有明海沿岸の集落に残る築90年の木造駅舎 長崎本線 肥前七浦駅(佐賀県鹿島市)
佐賀県鳥栖市と長崎県長崎市を結ぶ長崎本線。かつては特急「かもめ」が走る大幹線だったが、令和4(2022)年9月23日の西九州新幹線開業により江北(旧:肥前山口)~長崎間はローカル線に転落してしまった。電化設備も肥前浜以遠では撤去され、佐賀・長崎県境の肥前浜~諫早間は2両のディーゼルカーが数時間おきに往復するだけの状況となってしまっている。そんな区間にある駅の一つが肥前七浦駅だ。
肥前七浦駅は昭和9(1934)年4月16日、有明東線の肥前浜~多良間延伸に伴って開業した。当時の所在地は藤津郡七浦村で、他に「七浦駅」が存在するわけでもないのに国名の「肥前」が冠されている。七浦村は明治の町村制で音成村と飯田村が合併して誕生した村で、駅があるのは音成だ。昭和30(1955)年3月1日に村を二分割して、音成と飯田の一部は鹿島市に、残りは太良町に合併された。
駅舎は開業時のもので、今年で築90年を迎える古いものだ。無人駅となったのは昭和47(1972)年2月10日で、もう半世紀以上前のことになる。だが内部は地元住民の手によって清掃・管理されており美しく保たれている。
有人駅時代に駅員が詰めていた旧事務室部分は改装されて待合室・地域住民の交流スペースとなっている。左奥の畳敷きの小上がりはかつての宿直室だろう。肥前七浦駅のある区間は列車の本数が少ないが、寛いで列車を待つことができそうだ。
出入口、改札口とも引き戸は昔ながらの木製のままだ。駅名標こそ新しいが、全体的に昔の姿をよく残して改装されており、雰囲気が良い。改装された木造駅舎の中には残念ながら「レトロ調のつくりもの」といった感じのものも多いのだが、肥前七浦駅は自然な姿の美しさだ。
ホームは相対式2面2線で、屋根なしの跨線橋で結ばれている。電化路線だった名残で架線は残っているが、やってくるのはディーゼルカーばかりで、架線も通電していない。跨線橋からは有明海も望むことができる。
JR九州の駅名標は中央下部にイラストが描かれているものが多い。肥前七浦駅のイラストは有明海の干潟に生息するムツゴロウだ。七浦駅周辺の海にも干潟が広がっており、夏には町おこしの一環で「ガタリンピック」というスポーツイベントが開催される。
肥前七浦駅にやってくる列車は上り14本、下り13本。日中は二時間以上列車が来ない時間帯もあるが、だからこそ日々の忙しい生活から離れてゆっくりとした時間を過ごすにはうってつけの駅だと言えるだろう。