子どもの外あそびが重要な3つの理由
外で遊ぶ子どもが減っています。子どもの健全な成長のための外あそびを推進する会(外あそび推進の会)によると、この40年で小学生高学年の外あそびの時間は半減しました。
上記グラフは、確かに思い当たります。私は、1981年当時の小学生で、確かに放課後にはランドセルを玄関に放り投げて1日2時間ほど外あそびしていた記憶があります。現代の子どもたちの平均は1時間程度、これはコロナ前のデータで、昨今はもっと減って1時間を切っているというデータも報告されています。
外あそび減少の要因は、あそび場所の減少、テレビ・ビデオのほか、ゲーム・動画・携帯の発達、習い事・塾の活性化などが挙げられます。さらに、その背景には、安全性の懸念から、放課後に子どもだけで遊ぶことが難しくなった社会環境の変化もあります。
しかしながら、その状況に対して、専門家からは危機感と共に、外あそびの重要性が発信されています。まずはその指摘を見てみましょう。
<指摘①>外あそびは、子どもの健全な生活リズムに重要
早稲田大学の前橋明教授は、子どもの運動の専門家です。前橋先生は「人間の体温は、一般に午前3時頃に最も低くなり、午後4時頃に最高となります。これは、ヒトが長い年月をかけて獲得した生体リズムの1つです。午後4時頃が人間の体温が最高で、からだを動かすのに最適な時間、この時間帯にからだを動かしておくことで、良い生活リズムとなり、夜にぐっすり眠れる」と指摘しています。
また、近年は、コロナ禍による外出自粛や運動規制の影響を受けての運動不足と、テレビ・ビデオをはじめとするデジタルデバイス利用促進の影響を受けて、子どもの生活リズムがますます遅くなっていて、前橋先生は「遅寝・遅起きの子が増えていることがデータでも出ています。生活習慣が乱れると、自律神経の働きが弱まり、体温リズムがずれる状態が生じ、ますます生活リズムの悪循環が進んでしまいます。」と懸念されています。
放課後に外で遊び、ご飯を食べて、お風呂に入ってバタンキューとなる昭和時代の子どもの生活は、理に叶っていたようです。
<指摘②>外あそびは近視抑制に効果的
子どもの近視が進んでいます。文部科学省の調査では、裸眼視力1.0未満の子どもは6歳で23%、11歳では50%を占めています(2021年度)。
眼科医で目の専門家である筑波大学の平岡孝浩准教授は「近視を放置すると危険」と指摘します。一度近視になると基本的には元に戻らないことはもちろんですが、近視は将来の緑内障や白内障などの目の病気に繋がる可能性が高いとのことです。人生100年時代になり、寿命が延びるとその分リスクも高まり、将来は多くの高齢者が失明の危機にさらされることも懸念されています。
ではどうしたらいいのか。平岡先生によると「1日2時間の屋外活動をすると近視抑制の効果がある」ということが示され始めているのだそうです。
平岡先生は「屋外活動において、近視抑制のための太陽の照度は木陰程度の明るさで十分。日中の日差しは、暑さや日焼け、熱中症などの課題もあるので、放課後の時間の外あそびがいいと思います」と仰っています。通学や休み時間などで1時間、放課後に1時間外あそびをする生活になると子どもの近視は随分抑制されていくと想像されます。日本は諸外国と比べて近視対策が甘いことも指摘されているのだそうです。エビデンスに基づいた施策推進が求められます。
<指摘③>スポーツの世界でも外あそびが重要
サッカーの世界で「ゴールデンエイジ」という言葉があります。ゴールデンエイジは10~12歳、小学校高学年世代のことを指します。日本サッカー協会の発行するハンドブックによると以下のように記載されています。
U-10~12年代は心身の発達が調和し、動作習得に最も有利な時期とされています。集中力が高まり運動学習能力が向上し、大人でも難しい難易度の高い動作も即座に覚えることができます。「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、世界中どこでも非常に重要視され、サッカーに必要なあらゆるスキルの獲得に最適な時期として位置づけられています。
10~12歳が人生で最もサッカーが上手くなる時期であり、この年代でサッカーをしていないと一流選手になることは難しいと言われます。他のスポーツもおそらく同様でしょう。また、ゴールデンエイジを有効に機能させるためには、9歳までの「プレゴールデンエイジ」に遊びを通じてたくさんの体の動きを経験しておくことが重要であるとも言われています。スポーツの世界からも外あそびの大切さが指摘されています。
◎他にも外あそびの効能がある
外あそび推進の会によるとその他にも以下の効能があげられています。
・体力・運動能力の向上
・骨の健康な発育
・自律神経機能の強化
・ストレスの軽減
・うつ状態の改善
・脳の発達による感情的発達および学習能力・社会的適応力の向上
・安全能力の獲得
これらの効能は、確かに子どもたちの生活を見ていても十分に感じることです。
◎コロナによる影響
スポーツ庁の「2021年度全国体力・運動能力、運動習慣等調査」によると、「子どもの体力は2019年度から継続的に低下傾向」であり、以下の要因を指摘しています。
(要因)
①運動時間の減少
②学習以外のスクリーンタイムの増加
③肥満である児童生徒の増加
この3つの要因について、新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、更に拍車がかかったと考えられる。
また、コロナの感染拡大防止に伴い、学校の活動が制限されたことで、体育の授業以外での体力向上の取り組みが減少したことも考えられる。
コロナによって子どもの体力は減少したと見られており、体育以外の放課後のスポーツや外あそびがなくなったことが重要な原因として挙げられています。感染症対策も次のステージに向かいますので、今後の子どもの体力の向上が望まれます。
◎外あそびを拡大するには
外あそびを拡大するには、様々な取り組みが複合的に必要ですが、まず一丁目一番地に考えるのは「学校の校庭活用」だと考えます。残念ながら現在は放課後の学校活用は進んでいるとは言えません。校庭開放は地域によって大きく差があります。また放課後の学童保育は、学校外で行われているのが全体の半分近くありますので、校庭を活用できていないケースが多くあります。
外あそびの場所の課題を解決するために、学校を活用するのであれば、日本全国で取り組むことができますし、新たな設備投資なくスピード感を持って広げることができます。公園の課題は社会的にも指摘されることがあり、重要な視点ですが、その前にまず考えるべきは「学校の校庭活用」です。
一方で「校庭活用」にも課題があります。それは人材不足です。平日の校庭を活用して、放課後の子どもたちが遊ぶところには、見守りや怪我などの有事に対応するスタッフが必要そうです。もちろん先生たちにその余裕はありません。そうなると、そこに人材配置が必要になり、予算が必要になり、ということになります。学童保育の子どもたちが活用する場合も同様で、スタッフの増員が必要になります。
このように場所の問題は、人の問題であり、お金の問題になります。現在、政府が少子化対策を最優先課題として取り上げる姿勢を見せていますので、期待したいところです。全国の自治体を見ると校庭活用や。外あそび推進において参考になる自治体の好事例もあります。ですので、この好事例を参考に予算をかけて広げていくことが重要です。
◎子どもたちから大臣へも要望!
昨年11月に子どもたちが少子化対策の担当である小倉將信大臣に要望を渡しに行きました。9月に子どもたちで「外あそび子ども作戦会議」を開催し、そこで出た声をまとめて大臣に届けたものです。
子どもたちからは、以下の要望を大臣に届け、大臣も深く頷きながら聞いてくださいました。
1.車の行き来や近所の人のことを気にしなくて良い、鬼ごっこやボールあそびをして思い切り遊べる安全な環境を作ってください。
2.習い事の合間に遊べる場所を地域の身近な場所に作ってください。
3.ゲーム好きな子も外で積極的に遊べるよう、挑戦しながら遊んだりできるスリルあるアスレチックやちょっと休めるツリーハウスがある、遊具が充実した公園がほしいです。
4.転んでも痛くない芝の広いグラウンドの遊び場がほしいです。砂利やコンクリートは痛いです。
当日参加した子どもからは以下のような感想が聞かれました。
「小倉大臣に直接意見書を渡すのはとても緊張しましたが、私たちが感じている外あそびの課題と意見を直接伝えられて嬉しかったです。今回の要望が叶って、校庭や公園でサッカーが思いっきりできるとか、もっと外あそびができる環境が増えたら嬉しいです。たくさんの友だちと毎日いっぱい外であそべたら、毎日がもっと面白くて、ワクワクするものになると思います。」
子どもたちの声が国に届くことを強く願います。
昭和の時代は、学校が終わった放課後には多くの子が外あそびをしていました。
令和の現代に自然発生的な動きを期待するのは難しいので、人々が知恵を絞り、有効そうな施策に費用をかけて促進していくことが重要です。子どもが目いっぱい外あそびをする風景を増やしていきたいと願います。
(参考)外あそび推進の会HP