技能五輪はどういう大会?人材育成における役割や参加者の概要などの基本をデータを交えて解説
技能五輪全国大会が、今週末(12/17〜19)に東京ビッグサイトなどで開催されます。
技能五輪全国大会は、例えば金属の加工や機械の組み立て、ロボットのプログラミング、お菓子作り、洋服の制作、家具の製作など、42の幅広い分野でおおむね23歳以下の青年技能者が技能の日本一を競う大会です*1。
技能五輪全国大会には200以上の企業と学校から1,000人以上の選手が参加します。図1-1は昨年度の大会の全成績を筆者が所属別にまとめたものの一部です。上位からトヨタ自動車、デンソー、日産自動車と、日本を代表する企業が並びます。4位の関電工は、スカイツリーの電気工事も手掛けた総合設備企業です(グラフ全体はこちらから)。
残念ながら昨年に続いて無観客開催となりましたが、オンラインで全競技の模様が配信されます。
そこでこの記事では、2012年から技能五輪の選手育成に携わり、中央職業能力開発協会の主催する技能五輪関係者向けの研修講師も担当する筆者が、技能五輪全国大会が若手技能者の育成に果たす役割と、参加する選手や競技の特徴について、データを交えながら解説します。
12/24追記
大会の成績が発表されましたので、図1-1と同じ方式でグラフ化しました。1位がトヨタ自動車、2位がデンソー、3位に豊田自動織機が入っています。4位は関電工と、1〜4位のうち3つは昨年と同じでした(グラフ全体はこちらから)。
技能五輪の役割とは?
技能五輪全国大会には技能者の育成において3つの大きな役割があります(図2)。企業や学校における高度人材の育成、技能者自身が自分を知り成長する機会、日本の技能者育成における育成手法の共有と進化という役割です。
まず、高度人材の育成についてです。例えば、企業に所属する技能五輪選手は一般的に、高卒で入社して2〜3年間選手を経験したあと選手を卒業し、現場に配属されます。配属先の多くは最先端の技術開発や試作を行う部署で、こういった部署では、未知の問題や目まぐるしく変化する環境に対応するため、常に新しい視点や工夫が求められます。技能五輪は、毎年課題の難易度が上がっており*2、同じやり方では通用しないため、選手は常に新しい視点を取り入れ、工夫する力が伸ばされます。これらの能力は、現場においても高く評価されています*3。
次に、技能者自身にとっても、技能五輪全国大会は自分を知り成長する機会となります。通常は、同じ仕事をする他社の人と実力を比較する機会はあまりありませんが、技能五輪では年に一回、全員が同じ場所で同じ競技課題、制限時間の中、競い合います。そのため自分の相対的な立ち位置を客観的に把握することができます。
こうした経験から自分が優れている点や改善が必要な点を知ることができ(または突き付けられ)、成長へのヒントがつかめたり、自信が持てたりします。
最後に、日本の技能者育成における育成手法の共有と進化についてです。近年、技能五輪国際大会*4に向けた強化の取り組みの一環として、従来は門外不出だった育成に関する知見や手法を企業間で共有し、より高いレベルへと進化させる流れが生まれつつあります*5。いわば育成手法のオープンソース化です。
また、「技能五輪で成果を出す」という共通の目標を土台として、そのための科学的な訓練手法の導入や、企業間で異なる育成用語を統一してコミュニケーションや情報共有を円滑化するなども行われています。いずれもまだ始まったばかりの取り組みですが、今後の発展が期待されます。
技能五輪の概要とは?:職種や参加者の特徴
技能五輪全国大会は、前述の通りおおむね23歳以下の技能者が42の分野で技能を競います。この分野のことを職種と呼びます。
参加者はおおむね23歳以下ですが、その腕前は経験年数10年以上の熟練技能者にひけをとりません。後述する敢闘賞以上の成績をとると、国家検定の技能検定1級において実技試験が免除される職種もあるほどです*6。
各職種は競技課題の完成度で技能を競います。競技課題とは例えば金属を高精度で加工して組み立てる、流れてくる物資をその特徴に合わせて仕分けるようプログラミングする、指定された菓子や洋服を完成させる、などです。
競技課題は「標準時間」と呼ばれる制限時間内での完成を求められます(図3)。最も長くて12時間、短くて4時間弱です。この制限時間は非常に厳しいもので、一般的には、その道で10年の経験者が10時間ほどかかるものを、技能五輪選手はその半分の5時間ほどで完成させるよう求められると言われます。そのため、時間内に完成できない選手もいます。
時間内に完成できれば、その完成度に応じて順位付けされます。最も優れた選手1名には金賞が、それに続く完成度の選手には銀賞、銅賞、敢闘賞が与えられます*7。銀賞と銅賞は2〜3名が受賞し、敢闘賞はおよそ6〜8名が受賞します。それ以降の選手は、残念ながら賞外となります。
参加者が約1,000人に対して、銅賞以上のいわゆるメダリストになるのは200名ほどです。これを資格や検定に当てはめると合格率20%の狭き門と言えます。
42職種の特徴は?
どの職種も厳しい制限時間の中で難易度の高い競技課題に取り組む点は同じですが、求められることは違いもあります。そうした違いを制限時間と競技課題の得点の2つの軸で整理すると、特徴が見えてきます(図4。詳しくはこちらから)。
横軸は競技時間です。特徴は大まかには次の3種類に分けられます。レストランサービスのような短時間型の職種、機械製図やメカトロニクスのような中時間型の職種、建具や車体塗装のように長時間型の職種です。
縦軸は競技課題の完成度を示す得点です。特徴は大まかに次の2つに分けられます。1つ目は超高精度型です(図の上部や◯の小さい職種)。プラスティック金型などのように参加者の多くが80点以上の高得点となる職種と、旋盤などのように完璧な作業が前提で一つのミスで大幅な減点や失格者も出るため20点以下の者も多くなる職種です。2つ目は問題解決型です(図の下部や◯が中位の大きさの職種)。電子機器組立てや情報ネットワーク施工などのように高得点者と低得点者とがバランスよくいて、ミスがあることは前提でそれらを解決する力が求められます。
もちろんどの職種も超高精度と問題解決のどちらも求められますが、どちらに比重があるかで職種ごとに特徴があります。
技能五輪選手はどんな心理状態なのか?
過去に以下の記事にまとめています。
参加者は都道府県の代表でもある
今年は1,028人の選手が参加予定で、全国最少で知られる山梨県早川町のの人口よりも多くの人が参加します。
選手は所属する企業や学校を代表するのと同時に、出身地や配属先、本社、訓練所などがある都道府県の代表としても出場します。47都道府県に、少なくとも1名以上の代表選手がいます(図5。詳しくはこちら)*8。
最多は愛知県で180人です。最少は高知県と鳥取県で1名です。昨年度の大会では福井県の代表選手が0名でしたが、今年は5名が参加します。
まとめ
この記事では、技能五輪の選手育成に携わる筆者が、技能五輪全国大会が若手技能者の育成に果たす役割と、参加する選手や競技の特徴について、データを交えながら解説しました。
会場で直接見られないのは残念ですが、自宅にいながら全会場を同時に見て回れるのはオンラインの醍醐味です。また、昨年の配信ではとてもわかりやすい解説付きでした。
機械や金属の加工に興味がなくても、お菓子が好きな人は洋菓子製造、ファッションが好きな人は洋裁や美容といったように、少しでも関心がある職種があれば、ぜひ見てみてください。
*註釈(*1〜*8に対応)
- https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/about.html(年齢制限には例外もあります)
- 2017年大会の競技時間が平均464分、2021年大会の競技時間は平均492分。約30分の増加。競技時間の増加は課題の量や複雑さの増加に付随した対応なので、時間の増加は難化の指標となる
- 中西幸則, 田上俊一, 最上拓, & 犬飼英明. (2020). デンソー工業学園における技能競技大会を活用した人材育成. 工学教育, 68(1), 1_111-1_115.
- 技能五輪国際大会 https://worldskills.jp/worldskills/index.html
- 例えば https://www.uitec.jeed.go.jp/training/ka7cok0000000444-att/1833.pdf
- 59 回技能五輪全国大会における 1 級技能検定の実技試験免除対象職種https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/n_59/59_1kyuu_menjo_2021591126.pdf
- 昨年度の大会の入賞者https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/n_58/58_nyuushousya_5820210216.pdf
- 職種・都道府県別の参加者一覧 https://www.javada.or.jp/jigyou/gino/zenkoku/n_59/59_sankasyasu_2021591124.pdf