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シリア北西部イドリブ県で戦闘再燃の兆し、北東部ではトルコ、ロシアを巻き込んだかたちで無秩序が続く

青山弘之東京外国語大学 教授
ANHA、2020年5月19日

北西部でシリア軍と反体制派の戦闘再燃の兆し

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構(旧シャームの民のヌスラ戦線)が軍事・治安権限を握るシリア北西部では、5月16日以降、同組織が主導する反体制派とシリア軍の戦闘が再び激しさを増しているようである。

同地では、3月5日のロシア・トルコによる停戦以降、戦闘は小康状態が続いていた。だが、ロシア国防省によると、16日には3件(イドリブ県3件)、17日には11件(イドリブ県7件、ラタキア県1件、アレッポ県3件)、18日には6件(イドリブ県5件、アレッポ県1件)の停戦違反が確認された。

トルコ側の監視チームも16日に4件(イドリブ県3件、ラタキア県0件、アレッポ県0件、ハマー県1件)確認した。

19日の戦闘では、シャーム解放機構の砲撃により、カフルナブル市一帯でシリア軍兵士3人が死亡、5人が負傷している。

なお、17日には、イドリブ県アラブ・サイード村で、シャーム解放機構とフッラース・ディーン機構のメンバーからなると思われる武装集団も交戦、フーア市近郊では、チェチェン人戦闘員(コーカサスの兵)司令官が何者かの襲撃を受けて死亡している。

また、19日にはジスル・シュグール市近郊のカニーヤ村でジハード主義者(所属組織は不明)の車に仕掛けられていた爆弾が爆発し、1人が死亡した。

北東部での無秩序続く

一方、シリア政府、クルド民族主義組織の民主統一党(PYD)が主導する北・東シリア自治局、トルコが割拠する北東部のハサカ県では、トルコ軍とその支援を受ける国民軍(いわゆるTurkish-backed Free Syrian Army、TFSA)が5月19日、北・東シリア自治局とシリア政府の共同統治下にあるタッル・タムル町近郊のカースィミーヤ村、ダルダーラ村を砲撃し、農地で火災が発生した。

英国で活動する反体制系NGOのシリア人権監視団によると、これを受けて、ダルダーラ村近郊の放牧場の基地に駐留するロシア軍部隊が反撃、砲撃を行った。

ハサカ県では連携しているトルコ軍と国民軍だが、ラッカ県ではスルーク町近郊の検問所に駐留するトルコ軍兵士と、国民軍に所属する東部軍の戦闘員が口論となり、トルコ軍側がこの戦闘員を射殺した。

これに関して、東部軍(国民軍第1軍団第146旅団所属)は声明を出し、射殺されたのがアブドゥッラー・スフビー・アブドゥッラー氏(アブー・ハイダル)なるメンバーだとしたうえで、トルコ政府に殺害にいたった経緯を明らかにするよう求めた。

このほか、アレッポ県では、シリア人権監視団によると、トルコの占領下にあるアフリーン市内で、国民軍に所属するシャーム戦線と、ダマスカス郊外県からの移住者が交戦し、住民1人が死亡、子供を含む4人が負傷した。

(「シリア・アラブの春顛末記:最新シリア情勢」をもとに作成)

東京外国語大学 教授

1968年東京生まれ。東京外国語大学教授。東京外国語大学卒。一橋大学大学院にて博士号取得。シリアの友ネットワーク@Japan(シリとも、旧サダーカ・イニシアチブ https://sites.google.com/view/sadaqainitiative70)代表。シリアのダマスカス・フランス・アラブ研究所共同研究員、JETROアジア経済研究所研究員を経て現職。専門は現代東アラブ地域の政治、思想、歴史。著書に『混迷するシリア』、『シリア情勢』、『膠着するシリア』、『ロシアとシリア』など。ウェブサイト「シリア・アラブの春顛末記」(http://syriaarabspring.info/)を運営。

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