転職を阻む「嫁ブロック」 問題の半分は嫁ではなく自分自身にあり
リスクのない転職はないとはいえ、まさか家庭内に転職を止めるリスクがあった?
「嫁ブロック」というキーワードがネットでちょっと話題となりました。
転職の内定をもらい、よしこれでキャリアアップだと妻に報告をしてみたところ強い反対を受け、転職を断念、内定をくれた会社に断りを入れるということが少ないのだそうです。
エン・ジャパンの調べでは46%が家族に転職を反対された経験はあるとし、家族に転職を反対された人のうち、「辞退したことがある」の割合は51%だといいいます。
(同調査を紹介する記事)
実は今はここ十数年の中で最大の転職チャンスが到来しています。団塊世代が70歳を超え始めており完全に引退し始めている一方、新卒社会人については少子化が顕在化しており人数が減少、「正社員」として高い給料を払ってでも使える人材が欲しいと企業は考え始めています。
統計でみても正社員の有効求人倍率が1倍を超えていて、1.13倍でここ数カ月は推移しています。これは最悪時期が0.3倍を割っていたことを考えると、転職の可能性が4倍増になっているようなものです。今は転職の大チャンスといえます。
ところが転職の内定までこぎつけて、新しい活躍の場、将来のキャリアアップのチャンスを手に入れたというのに「嫁ブロック」により内定辞退をするというのは残念な話です。
しかし「嫁ブロック」というと悪妻が余計なことをしている、というイメージで語られがちですが、これは本当にそうなのでしょうか。
もしかすると、理由の半分(あるいはそれ以上)は夫自身にあるのかもしれません。
そもそも論でいえば、嫁ブロックは事前相談不足の証明でもある
基本的な構図でいえば嫁ブロックについて「嫁が悪い」と決めつけるべきではないと思います。なぜなら、嫁ブロックをもらった、というケースの多くは、「嫁にきちんと経過報告や事前相談をしていなかった」から起きていると考えられるからです。
あなたがどれほどグッドニュースだと言っても、「そもそもなんで転職する必要があるのか」も分からない、「そもそも転職活動をしていたことを知らなかった」状態でいきなり転職が決まったと告げられたとすれば、あなたの配偶者は素直に祝福をすることができないでしょう。
年収が増えるのか減るのか、将来の安定はどうなるのか、今の仕事を辞めて失うものが何で新しい仕事で得られるものが何なのか分からないのに諸手を挙げて賛成するわけにはいきません。
転職の了解がいるかどうか、といえば配偶者のOKは絶対に取り付けるべきです。しかしそのために必要なのは「決まった報告」ではないのです。むしろ「決まる前のコミュニケーション」のほうが大事だといえます。
特に問題となるのは今の年収よりダウンすることを受け入れたうえで将来に向けたチャレンジをしてみたい場合でしょう。
専業主婦、パートの嫁ブロックはどう考えるか
もう少しケースとして分けて整理してみましょう。「妻が専業主婦」「妻がパート」という場合と「妻が正社員」という場合では嫁ブロックの対応も違ってくるように思います。
まず考えてみたいのは世帯の年収のほとんどを夫が稼いでいる「妻が専業主婦」「妻がパート」の状態です。この場合、特に反対を受けるのは年収が下がる転職でしょう。
夫の年収が世帯の生活費のほとんどを稼いでいる状態であり、妻は無収入か年100万円に満たない働き方である場合、夫の年収ダウンが50万円以上生じる場合、それは生活水準の引き下げそのものです。また具体的に新しい会社の年収が分からないのも反対されることになります。
もし年収が50万円下がれば手取りでいえば月3万円くらいの節約が必要になるでしょうし、子どもがいたり住宅ローンを抱えていれば将来の支払い能力に不安を覚え反対するのはむしろ当然のことです。
だとすれば、「夫婦として年収をアップする方法として妻に働いてもらうこと」や「短期的な年収減が将来的にはどう動くのか」とか「今の会社のままではダメな理由(このままではブラックな会社につぶされるとか)」などをしっかり話して答えを見いだすようにしなければいけません。
そうなると、転職活動以前から夫婦間で話し合う必要がありますし、面接などの経過報告も欠かせないことになります。面接を受けている会社の好印象などを事前に伝えておくだけでも嫁ブロックのリスクは下がるはずです。
「自分がひとりで稼いでいるのだから、稼ぎ方はひとりで自分が勝手に決められる」とは思わないことが大切です。
共働き正社員妻の嫁ブロックはどう考えるか
夫婦とも正社員である共働き夫婦の場合、嫁ブロックはどうなるでしょうか。
この場合、夫ひとりの年収にふたり(あるいは家族全員)の生活が依存しているわけではありません。しかし、夫婦でそれなりの年収を確保していても、その年収に見合った生活を楽しんでいる場合(あるいは子育て等の支出をなんとか共働きやりくりしている場合)、簡単に年収減少を受け入れてもらえるとは限りません。
こちらもやはり、事前の話し合いがカギとなるでしょう。妻も年収を400万円以上稼ぐことができている夫婦である場合、一時的に夫の年収ダウンがあっても乗り越える力はあるからです。
例えばベンチャー企業の要職を担う転職で、将来の大きなリターンが期待できるような場合はきちんとそのリスクとチャンスを説明すれば交渉の余地が生まれます(まさに「家庭内交渉」が必要です)。
あるいはあまりにもブラックな職場で得られている高収入であるため、体力的(精神的)限界が近づいていることを訴え、年収はダウンするものの労働時間見合いでいえば悪くない転職であることを理解してもらうのもひとつの交渉でしょう。
ただし、自分が新たな会社を興す「創業」については、夫婦の財産をあまり取り崩さないことと妻をそのチャレンジの道連れにしないことが大切です。むしろ「嫁は嫁の仕事を続けて夫婦の年収は○百万円は維持される」ことが家庭においては重要だと思います。なぜなら失敗の可能性は無視できないからです(あなたが絶対に失敗しないと思っているのなら、一度立ち止まって自分の創業のリスクを洗い直すべきでしょう)。
まとめ:転職の必要性を家庭内で説明できていないようでは転職後の協力も得られないと考えよう
夫婦は、戦場で助け合いながら戦い続けるパートナーであるはずです。共働きか片働きかの違いこそあれ、夫婦は役割分担をしつつ一緒にがんばっているわけです。しかし、あなたが独りで戦っている状態になってはうまくいきません。嫁ブロックをもらうということは、もしかすると「稼ぐ」という苦労をあなたが独り相撲にしてしまった結果なのかもしれません。
また、もし嫁ブロックを無理に押し切ったとしても、転職先でしばらく苦労する時期に、相方の協力を得られないかもしれません。私はそちらのほうが辛いのではないかと思います。
転職後、しばらくはストレスのある生活を送ります。おそらく慣れるまでに数カ月くらいはかかるでしょう。オフィスのローカルルール(コピーをどうするとかお茶を出してもらうのはどうするかとか、応接室を予約するのはどうやるかとか…)を覚えるだけでもちょっと時間がかかりますし、「外様」として社内の人間関係に気をつかう必要もありますし、そこそこのアウトプットを出して自分の能力を示す必要もあります。
そのとき、家庭でいたわってもらい、リラックスできる環境がなかったら転職後のスタートがうまくいきません。
「嫁ブロック」を受けたとしたら、むしろその転職活動の取り組みと家庭内の情報共有の取り組みそのものを見直してみたほうがいいかもしれません。
あなたの嫁を悪者にしても、あまりいい結論にはならないのです。