あいづちで自発性が促される?:肯定的あいづちの持つアイディア受容感・発想の動機づけからの示唆
若手の技能者や部下の育成に関わっているなど人材育成に関わっている方々とお話をする機会がありますが、「自発性」について悩んでいる方が多い印象です。
例えば、「自分で考えてほしいのに、なかなか自分の意見を言ってこない」、「意見をきいても自分で考えているなというような内容がかえってこない」などです。
実は、この問題には育成する方の「あいづち」が影響している可能性があります。
心理学研究に、「発想に及ぼすあいづちの種類の効果」という研究報告が掲載されています(三宮・山口, 2019)。この研究ではあいづちを肯定・中立・否定の3種類に分け、それらの種類が発想にどう影響するかが調査されました。
3種類のあいづちを具体的に見ると、肯定的あいづちが「うんうん」、「そうそう」、「それいい」、中立のあいづちが「うん」、否定的あいづちが「うーん」「ふーん」「はーん」が用いられました。
また発想課題に用いられたのは、高齢化問題(結果を予想する課題)とゴミ問題(解決法を考える課題)でした。
その結果、「結果を予想する場合には、聞き手からのあいづちが肯定的であるほど、話し手の発想を促進する」こと、「聞き手が肯定的あるいは中立的なあいづちを打つ場合には、非肯定的なあいづちを打つ場合と比べて、話し手は課題に対するアイディアを考える意欲が高まっていた」ことなどが明らかとなりました。
つまり、肯定的なあいづちは、「アイディアの受容感」や「発想への動機づけ」を高めること、それらが話し手の「発想量」を増やす可能性があるということが示唆されたのです。
なお論文中に言及がありますが、非肯定的なあいづちが発想を促進しないわけではありません。自分の意見を言ったところ、相手が「う〜ん」と唸っているのを見て、もっと考えなければとか、別の情報も伝えなければと思うこともあります。
それでも、肯定的なあいづちは、発想を引き出す効果があるのでは?という点は、興味深いものです。なぜなら、あいづちが自発性の問題の解決の糸口を持っている可能性があるからです。
すなわち、自発的な意見が出ないとか、意見が少ない場合、部下の自発性の問題だけではなく、育成する方のあいづちが、発想を引き出しにくくしている可能性があるのです。
冒頭で述べた「自分で考えてほしいのに、なかなか自分の意見を言ってこない」、「意見をきいても自分で考えているなというような内容がかえってこない」などの問題で、実は肯定的なあいづちをあまりしていなくて、それで若手や部下はアイディア受容感、すなわちアイディアを受け入れてもらえると感じることができず、結果としてアイディアを出そうという動機づけが生まれにくくなっているのかも知れません。
だとしたら、自分がどういうあいづちをうっているかを一度振り返ってみることが効果的です。そしてもし肯定的なあいづちが少ないのなら、それを増やしてみることで、自発性の問題に変化が起こるかもしれません。
■引用文献
三宮真智子, & 山口洋介. (2019). 発想に及ぼすあいづちの種類の効果. 心理学研究, 90-18311.