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行き場を失った商業ファッション資料の世界貯蔵庫となるか、ノルウェーのファッションリサーチ国際図書館

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
創設ディレクター、エリス・バイ・オルセンが手掛ける新時代の図書館とは 筆者撮影

世界が注目する専門的なファッション研究のための「図書館」が、ファッションの国というイメージが薄い「ノルウェー」にある。そう聞いたら、あなたは何を思うだろうか。

6月にフィヨルド沿いに移転した「ノルウェー新国立美術館」。現代アート、ファッション・工芸、各国を代表する絵画、ムンクの『叫び』など、幅広い作品を所蔵するこの建物は、新ムンク美術館と共に、今オスロの主要観光拠点となっている。

新国立美術館 筆者撮影
新国立美術館 筆者撮影

この敷地内のとある小さな建物が、ドアを開けて一般公開されたのが11月29日だった。その名も「International Library of Fashion Research」(ファッションリサーチ国際図書館)

新国立美術館のメインエントランスとは反対方向の建物が図書館 筆者撮影
新国立美術館のメインエントランスとは反対方向の建物が図書館 筆者撮影

図書館にノルウェー語の名前はなく、英語で名付けられている。所蔵物も全て英語で、関係者とのやり取りも英語が主要言語だ。

ノルウェーの国立美術館という「ノルウェーらしさ」を重視していそうな空間にありながら、この図書館はノルウェー語を徹底的に使わずにいる 筆者撮影
ノルウェーの国立美術館という「ノルウェーらしさ」を重視していそうな空間にありながら、この図書館はノルウェー語を徹底的に使わずにいる 筆者撮影

ノルウェーの図書館といえば、たくさんの子どもも楽しそうに声をあげていて、カラフルな場所が増えてきているが、ここは静かでシンプルなオフィス倉庫みたいだ。

予想したよりもミニマルでシンプルな銀色の図書館。2階建ての空間には資料が詰め込まれている 筆者撮影
予想したよりもミニマルでシンプルな銀色の図書館。2階建ての空間には資料が詰め込まれている 筆者撮影

世界中のファッション関係者やメディアがこの小さくてミニマリズムな図書館に注目するのには理由がある。創設ディレクターであるエリス・バイ・オルセン(Elise By Olsen)の存在だ。

若き雑誌編集者として、ファッション業界に新風を巻き起こすアイコンとして、業界では知る人ぞ知る人物だ

中央オレンジ色の服を着ているのがオルセン氏。左側は館長 筆者撮影
中央オレンジ色の服を着ているのがオルセン氏。左側は館長 筆者撮影

館内に展示されているのは5000点以上の書籍、雑誌、制作カタログであるルックブック、ショーの招待状、イラスト、印刷物、サンプルや限定商品。1975年~現在までの資料コレクションで、複数のプライベートコレクターから提供された。

今後もファッションハウス、出版社などから提供は継続され、コレクションは増大していく予定 筆者撮影
今後もファッションハウス、出版社などから提供は継続され、コレクションは増大していく予定 筆者撮影

「図書館」といっても、通常の図書館とはちょっと異なる。

基本的には「デジタル図書館」であり、公式HPを積極的に使い、オンライン予約したものを現場で借りる。自宅に持ち帰り、数週間後に返却するのではなく、受付で予約したものを受け取ったら館内のテーブルで読み終える・鑑賞し終える。

一部の資料はガラスケースの中で展示されているため、図書館というよりは博物館のようでもある 筆者撮影
一部の資料はガラスケースの中で展示されているため、図書館というよりは博物館のようでもある 筆者撮影

単に店頭で並んでいたファッション雑誌だけではなく、業界や社内関係者でなければ入手できなかったような資料も数多い。

イベントのカタログなど、通常なら使用後はそのまま処分されるか、ブランドの倉庫でずっと眠っていたような貴重な資料が、これからはここで保管可能となる。

筆者撮影
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ノルウェー北極圏には「スヴァールバル世界種子貯蔵庫」という世界中の植物の種子を冷凍保存する場所がある。ファッションリサーチ国際図書館は、まさに紙や現物の資料を保存するファッション版ともいえるだろう。

スポンサーにはノルウェー外務省、文化基金、ノルウェーやスウェーデンのファッションハブなど、教育パートナーには英国やノルウェーの大学の名前が並ぶ。

この空間がファッション産業の歴史に深い関心を持つ観光客や学生などのための貴重なアーカイブ図書館となるのは間違いないだろう。

筆者撮影
筆者撮影

商業ファッションのアーカイブ図書館というプロジェクトが動き始めたのは2018年。

このような図書館を作るなら「アクセスしやすく、一般公開」前提で実現したいと当初から考えていたというオルセン氏。

コレクションには商業広告や限定イベントのパンフレットなど、関係者だけの閉じられた空間だけで発行された紙媒体、商業広告やプロモーションで使用された資料も多い。

「商業的な側面はファッションに付き物だからこそ」、この図書館のアーカイブは貴重なのだと同氏は話した。

「限定資料で貴重ではあるが、保管場所がない」と感じていた現場の関係者は、今喜んでこの図書館に保存をしたがっているそうだ。

図書館は「過去の保存」だけではなく、「今」と「未来への貢献」にもフォーカスしている 筆者撮影
図書館は「過去の保存」だけではなく、「今」と「未来への貢献」にもフォーカスしている 筆者撮影

現在はまだ簡単に北欧観光や出張はしにくいかもしれないが、この図書館はもともとデジタル図書館として英語で国際的に開放されている。まずは公式HPをのぞきながら、日々増えるコレクションを楽しんでみてはいかがだろう。

オープニングを祝う関係者 筆者撮影
オープニングを祝う関係者 筆者撮影

筆者撮影
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筆者撮影
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筆者撮影
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北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在16年目。ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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