あなたの「共感力」はどのレベル? ~ある殺人事件の真相を追う刑事にたとえてみた~
誰かとうまくやっていくためには、相手の話を聞くことが大事だ。現代、多くの人がそのことに気づいており、「聞き方」の本は軒並みベストセラーになっている。
しかし共感力が低い人がそういう本を読んでもうまくいかないのが実情だ。自己認識力も低いので、自分がいまどれぐらいのレベル(ステージ)なのかがわからず、改善方法を間違えているのが理由だ。
そこで今回は人の「共感力レベル」を4つに分解して、レベルごとに解説していきたい。
具体的には以下の4つである。
●共感力マイナス
周りから「あの人はわかってない」と思われている
●共感力ゼロ
周りから「わかってる」とも「わかってない」とも思われていない
●共感力プラス
周りから「あの人はわかってる」と思われている
●共感力ありすぎ
周りから「あの人は気にしすぎ」と思われている
最後に番外編として「不快力マックス」を紹介する。
●不快力マックス
周りから「あの人は話にならない」と思われている
最後まで読むことで、あなた自身の「共感力レベル」が理解できます。ぜひ最後までお付き合いください。
※ちなみに、わかりやすく解説するため、それぞれのレベルを殺人事件を担当する刑事にたとえた。
主婦Aさん殺人事件の容疑者――旦那Xさん、親友Yさん、会社の上司Zさんのうち、誰が犯人と思っているのか。それぞれの「共感力レベル」を使って解説する。
■共感力マイナス(わかってないと思われる人)
まずは「共感力マイナス」の人だ。こういう人の特徴を一言で表現すると、
自分が思ってることは当然相手もそう思ってる
これに尽きる。
このような態度を「軽率な一般化」と呼ぶ。この名称の通り、軽率な発言がとても多い。例を紹介しよう。
「やはり、外国人がメンバーにいるとチームがまとまりませんよね?」
「学歴が高いほうが優秀だって言いますしね」
「同じ業界で働いた経験がないと、即戦力にならないじゃないですか」
このように思い込みが激しいので、相手からは
「そうそう。わかってるね」
と言われることもあるが、
「全然わかってない」
「それって偏見でしょ?」
「その考え方、古すぎる。みんなも同じだと考えないでほしい」
と反感を買われることも多いだろう。
ただ悪い人ではない。根はいい人なので「黙ってればいい人」と良く言われる。
たとえるなら、アテにならない推理をして周りにアピールするベテラン刑事だろう。
冒頭ご紹介した「主婦Aさん殺人事件」においては、
「犯人は旦那Xだな。保険金狙いの犯罪に決まってる。証拠はそろってる!」
と、本格的な捜査をはじめる前から決めつけてしまう。
■共感力ゼロ(わかってるとも、わかってないとも思われていない)
「共感力ゼロ」の人の特徴は、よけいな先入観、思い込みをしない人だ。たとえあったとしても口には出さない。
だから「共感力マイナス」の人のように、「君のことわかってるよ」とアピールすることもない。ただ、話しかけるとキチンと聞いてくれるし、求められれば自分の意見も表現する。
また、物事を決めつけることなく事実情報を集め、点と点を繋げて線にすることができる。そのうえで、効果的な質問で相手の悩みや問題点を明らかにしてくれる。
たとえるなら、黙々と聞き込みを繰り返す若手刑事だ。
冒頭ご紹介した「主婦Aさん殺人事件」においては、このように推理する。
「犯人は親友Yだと思います。大学時代からずっと恨みを抱き続けてきたことが、聞き込み調査によって明らかになってますから」
■共感力プラス(わかってると思われる人)
「共感力プラス」の人は、相手に対する深い理解がある。洞察力があり、準備に余念がない。
「共感力ゼロ」の人と同様に、物事を決めつけたりせず、点(事実)と点を繋げて線にすることができる。違うのは、さらにそこから見えない線まで見つけられることだ。
過去の出来事、現在の状況も理解し、効果的な質問で相手に気づきを与えてくれる(アドバイスではない)。
また、周りの人には適切なタイミングで声をかける。相手が話しかけてほしいときに話しかけ、話しかけてもらいたくないときはそっとしておく。そんな芸当もできる。
周囲の人にとっては、何かあれば最初に話したいと思う人だ。そしてひとたび話しはじめれば、他の人には言わないことまで、ついつい話してしまう、そんな魅力がある。
たとえるなら、鋭い嗅覚を持つ敏腕刑事である。
冒頭ご紹介した「主婦Aさん殺人事件」においては、こう推理する。
「これは親友Yを犯人にさせるための、自作自演の事件です。殺されたAさんが2年間書き続けたブログをすべて読めば、Aさんの深層心理が見えてきます。つまり犯人はいません」
■共感力ありすぎ(気にしすぎと思われる人)
「共感力ありすぎ」の人の特徴は、表層的な情感に敏感な人だ。気遣いができるが、とても感覚的で、深い洞察がない。
たとえば、
・笑っているが、実は悲しんでいる
・苦しそうな表情をしているが、意外とそうでもない
このような感情を読みとることができない(共感力プラスの人なら、瞬時に判別できる)。
感情移入しすぎたり、本質とは関係のないことを気にしてしまうので、点と点を繋げることができない。単純なことでも複雑に捉えてしまう。
「最近社長って、ちょっと暗くない?」
「気にしすぎだよ」
「この前、庶務の人が辞めたけど、部長のせいじゃない?」
「それは気のせいだと思うよ」
と、周りの人からたしなめられることも、しばしばある。
相談されると、
「Aさんの気持ちもわかるし、Bさんの気持ちもわかる、どうしたらいいんだろうね」
と同じように悩んでしまう。そんな人だ。
たとえるなら、殺された被害者を見て感情的になっている中堅刑事である。
冒頭ご紹介した「主婦Aさん殺人事件」においては、こんな推理をするだろう。
「犯人は上司Zだと思う。お通夜のとき、時おり笑顔を見せていたのを私は見逃さなかった。部下が死んだっていうのに、普通あんな表情できる? まともな神経の持ち主じゃないよ。あいつじゃないの、犯人は?」
■不快力マックス(話にならないと思われる人)
番外編だ。番外編で紹介するのは、共感力ではなく「不快力」がマックスの人だ。
これまで紹介した人たちは、共感力のレベルはともかくとして、基本的に「いい人」であった。
だが最後に紹介する「不快力マックス」の人は、「共感力」などどうでもいいと思っている人だ。もともと他者に共感するつもりがない。なので、「いい人」ではない。
自分の考えが絶対で、価値観を押し付けてくる。営業であれば売込みばかりする人だ。周りからは
「話にならない」
「できれば一緒に仕事をしたくない」
と思われている。
たとえるなら、でっち上げでもいいから犯人を捕まえろと指図する警部だろう。
冒頭ご紹介した「主婦Aさん殺人事件」においては、推理もしない。
「事件は他にもたくさんあるんだから、旦那Xが怪しいなら、Xを逮捕しろ」
と言いかねない。そんな人だ。
■まとめ
自分のことを「共感力があるほうかな」と認識している人は、おそらく「共感力マイナス」か「共感力ありすぎ」だ。
共感力があると自認すればするほどバイアスがかかる。物事を正しく捉えられなくなるし、準備を怠る。少ない情報で判断しなければならないので、「軽率な一般化」で決めつけてしまうのがクセだ。
「共感力ゼロ」「共感力プラス」の人は、そうしない。なぜか? 基本的に
「他人の気持ちはわからない」
という前提で物事を考えるためだ。だからこそ、いろいろな情報を集めようとする。そして集めた情報から洞察するクセがついているのだ。
自分のことを「深い洞察力のある敏腕刑事だ」と勘違いするのはよそう。痛々しい。
共感力を鍛えるには、まず謙虚になることからだ。