【目黒区】連日大盛況「千年雛めぐり~平安から現代へ受け継ぐ想い~百段雛まつり2024」を見逃すな!
ホテル雅叙園東京・東京都指定有形文化財「百段階段」で行われている「百段雛まつり」、皆さんはもうご覧になりましたか?
「百段雛まつり」は日本各地の雛が集い、早春を彩る人気企画として第1回目の2010年から2020年まで11回行われ、63万人以上を動員してきた大人気企画です。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で2020年は3月3日をまたずに早期閉会。再開を望む声が多数寄せられていたとのこと。
しかし全国各地からお雛様をお借りするという壮大な企画。準備期間に2年以上かかるため、再開までになんと4年の歳月を要してしまったそうです。
その待ちに待った「百段雛まつり」が2024年1月20日(土)からついにスタート。2月14日(水)現在で、すでに来場者が1万人を突破したそうです。
4年ぶりとなる「百段雛まつり」、さっそくご紹介していきましょう。
今話題の「源氏物語」をテーマにしたお雛様からスタート
展示会場である文化財「百段階段」に向かうエレベーターを降りると、真っ先に目に飛び込んでくるのは「東玉(とうぎょく)」が源氏物語をモチーフに制作した現代雛(親王飾り)です。
白を基調としたデザインは息を吞むほどの美しさ。
「源氏物語」を書いた紫式部を主人公にしたNHK大河ドラマ「光る君へ」もスタートして、まさにタイムリーなお雛様、というわけです。
お雛様の飾り方は宮崎県綾町で行われている「雛山」のスタイル。
「雛山」とは綾町に江戸時代から伝わる伝統の風習で、女の子が生まれると親戚や近所の人たちが木や花木を持ち寄り、家の奥座敷に山の神が住む風景を再現したのが始まりといわれています。
山の神は女性であり、山の神が住むのにふさわしいものでお祝いしてあげたいという思いが込められているそうですよ(参照元:綾町ホームページより)。
「十畝(じっぽ)の間」では各時代を彩ってきた個性的なお雛様が勢ぞろい
文化財「百段階段」の最初のお部屋「十畝の間」では、お雛様の歴史や地域ごとの特色、違いなどを楽しむことができる展示となっています。
また、過去に開催された「百段雛まつり」で飾られた全国各地のお雛様も再展示され、イベントの歴史も辿れる演出となっていました。
お雛様の原型は平安時代にあった「流し雛」といわれています。「雛流し」ともいわれ、雛まつりの原点ともいわれる行事です(引用元:東玉ホームページより)。
「雛流し」は子どもの無病息災を願うために始まったようで、「源氏物語」の中にもお祓いをした人の形(かたしろ)を舟に乗せて、須磨の海に流したと書かれているとか。
その時に川に流していた人形が立ち姿でした。
また、宮中の女の子たちが行った「ひいな遊び」というおままごとが原型という説もあるようです。お人形に着物を着せる、調度品を揃えて飾るなどして遊ぶ様子を「枕草子」などでも紹介されています。
当初は紙を使った簡素な作りだった「立雛」。
現代では木の胴で腕を取り付け、顔を桐塑(とうそ)で作り、胡粉(ごふん)を塗り、衣裳の生地を型紙に合わせて裁断するなど、細かな工程を経て作られています。
衣裳も豪華で贅を尽くしたものへと変化しました。
「立雛」は基本的にお道具がつかないシンプルなものになっていて、立ち姿なので座り雛よりコンパクトに飾れる上、縦に大きく豪華に見えることから最近では注目を集めているそうです。
この他、こちらのお部屋で展示されたお雛様、時代を追ってダイジェストでご紹介していきましょう。
江戸時代享保年間頃から流行り始めた「享保雛」
お雛様は京生まれ。この時代になると、きらびやかな細工物の冠を付けるようになりました。
面長な顔に切れ長な目、能面に似た静かな表情をしているのが特長。装飾性に富んだ衣裳で、特に女雛は袴に綿を詰め、ふっくらとした座姿が特徴となっています。
写実的な顔立ちが江戸風の「古今雛」
寛政年間に入ると江戸文化も爛熟。江戸の職人たちも意地を見せるようになりました。
古今雛は現在の東京日本橋室町にあった十軒店の人形師・原舟月が創作したもの。写実的なお顔だちは現在のお雛様の基礎を築いたといわれています。
「古今」とは、古くも今も随一という気概が込められているそうです。
お雛様の江戸風と京阪風
京阪風のお雛様はふっくらとした公家を思わせる描き目で趣がある表現。袖から両手をのぞかせ、檜扇を広げた姿で座っているのが特徴です。
江戸風のお雛様は両目にガラス玉や水晶玉をはめ込み、写実的で行き来した表情が特徴なのだとか。袂を膝元におさめ、袖の中に手を隠した姿で作られています。
大正期は居住スペースの関係でコンパクトに飾れる「芥子雛」が人気に
たびたび幕府から発令されてきた贅沢禁止令。豪華絢爛に進化し続ける雛人形もその対象になっていきました。
しかし、このことにより、人形師が趣向を凝らした小さな雛人形「芥子雛」を生み出します。「芥子雛」は芥子粒のように小さいお雛様という意味。
展示されているのは大正期のもので、都市化が進み居住スペースが狭くなっていった家でコンパクトに飾れる「芥子雛」は人気を呼んだそうです。
貴重なお雛様を所蔵している老舗人形店「東玉」
今回の「百段雛まつり」で数々の貴重なお雛様を展示しているのが、日本一の人形の町・岩槻を代表する老舗人形店「東玉」。
1852年創業の「東玉」は、江戸嘉永年間に岩槻城主の御殿医だった初代・戸塚隆軒さんが趣味として人形づくりを始め、作品の出来栄えに感服された城主が「東王」の名を下さったそうです。
しかし、隆軒さんは畏れ多いとして「王」に点をつけた「東玉」を作号とし、その伝統技術と心を現在まで守り引き継いでいます。
日本三大つるし飾りの一つ、山形県酒田市に伝わる「傘福」
「傘福」とは江戸時代から山形県酒田に伝わるつるし飾りの一つ。女性たちが一針一針心を込めて子孫繁栄や無病息災、家族の幸せを願い細工物を傘に吊るし、地元の神社仏閣に奉納した風習です。
静岡県伊豆町稲取の「雛のつるし飾り」や福岡県柳川市の「さげもん」とともに日本三大つるし飾りとして知られています。
ちなみに「さげもん」は「頂上の間」で手まりとともに飾られていますよ。
約800体のお人形を使った「座敷雛」が圧巻、「漁樵の間」は必見です
文化財「百段階段」の中でもとびぬけて豪華絢爛な装飾が施されている「漁樵の間」。そのお部屋に飾られている福岡県飯塚市の「座敷雛」は息を飲むほどの大迫力です。
中央には雅な葵祭の風景を表現。奥には御殿飾りを中心に優美な宮中の景色が広がっています。
飾られている人形の中にはあの光源氏も登場。物語に描かれている人間模様も表現されているのでぜひチェックしてみましょう。
飯塚市には、筑豊の炭鉱王として名を馳せた伊藤伝右衛門の栄華を伝える「旧伊藤伝右衛門邸」があり、毎年雛まつりの時期に「座敷雛」が飾られるそうです。
今回、「漁樵の間」で使われている人形はなんと約800体!
その贅沢さ豪華さに圧倒されてしまう展示でした。
茨城県牛久市で開催される「うしくのひなまつり」を展示する「草丘の間」
子どもたちの健やかな成長と幸せを願うイベントとして牛久市で毎年行われている「うしくのひなまつり」。つるし飾りを中心に紙粘土の創作人形・折り紙作品・細工物。陶芸作品などが展示されます。
つるし飾りの起源は諸説あるそうですが、雛人形は一部の裕福な家庭で飾る高価なものだったことから、雛壇の代わりに子どもの幸せを願う親心が込められ作られ始めたといわれています。
今回の展示は「うしくのひなまつり」に参加展示されている「花工房猪子庵」による、四季の表現・日本昔話をモチーフにしたかわいらしいお細工物が展示されていました。
今までみたことのない透明感と静かな美しさをたたえたお雛様「清湖雛物語」
「静水の間」では琵琶湖を舞台とした「清湖雛物語」の世界観を表現。こちらのお雛様は滋賀県東近江市在住の人形師・東之湖(とうこ)さんの作品です。
メインで飾られている「清湖雛物語」の2体以外はすべて今回の「百段雛まつり」のためにオリジナルで制作したものだそうです。
マザーレイクである琵琶湖を中央に配し、「湖水の神」「緑王の神・薫風の神・平野の舞」とジオラマ展示。
滋賀県特産品である新之助上布(麻)を使用した衣裳の色味は、これまで見たことのないような静謐で美しい世界観を感じさせます。
東之湖さんは20代の時に難病(自己免疫疾患)を発病し、闘病生活の中で本格的に雛人形の制作活動をスタート。
平安時代から伝わる装束衣裳の着方を基本として、裂地の柔らかさを活かした柔拵(なえぞ)えの着方と、衣裳の端々をきちんと整える強拵(こわぞ)えの着方を融合させた独自の様式美を持つひな人形を制作しています。
東之湖さんの作品は、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されている東近江市五個荘金堂地区・五個荘近江上人屋敷で毎年開催されている「商家に伝わるひな人形めぐり」で展示。多くのファンを魅了しています。
精巧に作られた芥子雛と極小の雛道具が圧巻、「川内由美子コレクション」が勢ぞろいする「星光の間」
「星光の間」では雛道具研究家・川内由美子さんが集めた極小のひな人形と道具が飾られています。
江戸職人が技の限りを尽くして生み出した極小雛道具は「その値は実に世帯を持つより貴し」、つまり、世帯を持つよりお金がかかるといわれたほどでした。
上写真の「芥子雛(けしびな)」は、人形の頭と手足が象牙製。人形と共に飾られている雛道具の数々は、江戸上野池之端にあって人気を博した七澤屋製のものです。
写真ではわかりにくいですが、本の中身や箱の中身、小さな貝殻の内側に描かれた絵までていねいにつくりこまれていてびっくり。
この他、犬筥(いぬばこ)と貝桶、豆市松人形とくす玉、雛のごちそうと食器、芥子内裏雛と雛道具など、職人技が感じられるコレクションに圧倒されてしまいました。
部屋のあちこちから猫の鳴き声が聞こえてきそう、「清方の間」は「ねこたちの雛まつり」を展示
美人画の大家・鏑木清方の手がけた「清方の間」では新企画として「ねこたちの雛まつり」を開催。10名の作家たちによるねこをモチーフとしたかわいいひな人形が飾られていました。
こちらの会場、一番の特徴は展示されている猫たちのお雛様を購入することができる、ということ。気に入った作品があったら、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか。
展示されている作品は以下の通りです。
- 墨絵作家・有田ひろみ「こねこねねこ・ひなまつり」
- ぬいぐるみ作家・ちゃぼ「ちゃぼ雛」
- 立体造形作家・櫻井魔己子「猫雛」
- アート刺繍・はんこ・イラスト・人形作家・稲田敦「稲田敦のひニャ~祭り!!」
- 創作人形作家・安藤友香「ふくふく雛」
- 友禅染絵作家・小紅「春風」
- 粘土造形作家・すみや「猫雛御膳飾り」
- 立体造形作家・細山田匡宏「猫雛壇」
- 陶芸作家・柳岡未来「春日」
- 石渡いくよ「楽し・うれしや・雛の饗宴」
私は階段に猫たちがいたら、そのまんま雛壇になる、という発想でつくられた細山田匡宏さんの「猫雛壇」がとても気に入りました。
技巧を凝らした伝統的なお雛様も素敵ですが、ユニークな発想でつくられたこういったお雛様もいいですね。部屋のあちこちから猫がにゃーにゃ―鳴く声が聞こえてきそうな楽しい展示でした。
縁起物として全国で作られてきたてまりが大集結、「頂上の間」
てまりには「まるく収まる」「縁をつくる」などの意味があるそうで、「ハレ」の日の贈り物、縁起物として使われてきた歴史があるそうです。
文化財「百段階段」の最後のお部屋である「頂上の間」では、全国のてまりに加え、雛まつりをイメージした「てまりインスタレーション」を展示しています。
天井からつるされたてまりの中にハートが描かれているものがありますので、ぜひ探してみましょう。展示協力は「はれてまり工房」。東京・北千住にあるてまりファクトリーです。
珍しいところでは福島県の只見の手毬。ぜんまいの綿を集めて加工してつくられているもので、作り手がいなくなり途絶えていたものを、5年前にちよの会が復活させたものだそうです。
この他にも見ていて楽しいてまりがたくさん展示されていますので、伝統の技をぜひ近くでご覧になってくださいね。
はれてまり工房では、作り手にスポットを当てたサイドストーリー企画として「全国てまり作り手展」を3月10日まで開催しているとのこと。そちらもぜひ合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
ミュージアムショップではお雛様の展示にまつわるグッズがラインナップ
「百段雛まつり」の展示を見た後は、文化財「百段階段」のミュージアムショップへ。企画展の公式図録も発売されています。
手まりをモチーフにしたアクセサリーもかわいい。ついつい欲しくなっちゃいますよね。
展示会をご覧になったら、忘れずに立ち寄っていきましょう。
実際に足を運び、その目で見なければこの展示会の迫力、なかなかお伝えすることができません。
文化財「百段階段」の美術品・工芸品・お部屋の意匠と美しく調和し、心を奪われるような世界観、ぜひお見逃しなく!
■取材協力
【文化財・百段階段概要】
ホテル雅叙園東京 東京都指定有形文化財「百段階段」
住所:東京都目黒区下目黒1-8-1
問合せ先:03-3491-4111(代表)