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実話からの男女交際禁止の校則への抵抗と芽生えた恋の行方。見上愛が「恋愛は成長の手段になると思います」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
『恋愛バトルロワイヤル』より

男女交際禁止の校則が制定された超エリート高校を舞台に、様々な恋愛模様が交錯するNetflixシリーズ『恋愛バトルロワイヤル』。生徒会の一員としてカップルを取り締まるパトロールを行いながら、違反者から金を受け取って証拠をもみ消す主人公を見上愛が演じている。自らも恋をして、交際禁止の撤廃を求める裁判を起こす役どころだ。放送中の大河ドラマ『光る君へ』など近年で出演作が相次ぎ、強いインパクトを残してきたが、ドラマの単独主演は初めて。この役への取り組みを聞く中で、独自の演技観も垣間見えた。

役に共感できるかより理解できるか

――『恋愛バトルロワイヤル』の主人公の唯千花(いちか)役はオーディションで決まったそうですが、自分でもハマる感覚はありました?

見上 そういうことは考えてなくて、オーディションはただ「楽しめたらいいな」くらいの気持ちで行きました。実際にお芝居をして、学生時代のお話を監督や脚本家さん、プロデューサーさんたちとする中で、楽しくコミュニケーションが取れて。「いい日だったな」と思いながら帰っていたときに、合格の連絡をいただきました。

――プロデューサーさんの見上さんに対するコメントで、「目の力がすごかった。一方で恋愛のシーンのお芝居はとてもチャーミング」とありました。それは視聴者としても感じたところですが、見上さんの引き出しにあったものですか?

見上 役を演じるうえでどう見えるかは、自分自身と似ているかということではないので。そう感じていただいたとしたら、唯千花として自然に出た目力だと思います。

――恋愛に興味のなかった唯千花の心境が変化して、恋愛禁止の校則の撤廃を要求する裁判を起こす中で、役とご自身は別にしても、覚えのある心情もありませんでした?

見上 それも考えたことがなかったです。役の一番の理解者になることは目指しますけど、共感できるかを考えると狭まってしまう。自分のまだ23年の人生で、経験には限りがありますから。共感できるかより、理解できるかという視点で見るようにしています。

7ヵ月の撮影でブレずに存在し続けようと

――唯千花は「道がなかったら自分で作ればいい」と言ってました。演じるうえでは無関係にせよ、見上さんの23年の中でも、自分で道を作ったことはなかったですか?

見上 私はもともと舞台の演出家になりたくて、そういう大学に入るために部活をハンドボール部から演劇部に移って、演技のことを学ぶために今の事務所の養成所にも入りました。その時々で自分で選択をして、努力はしてきました。

――劇中の真木への気持ちについては理解できました? どの辺で恋心が芽生えていたかとか……。

見上 その辺は観る方がそれぞれ感じてくれたほうが、面白いかもしれないですね。

――唯千花を演じるに当たって、場面に依らず意識していたこともありますか?

見上 私は脚本を読み込んで、作品を紐解いていくやり方をしています。今回は撮影期間が7ヵ月あって、シーンを順番に撮っていくわけではなく、監督も3人いらっしゃいました。それぞれの思い描く唯千花像を取り入れながら、ブレずに存在し続けることは、苦労した点かなと思います。

心を動かす裁判シーンは気合いが入りました

――特に印象深かったシーンはありますか?

見上 裁判のシーンは、唯千花が闘っている姿を見て、いろいろな人たちの心が動くところでもあったので、しっかり演じていきたいと思っていました。校長先生と2人での尋問が、確か台本の6ページ分くらいで、何回もできるお芝居ではないという感覚があって。台詞も絶対に間違えないぞと、いつも以上に気合いが入りました。

――息を呑むシーンになっていました。

見上 撮り終わったあと、たくさんのスタッフさんが「すごく良かった」「感動した」とわざわざ声を掛けてくださって。自分のお芝居が一番近くで観ていた方々に届いたんだと、すごく嬉しくなりました。

――その法廷のシーンや、他にもいくつか涙を流す場面があって、胸を打たれました。

見上 役でいる期間が長かったこともあり、自然に涙が出てくることが多かったです。何カット撮っても、相手の同じ台詞の同じ部分を聞いて、涙が流れてきました。

――見上さんの心に、何かが引っ掛かったのかもしれませんね。

見上 でも、それは自分1人ではできなかったことです。相手のお芝居、美術や照明、環境の全部があって、できた演技なのかなと感じました。

相手と向き合って自分自身とも向き合うように

――『恋愛バトルロワイヤル』は、男女交際禁止の校則を破って退学させられた女子生徒が、学校を訴えた実話が基になっています。見上さんはそういう校則を、率直にどう思いますか?

見上 劇中で、吉田羊さんが演じるお母さんに「唯千花は恋愛を通して、少し大人になった気がします」という台詞があるんです。それはこの作品のキーだと思っていて。恋愛に限らず、いろいろな出来事や人との出会いの中で、自我を確立していく。恋愛で1人の相手と向き合うことで、自分自身ともしっかり向き合えるようになる。そういう意味では、恋愛をすることも成長のひとつの手段なのかな、とは思います。禁止が良いとか悪いとか、私には言えませんけど、かたくなに恋愛は全部ダメとしなくてもいいような気はします。

――見上さんは校則は守っていました?

見上 私の学校では、厳密には校則がなかったんです。自主規制といって、生徒たちが決めている規則だけがあって。私はその自主規制を毎年見直す委員会にいました。生徒から意見を吸い上げて、委員会で話し合って、先生たちに持っていく。その過程で、校則について話す機会はたくさんありました。

――実際に規則を変えたこともあったんですか?

見上 制服が変わりました。私は前の制服も好きでしたけど、別にどちらを着てもいいと。多様性という点からの変更でした。

上手に隠せない不器用な年齢だと意識して

――最近では『Re:リベンジ』での雑誌記者など社会人役が増えていますが、高校生役にもまだ違和感なく臨めました?

見上 相手役の宮世(琉弥)さんが撮影当時は10代で、高校生と年齢が近い方もたくさんいたので。その方たちとお芝居をしていく中で、自分も10代に引き戻された感覚はあります。

――高校生モードに入るために、特にしたようなことはなく?

見上 高校生くらいだと、いろいろなことを上手に隠せなかったりしますよね。気持ちの整理がつかない年齢だから、その辺の不器用さや戸惑いは意識しました。あと、撮影に入る前に、Netflixの『セックス・エデュケーション』という学園ものを観たんです。

――高校生の性をテーマにしたイギリスのドラマですね。

見上 企画書に「観ておいてください」というようなことが書いてあって。この作品から、だいぶ刺激を受けました。イギリスと日本で違いはあっても、これが今の学生の空気感かと学びました。

基準は常に自分の中に置いておきたい

――芸能生活が6年目に入り、出演作が相次いで、今回のような大きい役も増えています。知名度が上がっている実感はありますか?

見上 街で声を掛けてくれる人が増えたことは感じます。

――単純に忙しくなってはいますよね?

見上 お仕事を始めたときは大学生だったので、忙しさ的には同じくらいです。学業と仕事から仕事1本になって、その分、仕事の分量が増えた感じ。忙しいほうが性に合っているので、落ち着きます。

――先ほど出たように、見上さんは裏方志向から、これだけ俳優として活躍されるようになりました。演技に自信が付いてきたりもしていますか?

見上 自信は得ていませんし、逆に不安もそんなに感じてない、というのが素直なところです。俳優の仕事は人に必要としてもらわないと成立しない。0か100かでなく、99の状態の残りの1に加わる感覚もあって。でも、基準は常に自分の中に置いておきたいんです。人に求められたからといって、自分に才能や価値があると単純には思っていなくて。どんなに評価してくださったとしても、自分で納得がいってなかったら、満足はできない。逆に評価されなかったとしても、自分がすべての力を尽くしたことであれば、自信を持てる。人に求められる職業としては矛盾しますけど、そういう感覚はあります。

吉田羊さんに野菜をもらいました

――これまでで、特にハードルが高かった作品はどの辺ですか?

見上 今回の『恋愛バトルロワイヤル』はNetflix作品で、制作に関わる方の人数もすごく多い中で、単独主演をいただいたのは新たな挑戦でした。今までご一緒した主演の先輩方が現場の雰囲気を作ったり、いろいろな人たちに気を配ったりする姿を見てきたので、自分もそんな座長でいたいなと思っていて。役と向き合いつつ、困っている人はいないか、誰かが疎外感を抱いていたりはしないか、何となく周りを見ながら過ごしていました。そういった現場での居方は難しかったかもしれません。

――映画『衝動』でのトラウマから声が出せなくなった役や、ドラマ『往生際の意味を知れ!』での母親への復讐のために妊娠しようとする役などはインパクトも強かったですが、演技自体の難易度が高かった役というと?

見上 ずっと映像だけをやってきて、2年前に松尾スズキさんの『ツダマンの世界』という舞台に出させていただきました。もともと演劇に魅力を感じて、この世界に入りましたけど、観るのとやるのとでは全然違っていて。声の出し方や舞台での立ち方から、いろいろな方に教えていただきました。

――小説家の弟子と関係を持とうとする文学少女の役でした。

見上 今回もお母さん役でご一緒している吉田羊さんにも、すごくお世話になりました。練習につき合ってくださってアドバイスをいただいたり、落ち込んでいたときに野菜をプレゼントしてくれたり。「おいしいのが余っているから」って、さりげなく励ましてくださったんです。そんな先輩たちがいたから、乗り越えられたと思います。

人間的な生活を大事にしようと

――他にも、演技でポリシーにしているようなことはありますか?

見上 脚本を大事に読み解いて、論理的な部分はちゃんと準備して行って、実際に現場で相手と向き合ったら、全部忘れて崩す。ポリシーというほどではないですけど、今のところ、そういうやり方を大事にして取り組んでいます。

――日ごろから演技力向上のために、何か心掛けていたりはしますか?

見上 最近、生活を大事にすることが、演技をするうえでも大事だなと感じています。体力面でも精神面でも、休む時間は大切。ちゃんと食べて、ちゃんと寝ることは心掛けるようになりました。

――たぶん、これからさらに忙しくなる中でも?

見上 生活は変わらないと思います。電車にも乗りますし、友だちとごはんを食べたり、1人でいろいろなところに遊びに行ったりもしています。

――『恋愛バトルロワイヤル』の唯千花は、親友と「成り上がりビジョンボード」を作っていました。見上さんは将来的なビジョンは持っていますか?

見上 役者ということにこだわらず、いろいろな表現をして、人間的な魅力がおおいにある人でいられたらと思います。多面的で多岐にわたる考え方を持っていたいです。

――アンテナを高く張って?

見上 そうですね。相手の行動や言葉の裏側まで、ちゃんとおもんばかったり、自分と意見が違うからといって否定せず、いろいろな考え方を理解する、ということですかね。

ワタナベエンターテインメント提供
ワタナベエンターテインメント提供

Profile

見上愛(みかみ・あい)

2000年10月26日生まれ、東京都出身。2019年にデビュー。主な出演作はドラマ『liar』、『往生際の意味を知れ!』、『春になったら』、『Re:リベンジ-欲望の果てに-』、映画『衝動』、『不死身ラヴァーズ』など。ドラマ『光る君へ』(NHK)に出演中。『恋愛バトルロワイヤル』(Netflix)が配信中。

Netflixシリーズ『恋愛バトルロワイヤル』

監督/松本壮史、太田良、安川有果 脚本/篠﨑絵理子、首藤凛

出演/見上愛、宮世琉弥、水沢林太郎、豊田裕大、秋田汐梨ほか

公式HP

『恋愛バトルロワイヤル』より
『恋愛バトルロワイヤル』より

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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