物価上昇が続くと老後に2000万円は4000万円に化ける? 4つの対策で乗り越えよう
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物価上昇が続けば「老後に2000万円」が「老後に4000万円」に化ける?
テレビ朝日「グッド!モーニング」で紹介されたニュース「「老後2000万円問題」もはや「4000万円」と専門家が分析 円安、物価高が直撃」が記事となってYahoo!ニュースで配信されています。
このニュース、私が取材を受け、コメントさせていただいたのですが、話しきれなかった部分も多かったので、ちょっとコラムにしてみたいと思います。
「老後に2000万円」実は今は「老後に1400万円」
「老後に2000万円」というのは、2019年6月、金融庁の金融審議会市場ワーキング・グループが公表した報告書「高齢社会における資産形成・管理」で指摘されたものです。2017年時点での年金生活夫婦の家計は公的年金等の収入と支出額との差が月5.5万円ほどあり、人生100年時代を想定すれば2000万円ほどになるというものです。
実際には、年金生活夫婦の平均資産額は2484万円ありますし(現役時にはお金があまりなくても、定年退職時に退職金をもらって一気に資産額が増える家庭は多い)、この「不足」というのは教養・娯楽費、交際費など、「老後を楽しむゆとり予算」ですから、飲み食いすらできないという話ではないのですが、当時はずいぶん炎上したものです。
実はこの「老後に2000万円」今はだいぶ縮小していることは知られていません。老後に2000万円が騒ぎになった2019年のデータを翌年みると「老後に1188万円」になっていました。コロナ禍で出費を抑えた2021年は「老後に648万円」とさらに半減しました。2000万円からすれば3分の1です。
物価上昇傾向が明らかとなり、また旅行などにも出かけ始めるようになった2023年には「老後に1368万円」まで増えていますが、それでも2000万円に戻っていないのです。
結局のところ、老後に必要なお金を「ある年の平均×30年」で考えることは、目標を考えるときにだけ意味があることであって、実際のやりくりとは違うということがよく分かります。
物価上昇の影響は「あなたの未来」にも及ぶ
しかしながら、老後の出費に確実に影響を及ぼすものとして「物価上昇」と「税、社会保険料負担(自己負担含む)増」があります。今気をつけなければならないのは、物価上昇でしょう。
仮に年3.5%の値上げが20年続くと、1000円のシャツも約2000円になります。値段が倍になるわけです。そうすると、今現在のイメージで「老後に2000万円を目標に貯めよう」という計画が仮に20年後達成されたとしても、実際には今のお金の感覚では1000万円くらいの買い物しかできないことになります。
そう、物価が上昇すれば、将来に必要なお金の額は増えていきます。年3.5%の物価上昇が続けば20年たつころには「老後に4000万円」の準備が必要になっていく、というわけです。
年3.5%の物価上昇が本当に20年も続くのか、という疑問はあろうかと思いますが、将来のビジョンを考えるとき必要なのは「いつ」の精度よりも「起きるか、どうか」の認識だと思います。物価上昇が続けば、モノの値段が上がり、将来の生活に必要な額が増えていくことは間違いありません。現状の物価上昇が近い将来にデフレに逆戻りするというのはもはや考えにくいことだと思います。未来のお金の準備はそれに備えていく必要があるわけです。
世界的に見れば(あるいは高度経済成長時代の日本まで振り返ってみれば)、20年くらいかけて物価が大きく上昇するのは珍しいことではありません。ニッセイ基礎研の山下大輔氏のコラム「新社会人のための経済学コラム 第154回 日本の物価は35年前と比べて約2割上昇したが、世界に比べると・・・」ではG7各国の物価上昇の推移をグラフで示していますが、1987年を100とすると日本以外の6カ国は2022年には150以上に伸びており、アメリカやドイツは250まで達しています。「20年で物価が倍」はそうおかしいことではないのです。
(記事はこちら)
「老後に4000万円」の対策は4つある
テレビの取材はだいたい30~1時間くらい話します。実際にオンエアされるのは数分ですから、ほとんどは割愛されることになります(それは仕方ないことです)。実はこの取材でも「老後に4000万円対策」をずいぶん話しました。アナウンサーの方にも質問をたくさんもらって回答していますが、記事などではそこが触れられていないので、ここで紹介をしておきたいと思います。
対策は4つあります。
1つは「公的年金を増やす」です。どんなに長生きしてももらえる公的年金を増やすことは老後の収支を大きく改善します。「夫婦共働き(ふたりとも厚生年金)で年金を多くもらう」「66歳以降に繰り下げてもらい始めれば一生ずっと年8.4%の増額でもらう」は大きな対策です。特に共働きで女性も月5~6万円の厚生年金をもらえれば、それだけで「老後に2000万円」分の収入増になります。
2つは「会社の退職金・企業年金制度をチェックする」です。多くの会社には退職金・企業年金制度がありますが、上場企業など1000~2000万円水準であることもしばしばです。まずはもらえるのかどうか、いくらもらえるのかを社内で調べてみましょう。なお正社員夫婦はふたりとも退職金をもらうことで、これまた「老後に2000万円」確保になりえます。
3つは「長く働く」ことです。70歳くらいまで働ける世の中にシフトしていいますし、労働条件も徐々に良くなっています。長く働けば「貯める時間は少し増え、使う時間は少し減る」ので、老後のやりくりがぐっと改善します。まさに不足している収支にあたる月5万円くらいだけ稼ぐようなゆるい働き方もありでしょう。預金残高は減らさずにやりくりできることになります。
最後のテーマは「資産形成」です。自助努力での資産形成をしてお金を上積みすることがやはりポイントになります。税制優遇のあるNISAあるいはiDeCoを活用していきたいところです。これらの制度を活用することは投資信託等を通じて物価上昇率よりも高い利回りでお金を増やすことにも通じます。
「老後に4000万円」準備世代とリタイア済み世代で対策は違う
取材を受けるとき、話しても残念ながらオンエアではカットされる部分がたくさんありますが、未来は「老後に4000万円」に変わっていくことだけでも伝わればいいかなと思っています。
ところで、「老後に4000万円」だとして、現役世代とリタイア済みの世代で対策は変わってきます。
まずまだリタイアを控えていて準備をしている世代は目標の上方修正を油断なく行っていく必要があります。物価が2倍になっていく時代を実感し、あるいは少し先読みして、自分の準備目標額を引き上げていくことが必要です。
このとき、注意したいのは運用で高利回りを得られたとしても「(運用成績)-(物価上昇率)=(実質的なお金の増加率)」ということです。運用の収益が7%のような高利回りになっても、実質は3.5%だったとしたら、正味の資産増は3.5%分しかないからです。この感覚、デフレ時代にはなかったものなので、インフレ時代の資産運用では要注意です。
リタイア世代の対策はまた違ってきます。リタイア済みの世代は新規にお金を積み立てていくわけではなく、すでにある資産の管理運用だけで20年ないし30年の老後を過ごしていくことになります。
つまりお金をインフレ並に増やし続ける必要があるのですが、かといって資産のほとんどを株式投資につぎ込むことにはリスクがあります。リーマンショック級のインパクトがあったら、短期的には30%マイナスもありえますが、経済の回復をのんびり待つことはメンタル的に厳しいでしょう。
となると、実質マイナスであったとしても銀行預金をある程度残しつつ、資産の一部は投資で実質目減りにならないようコントロールするほかありません。一方で、70歳代後半あるいは80歳代以降は加齢による判断能力の低下もありえますから、無理は禁物です。
実は国の年金収入は物価上昇にある程度追随してくれます(2024年度は2.7%増額されている)つまり日常生活費の値上げ分の多くは年金額のアップでカバーできることになります。それ以外の部分について、手持ちのお金を管理しつつ、節約等でうまく乗り切っていく工夫が年金生活者には求められます。
まとめ:「(現在の)老後に2000万円」はもはや「(未来には)老後に4000万円」 カッコ部分が大事
「老後に4000万円」の説明を10~15分くらい使わせてもらい話すなら、フルバージョンはこんな感じです。タイトルはどうしても端的にかつキャッチーにつけられます。たとえば今回のYahoo!ニュース記事のタイトルも
「老後2000万円問題」もはや「4000万円」と専門家が分析 円安、物価高が直撃
となっていますが、
「(現在価値の)老後2000万円問題」もはや「(未来においては)4000万円」と考えるべき
ということの略ですよね。そこをいきなり「老後に4000万円になりました(確定)」、みたいになってしまうのはちょっと刺激的すぎる感じもします。
でもまあ、注意喚起も大切なことなので、なかなか難しいところです。実際、「老後に2000万円」と騒がれたことで、誰もが老後の備えも意識するようになり、それはiDeCoやNISAの利用者増につながっていますからね。
今回のニュースも、自分なりの「老後にX000万円」を考えるヒントになればと思います。
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