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自分の幸せと将来を真剣に考えるために 家庭でできる「包括的性教育」のススメ【15~18歳編】

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

過去3回の記事で、中学生までの子どもに「包括的性教育」を通して豊かな人生を送るためのスキルを教える方法の一例をお伝えしてきました。今回は、「15〜18歳」の子どもを対象とする包括的性教育の中身について、UNESCOの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)の8つのキーコンセプトに沿って一部を抜粋して解説します。

なお、ガイダンスではもともと「15〜18歳以上」と表記されているため、18歳以上の人へ対しても本記事の内容は応用できるものになります。

「15〜18歳」への包括的性教育とは

15〜18歳の子どもは、身体的にも精神的にも成熟して大人に近づいています。日本では2022年に成人年齢が18歳に引き下げられ、ますますこの年代の子どもたちの自立が求められています。

一方で、日本財団の調査(文献2)によると、約4人に1人の子どもが18歳までに性行為を経験し、その8割以上は15〜18歳に初めての性行為を経験していたとのことであり、まだまだ私たち大人がこの年代の子どもたちに伝えないといけないことは多くあるのです。

15〜18歳を対象とする包括的性教育では、子どもたちが自分の人生や将来について深く考え、責任をもって意思決定できる基盤を固めることを目標としています。

参考記事

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①成熟した人間関係を築き、自分の将来を考えよう

15歳までは、「好き」という感情を適切な方法で表現することで良好な人間関係を築くことや、結婚などの長期の関係を結ぶにあたっては愛情だけでなく責任を伴うことなどを学びました。

15〜18歳では、自分が「成熟した個人」として他者に親愛や愛情を表現することを学びます。子どもたちは小説や漫画、インターネットなどから得た情報をもとに、「恋人とはこういうことをするべきなのかな」という先入観を抱いているかもしれません。パートナーと健康的で良好な性的関係を築くこと、そしてパートナーと必ずしも性的な行為は必要ではないことを早いうちから伝えておきたいですね。

また、結婚や親になることなど、自分の長期的な人生設計について考え始める必要があるのもこの年代です。保護者は子どもに対してどんな責任を果たすべきなのかを知り、自分は結婚したいのか、子どもを持ちたいのか、この年代から考える機会を与えていきましょう。

②自分はどんな価値観をもっているか考えてみよう

15歳までに、日本や海外での人権問題について考える機会をもってきました。

15〜18歳では、これまで勉強してきた知識をもとに、自分はどのような価値観・信念をもって生きていくのかを考えます。成長するにつれて、親や保護者とは異なる価値観を持つようになるかもしれません。ぜひご家庭では、子ども自身の価値観に耳を傾け、お互いを尊重する姿勢を心がけてみてください。

③ジェンダー不平等に対して向き合おう

15歳までに、多様なセクシュアリティを自分ごととして考え、ジェンダーをもとにした差別によってどんな悪影響がもたらされているかを知ることを目標としていました。

15〜18歳では、これらのジェンダーに基づく差別や暴力に対抗して声を上げられるようになることを目指します。ジェンダー問題は、法律などに関わる大きなものだけでなく、家庭内やパートナー間、学校内など身近な場所にも存在しています。保護者にとっても、声を上げることは容易ではないと思いますが、子どもと一緒に成長していきたいですね。

④性的同意を恥ずかしがらない

15歳まででは、自分の身を守るためにプライベートパーツについて知り、性的な行為をするかどうかは自分の意思で決められることを学びました。

15〜18歳でも、性的同意について繰り返し伝える必要があります。健康的な性的関係において、パートナーとの間で性に関するコミュニケーションは不可欠です。恥ずかしさから意思を伝えられず、雰囲気に流されてしまった経験のある保護者もいるかもしれません。自分の意思を相手に伝えるだけでなく、相手の意思も確認することは全ての人間関係でとても大切なプロセスです。意図しない妊娠や性感染症などが起きたとしても、お互いに正直なコミュニケーションをとれていればその後も協力して乗り越えられるかもしれません。

⑤自分の健康を守るスキルを身につけよう

これまで、自分の健康や幸せを守るためのコミュニケーションスキルについて学んできました。

15〜18歳でも引き続き、自分の身を守るための意思決定に必要なスキルについて学びます。特に性的行動において、性的同意を示すのか、自分の希望や許容範囲をどう伝えるかなど、効果的なコミュニケーションの方法を知ることは大切です。

また、もし自分の健康が脅かされていると感じたときに、罪悪感や恥ずかしいという気持ちを抱くことなく、周りにサポートを求めて良いのだということも伝えたいですね。現在では、性犯罪・性暴力の被害にあった女性や子どもを支援する「ワンストップ支援センター(文献3)」が全国に設置されており、被害直後から、医療やカウンセリング、警察への届出などに関して無料で相談を受けられます。このような公的なサービスの存在を「何か起こる前から」知っておくことは非常に大切です。

⑥いつでも、誰でも、子どもを持てるわけではない

15歳までに、正しい生殖のプロセスや思春期に経験する変化などについて学んできました。15〜18歳では、男性も女性も生殖能力は年齢とともに変化していくことを学びます。また、全ての人に生殖能力が備わっているわけではなく、妊娠したいが不妊を経験している人がいることを知り、そのような人への共感の気持ちも育みます。

男性も女性も、加齢によって生殖能力が下がることや、若くても不妊症を抱えている人がいることをこの年代からしっかり知ることは、自分の人生設計を立てるにあたってとても大切です。以前に比べて不妊に関する知識を持つ人は増え、卵子凍結などの選択肢をとる人も少しずつ増えています。人生は思い通りにいかないことばかりではありますが、自分の理想とする人生とは何か、そのために今何をすべきか、若いうちから考える習慣をつけることは子どもにとって財産になるのではないでしょうか。

⑦自分も相手も守りながらセクシュアリティを楽しもう

15歳までに適切な性的行動とはどうあるべきかを知り、また性的行動は意図しない妊娠や性感染症などのリスクを伴うものであることを知りました。

15〜18歳でも引き続き、適切な性的行動について考えを深めていきます。人は一生を通じてそれぞれのセクシュアリティを楽しむ権利があり、本来、性的な行動には喜びが伴うものであることを再認識します。同時に、自分やパートナーに対して責任を負う行為でもあり、一時的な楽しみではなく、様々なリスクを減らす方法を優先的に考えられるようにならなければいけません。特に金銭などの取引を伴う性的関係は、自分の身を守れる可能性が低い状況だということを十分に認識する必要があります。

⑧妊娠を自分ごととして考えられるようになろう

性と生殖に関する健康について、15歳までに性感染症や意図しない妊娠のリスクを学んできました。最近も若い女性が誰にも気付かれずに出産し、新生児や乳児を遺棄してしまう事件が後を絶ちません。このような、誰にも相談できずに院外での出産に至ってしまう悲しい事件をなくすためにも包括的性教育は非常に重要です。

15〜18歳では、意図しない妊娠というのは誰にでも起こり得ることであり、全ての人は必要なサポートにアクセス可能であることを伝えましょう。もしまだ親になる準備ができていないのならば、養子縁組も一つの選択肢となります。必要な人に人工妊娠中絶は安全に提供されるべきですが、いかなる場合も人工妊娠中絶を家族計画の第一選択として推奨することはできません。そしてもちろん、適切な避妊方法を用いることで意図しない妊娠を減らせることは繰り返し伝えましょう。

もし将来子どもを持ちたいのであれば、妊娠前・妊娠中から体調や栄養、生活習慣などの管理(プレコンセプションケア)が自分と生まれてくる赤ちゃんの健康にとって大切であることも知り、今から自分の心身を健康に保つ意識を持ってもらえるといいですね。

参考記事

関係するのは妊娠希望の女性だけじゃない、少子化の進む日本でこそ重要な「プレコンセプションケア」とは?

包括的性教育は人生を健康に幸せに送るためのスキルを伝えるもの

いかがでしたでしょうか。全4回にわたり、国際的な指針の一部を抜粋しながら、包括的性教育の内容をご家庭などで実践できるように解説してきました。包括的性教育は、これまでの「性教育」のイメージとは違い、性的な事柄に限らず、子どもたちがこれからの人生を健康に幸せに送るためのスキルを伝える教育であることがお分かりいただけたでしょうか。

いきなり全ての項目を網羅することは難しいと思いますが、ご家庭などでの会話やニュースなどをきっかけに、少しずつ始めてみていただけたら嬉しいです。そして、もしもっと包括的性教育について知りたい、と思っていただけたなら、様々な書籍が出版されていますのでぜひ読んでみてください。

今後、日本の教育現場でも包括的性教育の重要性が認識され、広まっていくことを願ってやみません。

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参考文献

1. UNESCO. 国際セクシュアリティ教育ガイダンス.

2. 日本財団. 第39回18歳意識調査.

3. 内閣府. 男女共同参画局. 性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター一覧.

4. 1時間で一生分の「生きる力」 安全、同意、多様性、年齢別で伝えやすい!ユネスコから学ぶ包括的性教育 親子で考えるから楽しい!世界で学ばれている性教育(講談社)

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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