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4月から小中学校へ携帯電話持ち込み可 大阪は大丈夫か?

竹内和雄兵庫県立大学環境人間学部教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

大阪は4月から携帯持ち込み可?

 10月13日の毎日新聞に「携帯電話 小中校持ち込み禁止を大阪府教委が見直しへ」と書かれていました。「大阪府教委は、府内の公立小中学校で携帯電話の持ち込みを原則禁止としている方針の見直しを決めた」。理由として、「6月の大阪北部地震は登校時と重なり、保護者らから申請なしでの持ち込みを求める声が寄せられ」たことをあげています。2019年4月から、小中学校への携帯電話の持ち込みを認める方向だそうです。これは影響が非常に大きい、大方向転換です。慎重にいかないと学校現場が大混乱に陥ります。今回はこの問題について考えてみます。

大阪は全国を引っ張ってきた?

 大阪府は2008年、小中学校への携帯電話の持ち込みを原則禁止しました。児童生徒の安全確保の理由で保護者が申請し、学校が認めた場合に限り、登下校時の所持を認めてきました。2009年、後を追うかたちで文部科学省は都道府県教委に「小中学校への持ち込みを原則禁止すべきだ」とする通知を出しています。携帯電話のルールについては、結果的に大阪府が国を引っ張ってきたかたちです。実は携帯電話の学校での取り扱いについては国として一律に決まっている訳ではなく、通知等をもとに各自治体等でルールを決めています。立場上、いろいろな場所の先生方と話しますが、石川県が条例で小中学生の携帯電話の所持を禁止している等の例外はありますが、だいたいが文部科学省の通知に沿っています。

 それが急に今回、大阪府が来年の4月から小中学生の所持を認める方向でガイドラインを作るというニュースが飛び込んできました。驚きましたが、実は同じような動きが最近、増えています。例えば関西大学第一中学校はこの6月から携帯電話の持ち込みを許可しました。先日来、登下校途中に地震や台風が相次ぎ、心配した保護者の声に対応したかたちだと言います。登校途中に何かあったとき、今のままでは連絡をつけようがありません。関西大学第一中学校は私学なので、遠方からの電車通学もあり、保護者の心配もよくわかります。大阪の今回の方針変更も同じような背景があると考えられます。時代の流れでしょうが、元中学校教員として非常に心配です。

校長先生たちの不安の声

 大阪の校長先生何人かに聞いてみましたが、ほとんどが寝耳に水で、非常に慌てておられました。知っていた中学校の校長先生も「新聞で読んで知っているが、4月からが心配」と頭を抱えておられました。ある小学校の校長先生は、危機感を持っておられて「校長会として対策を考えたい」と話しておられます。どちらも府教委経由で何らかの問題提起があったわけではないようです。

 私はこれまで、全国各地で、私学が持ち込みを許可する際にアドバイスをしたり、高校の持ち込みのルールについて相談に乗ったりしてきました。現地に赴いて陣頭指揮を執ったこともかなりあります。電話やメールでの対応を含めるとかなりの先例を知っていますが、どこも安定するまでは一筋縄ではいかなかったです。そういう経験から、私が思いつく心配事をとりあえず4つ書いてみます。

心配1「授業中に使わない?」

 1つ目の心配は、学校に持って行くことを許可された子どもたちが、授業中に使わないか、です。これまでも授業中や休み時間にこっそり使う子どもはいましたが、持ち込み禁止だったため、子どもたちはおおっぴらには携帯電話を出すことにそれなりの躊躇をしていました。それが認められるわけですから、先生方にこれまでにない配慮が必要になってしまいます。そうでなくても学校はたいへんなのに、これ以上の負担がかからないか心配です。

心配2「どうやって保管?」

 2つ目の心配は、子どもたちの携帯電話の保管方法です。これまでの例から、朝、何らかの方法で子どもたちから携帯電話を集めることになると思いますが、ここで多くのトラブルが発生します。ずっと持っておきたい子どもは、ダミーの携帯電話を預けます。さらに「預けた携帯電話が破損した」と学校に弁償を迫るケースが続発します。持ち込みを許可した場合、最初の半年くらいは先生方はたいへんです。

心配3「ガイドラインは詳細に?」

 3つ目の心配は、府が4月までに提示すると公言しているガイドラインです。上のような心配があるので、私はかなり詳細なルール設定が必要と思います。しかし、これまでの例を見ると、都道府県教委は「大枠だけ提示するので、詳細は各学校の実情に合わせて」とする場合が多いです。今回のこの問題はそれでは危険すぎます。携帯電話の誘惑が他より強いことは大人も十分にわかっていることです。府として携帯電話の持ち込みを許可するという、大方向転換をするのですから、ガイドライン作りにも万全を期してほしいものです。詳細は各学校で、はなんとしても避けてほしいところです。学校現場ごとに対応できるほど、各学校はノウハウは持っていないし、検討する時間的な余裕もありません。

心配4「学校は準備できる?」

 また、現時点で各学校がこのことを知らないことが非常に問題です。もう11月です。4月まで5ヶ月弱しかありません。いつどうやって誰が携帯電話を預かるのか? 学級委員が段ボールで集めて職員室で保管していたある高校は、途中で学級委員が段ボールを落としてしまい、スマートフォン3台の画面が割れてしまいました。学級委員に損害賠償請求はもちろんできないので、学校が訴えられました。そういう事態も十分に考えられます。

 今回の動きは全国に波及していくことが予想されますので、何回かに分けて書いていくつもりです。ご意見等ありましたら、ぜひお願いします。

兵庫県立大学環境人間学部教授

生徒指導提要(改訂版)執筆。教育学博士。公立中学校で20年生徒指導主事等を担当(途中、小学校兼務)。市教委指導主事を経て2012年より大学教員。生徒指導を専門とし、ネット問題、いじめ、不登校等、「困っている子ども」への対応方法について研究している。文部科学省、総務省等で、子どもとネット問題等についての委員を歴任している。2013年ウィーン大学客員研究員。

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