玉置投手にとって鳴尾浜は、11年間のほとんどを過ごした “家” のような場所だと思います。また阪神タイガースというチームへの惜別の念は計り知れないでしょう。それは見送るファンの方々にとっても同じ。違うユニホームであっても投げる姿が見られたら、と願うのみ。この日かけつけたお兄さんや、玉置選手の奥さんとお嬢さんもそう祈っていらっしゃいます。

※玉置投手が戦力外通告を受けた際の記事はこちらです。<― 戦力外通告 第2弾 ― 玉置隆投手、11年間ありがとうございました>

前へ、次へ向かって踏み出す一歩

藤原正典投手(27)は19組目で【元広島、BCリーグ石川・三家和真】2-2からの6球目で空振り三振、【中日・藤澤拓斗】2-2からの5球目で右飛、【阪神・田上】2-2からの5球で空振り三振、計16球で三者凡退。

テストが始まる前、全員集合して説明を聞いているところです。
テストが始まる前、全員集合して説明を聞いているところです。

「スッキリしました!久々の疲労感ですね。緊張はしたけど、雨の中断があって『持ってないのかな…』と思ったらすぐ再開して晴れてきた(笑)」。持っていましたね。「よかったです。1球1球、思い残すことがないようにと投げました。気持ち、入っていたと思います。ここ2年間バッターに向かっていけなかった。その向かっていく気持ちが1球でも多く出て、伝わっていればいいんですけど」。それは2奪三振にも表れていたかと。1つは田上選手でしたけどね…。

「戦力外はフェニックス・リーグが終わって突然言われたので…。でも逆にとらえれば(10月末まで投げていたから)実戦に一番近いという、アドバンテージがあるのではないかと思います」。育成選手で再契約という打診もあったとか?「それがイヤというよりは、監督も代わってみんなが前へ進む中、自分が大きく後ろに引いて、盛り返していく気持ちが正直なかったんです。それなら少ない可能性にチャレンジすることを選びたかったのかもしれません」

結論に至るまでは悩んだ?「すごく悩みました。6年間タイガースにお世話になったし、プロ野球は甘くないというか辛いことばかりでしたが、いろんなことを教えてもらったチームだったので…悩みました」。そんな藤原投手の背中を押したのは「前しかないという気持ち」だそうです。

阪神勢では最後にマウンドへ上がった藤原投手。
阪神勢では最後にマウンドへ上がった藤原投手。
「フォアボール出したらどうしょう」と言っていたけど、3ボールもなしです。
「フォアボール出したらどうしょう」と言っていたけど、3ボールもなしです。

そこへたどり着くにも、やはり大きく波打つ心情曲線があった藤原投手。「ことしの成績なら戦力外もありうると思っていました。でもフェニックスでチャンスをもらったから、何かを変えて帰ろうと臨んだ宮崎。マウンドで何も考えず、ネガティブなことを一切考えずに投げることができた。これまで、ずっとマイナスのことばかり描いていたので」と振り返ります。

そして「きょうも1球ごとに最後だと思って投げて、結果がよかった。そういうメンタルなところなんですね。技術は練習でカバーできるけど、精神的なものが伴わなければ身につかない技術もあった。そこが足りなかったと思います。きょうは真っすぐがよかったと思う。よく動いていました。もともときれいな真っすぐを投げないので。強さがあって、ストライクゾーンに思いきっていけた。カウントもファウルも取れたし。田上?インコースのカットボールです」と手応えを語りました。

もしオファーがなければ?「きょうと同じです。前を向いて、次へ向かって一歩踏み出していきます。NPBで、支配下でという気持ちを持ち続けているので可能性は低いと思いますが…。育成契約を断った以上、育成では受けられないですからね。でもそこは自分のこだわりたいところです」

10-FEETのタオルを手に、こんな顔して写っちゃいました!
10-FEETのタオルを手に、こんな顔して写っちゃいました!

藤原投手はこの日、ずっと自身の登場曲に使っている『10-FEET』というバンドのタオルを持ってトライアウトに臨みました。藤原投手が中学時代から大好きで憧れていた京都のバンドで「縁があって数年前から仲良くさせてもらっています」とのこと。語り出したら止まらないらしいので、ざっくり説明してもらいました(笑)。10-FEETのボーカル・TAKUMAさんもブログなどで「友だちの藤原投手」と書いていますね。10-FEETの素敵な曲に乗って颯爽とマウンドへ向かうFJを、まだまだ見たい!

※藤原投手が戦力外通告を受けた際の記事はこちらです。<フェニックス・リーグでチーム最多の9試合に登板 藤原投手に戦力外通告>

※後編では、田上選手、西村投手、上園投手のコメントをご紹介します。

フリーアナウンサー、フリーライター

兵庫県加古川市出身。MBSラジオのプロ野球ナイター中継や『太田幸司のスポーツナウ』など、スポーツ番組にレギュラー出演したことが縁で阪神タイガースと関わって約40年。GAORAのウエスタンリーグ中継では実況にも挑戦。それからタイガースのファームを取材するようになり、はや30年が経ちました。2005年からスポニチのウェブサイトで連載していた『岡本育子の小虎日記』を新装開店。「ファームの母」と言われて数十年、母ではもう厚かましい年齢になってしまいましたが…1軍で活躍する選手の“小虎時代”や、これから1軍を目指す若虎、さらには退団後の元小虎たちの近況などもお伝えします。まだまだ母のつもりで!

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