Yahoo!ニュース

より主体的な意思決定ができるように! 家庭でできる「包括的性教育」のススメ【12~15歳編】

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

前回(9~12歳編)前々回(5~8歳編)の記事で、小学生までの子どもに「包括的性教育」を通して、豊かな人生を送るためのスキルを教える方法の一例をお伝えしてきました。今回は、「12〜15歳」の中学生の子どもを対象とする包括的性教育の中身について、UNESCOの「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」(文献1)の8つのキーコンセプトに沿って一部を抜粋して解説します。

「12〜15歳」への包括的性教育とは

12〜15歳は思春期に入り、子どもによっては反抗期でもあり、保護者にとっては子どもとのコミュニケーションがそれまでよりも取りづらくなる時期かもしれません。しかし、多くの子どもは友達やネット上の情報を信じやすく、間違った知識をもとに意思決定してしまうことは時に危険です。

この年代の包括的性教育においては、自分の行動の利益・不利益について正しい情報を収集できること、そして自分の行動がもたらす影響や責任を理解できることを目標としています。

①人間関係における責任を考えよう

12歳までは、他者との間に生じる「好き」の感情をポジティブに捉え、状況や相手に応じた方法で多様な「好き」の感情を伝えることで良好な人間関係を作り上げていく大切さを学びました。

12〜15歳では、結婚など長期の関係性を結ぶこと、また親になることは愛情だけではなく責任感を必要とする行為であることを伝えます。自分が結婚したとき、親になったときを振り返りながら、責任の大きさとともにその喜びなどのポジティブな面も伝え、子どもが結婚や出産などの選択を主体的に考える機会をつくりたいですね。

②性と生殖に関する健康と権利を知ろう

すべての人の性と生殖に関する健康と権利(Sexual and reproductive health and rights : SRHR)(文献2)は守られるべきですが、依然として世界中でSRHRは侵害され続けています。SRHRとは、「自分の性に満足し社会的にも認められていること」「妊娠・出産の意思に関わらず心身ともに健康でいること」「自分の性のあり方を自分で決められる権利」「妊娠・出産・中絶など生殖に関わる情報にアクセスできて自分で意思決定できる権利」を包括した表現です。

現在でも自分の意思で避妊・中絶・出産ができない人は世界中に多くいます。日本や海外のニュース等を通じて、子どもと一緒にSRHRについて考えたいですね。

③ジェンダーによる不当な扱いをなくそう

近年では以前と比べてジェンダー問題が取り上げられるようになってはいますが、ジェンダーステレオタイプ(固定観念)やジェンダーバイアス(偏見)はまだまだ根強く残っています。12歳までに、LGBTQ+などの多様なセクシュアリティを自分ごととして考えられるようになることを目標としていました。

12〜15歳では、世の中にどんなジェンダーバイアスが存在し、その偏見によって男性・女性・LGBTQ+の人たちが本来望んでいる行動をさまたげられている場面はないか、考えを深めていきます。若い世代でジェンダー平等への意識が高まることは、誰もが平等に自分のやりたいことをできる社会を実現するために不可欠でしょう。

④性的同意について知ろう

12歳までに、プライベートパーツや望まない性的な扱われ方について学びました。12〜15歳では、性的な行為をするかしないかは自分で決められること、そしてお互いの同意が必要であることを学びます。

「付き合っていたら性的な行為をするのが当たり前」「性的な行為を断ったら好きじゃないと思われてしまう」などの思い込みをしている子どももいるかもしれません。しかし、手をつなぐ、キスをする、セックスをするなど全ての性的な行為において、お互いが納得しているかどうか「性的同意」の確認が必要です。そして性的同意を拒むことと相手の存在を否定することを混同せず、自分の正直な気持ちを伝えられる関係性こそ望ましいことを伝えたいですね。

相手の同意が必要なのは、性的な行為に限った話ではありません。日常の様々な場面で、保護者の方が「これをしてもいいかな?」と意識的に同意を確認したり、子ども側は理由とともに同意や拒否をする練習をしたりすると良いかもしれませんね。

参考記事

人との関係性や性教育について学ぶ機会が乏しい日本、知っておいてほしいこと

⑤コミュニケーションスキルを使い分けよう

12歳までに、コミュニケーションの色々な方法があることや、友達からのネガティブなプレッシャーに対抗できるコミュニケーションスキルなどを学びました。

12〜15歳では、さらにコミュニケーションが必要な場が広がり、個人・家族・学校・仕事・恋愛などの人間関係における効果的なコミュニケーションについて学びます。先ほどの性的同意の話題とも関連しますが、交渉や拒絶が必要な場面でも適切なコミュニケーションをとれることはあらゆる場面で大切なスキルです。保護者の方が、自分の職場での経験などを家庭で共有し、コミュニケーション方法の使い分けについて子どもと一緒に考えていけると良いですね。

⑥性的な感情は人それぞれ

12歳までは、性に関する話題をタブーにしないことや正しい性と生殖に関する知識を身につけておくことが大切でした。12〜15歳では、性的な感情について学びます。

性的な魅力や刺激を意識すること、あるいは性的な事柄に関心を抱かないこと等、思春期の子どもたちは自分の気持ちに戸惑いを覚えているかもしれません。このような性的な感情には個人差があり、反応のしかたや関心を抱くタイミングは人それぞれであることを伝えましょう。この年代の子どもの性的な悩みの一つであるマスターベーションに関しても、保護者の方がネガティブに反応しすぎずに、間違った情報に惑わされないことの大切さを伝えたいですね。また、性的な感情と生殖機能は別物であり、妊娠・出産に関して計画的に考えることの大切さも伝えておきたいものです。

参考記事

恥ずかしい行為? 女性のセルフプレジャーの誤解やメリットを産婦人科医がマジメに解説

⑦性的な行動のリスクを知ろう

12歳までに、適切なタッチと不適切なタッチや、性に関心を抱くのは自然であることなどを学びました。12〜15歳では、自分が性的な行動をとる前にどんなことを考えるべきか学んでいきます。

性的な欲求自体は自然なものですが、メディアを通して入手できる性的な情報は現実とは違います。露骨で過激な表現に影響を受けてしまう子どもも少なくないかもしれませんが、すべての人がこのような非現実的な性的欲求を実行に移しているわけではないことを伝えておきたいですね。

性的な行動には感染症や、意図しない妊娠に伴う身体的・精神的負担など、健康を損なうリスクが伴います。また金銭や物品の代償としての性的な行動も、自分の健康を損なう危険を伴います。自分の身を守るため、性的な行動をとる前にリスクを考えることの大切さを伝えましょう。

⑧性感染症や意図しない妊娠を防ごう

9〜12歳で、性感染症や意図しない妊娠のリスクについて学び始めました。12〜15歳では、さらに知識を深めていくことを目指します。

意図しない妊娠を防ぐ避妊法(成功率、副作用などの知識も含む)や緊急避妊薬の使い方、性感染症の感染経路やリスクを軽減する方法などについて、正しい情報を伝えたいですね。

そして、もし子どもの性感染症や意図しない妊娠が疑われた場合には、なるべく早く専門家に相談できるよう、手助けをしてください。直接的に本人と話しにくい場合には、若者が巻き込まれた事件の報道などをきっかけに自身の意見を伝えたり、家族や友人、学校の先生など信頼できる人に相談したりして、子どもの健康を守りたいですね。

行動のリスクを知り主体的な意思決定ができるように

いかがだったでしょうか。

12〜15歳の包括的性教育では、子どもがより行動のリスクを知り、主体的に意思決定できるように助けることが大切です。

思春期を迎えた子どもとコミュニケーションを取りづらくなる時期かもしれませんが、ぜひご家庭などでのコミュニケーションを増やし、様々な話題について意見を交わせる関係性を作っておきたいですね。

*今後、「15〜18歳」の解説記事も順次公開予定です。

参考文献

1. UNESCO. 国際セクシュアリティ教育ガイダンス.

2. JOICFP. セクシュアル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR:性と生殖に関する健康と権利)とは.

3. 1時間で一生分の「生きる力」 安全、同意、多様性、年齢別で伝えやすい!ユネスコから学ぶ包括的性教育 親子で考えるから楽しい!世界で学ばれている性教育(講談社)

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

重見大介の最近の記事