異色の大河ドラマ『光る君へ』の興味深い舞台裏をNHK制作統括が語った
2024年1月からスタートするNHK大河ドラマは、紫式部を描いた『光る君へ』だ。紫式部役の吉高由里子さんや藤原道長役の柄本佑さんら主要キャストや、脚本は大石静さんが書くことなど概要も発表され話題になっている。
大河ドラマの時代設定としては異色だし、吉高さんの紫式部や大石さんの脚本など期待がもたれ、いろいろな出版社から関連書籍も出版されるなど盛り上がりを見せている。
企画の趣旨や経緯、キャスティングなどこのドラマについて、NHKの制作統括であるメディア総局第3制作センターの内田ゆきチーフ・リードに話を聞いた。とても興味深い内容だ。
「チャレンジしてみようと考えました」
「平安時代を描いたということでは源氏・平家もそうですし、平将門を描いたものもかつてありましたが、『光る君へ』のような平安中期の貴族社会を扱った大河ドラマは初めてです。
大河ドラマでは何年かに1回、女性を主人公にしたものをという企画が上がるのですが、今回は2017年の『女城主 直虎』以来、7年ぶりになります。女性を主人公にというのは、私たちが学んできた歴史の中では限られたものになってしまうのですが、チーフ演出の中島由貴ディレクターと企画について話していた折に、例えば戦国時代となると武家の妻というのは、どうしてもある規範の中で夫を支えて生きる女性とならざるをえない。ただ、そろそろ自分の人生を切り開いていくような女性を描けないだろうかと考えました。
そこで紫式部という、世界でも類まれな長編小説を描いた女性、しかも平安時代という大河ドラマではこれまでほとんど扱ったことがない時代を取り上げるということを含めて、チャレンジしてみようと考えました。キャリアのある大石静さんに脚本をお願いできたのも幸いなことでした」
吉高百里子さんを紫式部にと考えたポイントは
吉高さんを主役にというキャスティングのポイントも聞いた。
「吉高さんが持っている独特の空気感ですね。明るいけれどちょっと謎めいた表情もあるし、芝居の幅が広い女優さんだなとデビューされた頃から思っていました。私たちが思い描く紫式部も、歴史上では変わり者で文学一本やりの女性と描かれることもありますが、ドラマの上では生身で息づいていて、観ている現代の人たちがその心情に寄り添える女性にしていきたいと思いました。そういう女性像を気負わずに共に作っていただけるような実力があり、笑顔や涙などの表情に、観ていてつり込まれるような面を兼ね備えた方をということで選びました。大石さんとの話では、平安装束が似合いそうな人というのも重要な要素としてあがりましたね」(内田チーフ・リード)
「権力者と大作家という道を歩む二人」が描ければ…
ドラマはどういうストーリーとして展開されるのだろうか。
「紫式部自身をドラマチックに描くということもありますが、大河ドラマとなると、その時代の政治や社会がどうだったか見えていかないと、そして動いていかないといけないので、当時の権力者だった藤原道長が登場します。
『源氏物語』はその権力者のオーダーもあったろうし、紙は非常に貴重なのでバックアップがないとあんな長編は書けなかったと思うのです。だから道長はある種パトロン的な要素もあったのではないか、二人の関係がどうだったのか、実は諸説あって本当のところはわからないのです。大石さんと話し合って、二人が精神的に結びついた男女だったとしたら面白いのではないかという話になりました。
ソウルメイトと表現していますが、権力者と大作家という道を歩む二人が描いていければよいなと思っています」(同)
時代考証・風俗考証にはかなり力を入れた
大河ドラマの場合、時代考証が必要になるが、準備をどう進めたのか。
「平安時代を正面から描いていくには新たに準備しなければいけないものがかなりありました。歴史の専門家をお呼びして勉強したり、台本ができるごとに時代考証会議というのを開いて、このシーンはどう描けばよいのか、天皇の前ではこういう身分の人はどこに居ればよいのか、女性はその場に居てよいのか、そういう具体的なことを質問していきました。
どの大河ドラマでも時代考証・風俗考証はやるのですが、『光る君へ』の場合はかなり一生懸命やっていると自負しています。平安時代の女性は意外とアクティブで、戦国時代などと比べても当時はおおらかですし、例えば百人一首も男性が先とかでなく男女ばらばらに並んでいるのです。文化の上では、こうあらねばならないという規範から離れて意外に自由が花開いていた時代なのかもしれません。そういう自由さはドラマを観る方々にも知ってもらいたいと思っています。大石さんの脚本はすばらしいので楽しんでいただきたいと思います」(同)
撮影は5月末から行われているという。番組は1月7日(日)からスタートする。映像がとても鮮やかだそうなので楽しみだ。