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【追悼】山崎元氏、大江英樹氏、日本の個人投資家を育てた20年を想う

山崎俊輔フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP
山崎元氏、大江英樹氏が奇しくも1月1日の同日に亡くなられた。(写真:イメージマート)

2024年1月1日、金融経済教育における二大巨頭が逝く

1月5日、2つの訃報が配信された。山崎元さんと大江英樹さんが亡くなられた、という記事である。奇しくも同日である1月1日に旅立たれたという。

山崎元さんは食道癌の再発でステージ4であることを公表していた。余命の僅かなことも公表しながら執筆活動を精力的に続けていた。享年65歳。

大江英樹さんは急性白血病の入院から退院しリハビリに励んでいることを公表していたが、体調が悪化し帰らぬ人となった。享年71歳。

本コラムのタイトルを見て読み始めた読者に、個人投資家向けの金融経済教育に大きな役割を果たしたおふたりのプロフィールを詳述する必要はなかろう。新NISA元年であり、金融経済教育推進機構も設立され金融経済教育が大きく進展するこの年に、ふたりが相次いでお亡くなりになるというのはとても悲しいことだ。

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※YouTube動画でも解説しています。お時間ある方は合わせてご覧ください。

筆者はおふたりともにご縁があった

おふたりが、多くの著書を持ち、多くの講演を通じてたくさんの個人投資家に影響を与えたことは誰もがご存知のことと思う。実は筆者は、おふたり共にご縁があって少なからぬ繋がりをいただいた。それが本コラムを書いて公開しようと思った動機である。

山崎元さんは独立前後にお世話になった。投資教育会社を志向していたFP総研に転職をするきっかけを作っていただき、そこで投資教育について学ばせていただいた。その後、メンタルを崩してしまい無職になろうとしていた私のリスタートも支えていただいた。

このとき、金融商品販売業者の資質向上を目指した「投資プランナー」テキスト(金融財政事情研究会)を作成したり、確定拠出年金関係者の専門資格であるDCプランナー(日商・金融財政事情研究会)のテキスト作成などにも共に関わった。1999年から2000年に作られたが、日本の投資教育コンテンツのベースではないだろうか。確定拠出年金の継続投資教育のサブテキストを作るようなところでもご縁があったりした。

大江英樹さんとは、確定拠出年金制度の普及推進において接点があった。私は商工会議所年金教育センター、企業年金連合会と席を移しながら、確定拠出年金の普及・発展に関わっていたが、NSAS(野村證券の確定拠出年金ビジネスの会社。当時。)にいらっしゃった大江さんと何度も仕事をした。

企業年金連合会の「企業型DC制度運営ハンドブック」「企業型DC継続投資教育実践ハンドブック」では議論のとりまとめでも大変お世話になった(私は事務局側。後者のハンドブックでは座長もお願いした)。導入企業や金融機関の責任を問うたり、より具体化した投資教育コンテンツをまとめた有用なハンドブックである。

また、厚生労働省の審議会のひとつである「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」では委員として席を並べ、法律改正の施行準備に関する議論を行った。iDeCoが今のように普及する前のことである。

一般向けの書籍などの背景で十分ふたりの功績は知られているところだが、こうした個人投資家育成、金融経済教育に役割を果たされてきたことはちょっとでもご記憶いただければありがたい。そしてこの20年のあいだ、私もおふたりといくつかの接点を持ちながらこの業界で過ごしてきたことになる。

日本の個人投資家を育てた立役者のふたり

日本の勤労者、普通に働く会社員が投資家となるためにはいくつかの条件が必要だった。私は3つの要件が必要だったと考える。すなわち、

  1. 条件1:低コストの金融商品の誕生
  2. 条件2:販売者側の適切な商品提供体制の確立
  3. 条件3:個人投資家側のリテラシー向上

この3つの条件はいずれが欠けてもバランスが悪い。これらの重要性を訴え、また個人向けの啓発活動を行ったのがお二人であった。

山崎元さんが高コストな運用商品を安易に販売する金融機関を厳しく指摘していた時期に、大江英樹さんは企業型確定拠出年金を通じて低コストの投資信託を購入するプランを企業に提供していた。二人の取り組みはどこか通じるところがあったように思う。

そして、おふたりともに執筆・講演で多くの個人投資家を啓発した。おふたりの著書を投資のきっかけとした人は多いはずだ。その内容は常に個人投資家ファーストであって、金融機関の都合には忖度しない切り口であった。時には軽妙に、あるいは時には辛口な筆致で投資を語る文章を、書籍やコラムで目にしファンとなった人は数え切れない。

今となっては、インデックスファンドの運用コストは大きく下がった。NISA制度の普及も進み、個人投資家が投資を行う条件は20年かけて革命的に改善されたと思う。企業型の確定拠出年金およびiDeCoの利用者数も合計で1000万人を超えている。

こうした個人投資家を育てる立役者であったおふたりが、同日に相次いでお亡くなりになられたというのは、不思議な符合と感じる。

お金の先にある、幸せな生き様を示して旅立たれたふたり

ところで、おふたりとも、個人投資家の育成に携わられた先で、「お金と幸せ」というべきテーマにも触れていたことを最後に取り上げておきたい。

山崎元さんは、人生相談本やコラムをいくつか著しているが、癌の闘病以降はさらにその感覚が研ぎ澄まされていた。楽天証券トウシル、ダイヤモンドオンライン、あるいはnoteに書かれてる心境は「お金と幸せ」のつながりを考えさせるものも多い。死を直前にしてここまで冷静に分析し、読者に伝えようとするのか、と感じ入る文章だった。

大江英樹さんは、日本版「DIE WITH ZERO」ともいえる著書「お金の賢い減らし方~90歳までに使い切る」を昨年発表、お金を貯め込んだって天国に持って行けるわけではなし、幸せのために生きているうちにお金を使わなくては意味がないということを伝えていた。

おふたりとも、お金を「増やす」ことはあくまで手段であって、本来の目的は幸せを得ることにお金を「使う」ことだとよく知っておられた。それを伝えようとしていた。

実際、山崎元さんは気に入った人にお酒をご馳走することが好きで、私も何度かご馳走していただいたものだ(これがまたいいお値段のお酒ばかりだった)。大江さんは美食や旅行が好きで、粋人としても知られていた(うちの長男誕生時にはマザーズバックをプレゼントいただいたが、これが洒落ていてすり切れるまで使わせてもらった)。

ただ、お金を貯めて増やせばいいというだけが、FPの仕事ではないということを私たちに教えてくれたようにも思う(おふたりはFPという言葉は自称しなかったが)。「幸せ」がまずありき、なのだ。

追悼のひとこと

ふたりとも投資信託の活用を個人向けに発信していたおふたりだが、個別株が好きな人でもあった(そもそも、個別株投資を否定していたわけでもない)。同日にお亡くなりになられたということは、一緒に天国の階段を登りながら、今頃は仲良く個別株の話題で盛り上がっているのではないかと思う。

おふたりにご縁をいただき、指導をいただいた者としては(申し訳なくて弟子なんて名乗ることもできないが)、真っ当な発言を、資産運用や個人のマネープランの世界で発信し続けていきたい。それだけは誓っておきたい。

山崎元さん、大江英樹さん、今までありがとうございました。

※YouTube動画でも解説しています。お時間ある方は合わせてご覧ください。

フィナンシャル・ウィズダム代表/お金と幸せについて考えるFP

フィナンシャル・ウィズダム代表。お金と幸せについてまじめに考えるファイナンシャル・プランナー。「お金の知恵」を持つことが個人を守る力になると考え、投資教育家/年金教育家として執筆・講演を行っている。日経新聞電子版にて「人生を変えるマネーハック」を好評連載中のほかPRESIDENTオンライン、東洋経済オンラインなどWEB連載は14本。近著に「『もっと早く教えてくれよ』と叫ぶお金の増やし方」「共働き夫婦お金の教科書」がある。Youtube「シャープなこんにゃくチャンネル」 https://www.youtube.com/@FPyam

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