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訂正記事でコメント捏造の疑い 毎日新聞、東京都議の政務活動費報道で

楊井人文弁護士
東京都議会(写真は2016年6月)(写真:Natsuki Sakai/アフロ)
毎日新聞8月10日付夕刊10面
毎日新聞8月10日付夕刊10面

毎日新聞は8月10日付夕刊で「収支報告書 都議も疑問残る 政務活動費支出」との見出しで、東京都議会の昨年度収支報告書に記載された音喜多駿議員の支出の問題を取り上げた。記事は、調査費97万2000円の支払先と記された「ファクチャー」について、ビル関係者が「その名前は聞いたこともない」とコメントしたことを指摘。音喜多議員が同紙の取材に「ファクチャーは依頼している個人事業主の活動上の名称。現在は休止している」と説明したと記されていた。しかし、音喜多議員はファクチャーが「現在は休止している」という回答はしていなかった等として、訂正を要求。毎日新聞は「現在は休止している」とのコメントは「現在は調査依頼を休止している」の誤りだったとして、17日付夕刊に「おわびします」と題する訂正記事を掲載した。ニュースサイトの記事はコメントの一部が上書き修正されただけだったが、音喜多議員の指摘を受け、おわびが記載された。

ただ、音喜多議員は日本報道検証機構の取材に対し、今回訂正されたようなコメントもしておらず、内容も事実と異なると指摘。毎日新聞が訂正を掲載する前に音喜多議員に全く連絡をとっていなかったこともわかった。

毎日新聞2016年8月17日付夕刊のおわび記事
毎日新聞2016年8月17日付夕刊のおわび記事

音喜多議員は8月9日、毎日新聞からの取材に対し書面で回答していた。ブログに公開されているこの書面では、音喜多議員が所長をつとめる「ソーシャルボイスラボ」の調査費用の支払先となっている「ファクチャー」について、「データ分析に専門的な知見等を持つ個人事業主」の「団体ないし活動上の名称」と説明していたが、「休止している」とは回答していなかった。また、訂正記事のように、「ファクチャー」と称する個人事業主への「調査依頼を休止する」という回答もしていなかった。音喜多議員は、毎日新聞への回答はこの書面以外にしていなかったという。10日付記事と17日付訂正記事は、音喜多議員が実際にしていないコメントを掲載したことになる。

しかも、音喜多議員は、当機構の取材に対し、「ファクチャー」は現在もデータ分析や執筆などの活動を続けており、議員自身も仕事を依頼する関係が続いているとして、「調査依頼を休止している」事実も否定した。

音喜多駿都議が毎日新聞の取材に回答した書面(左)と訂正申入書兼質問書(右)
音喜多駿都議が毎日新聞の取材に回答した書面(左)と訂正申入書兼質問書(右)

音喜多議員は8月11日付の書面で、毎日新聞社に訂正を申し入れるとともに、「ファクチャー」の実態について追加取材を行ったのかどうかといった質問もしていた。しかし、毎日新聞からは一度も回答や連絡はなく、17日付夕刊で訂正が掲載されたことも、翌日の当機構の取材で初めて知ったという。当機構は毎日新聞社に対し、訂正記事の掲載経緯などについて質問したが、回答を差し控えるとの返答があった。

訂正記事は誤ったコメントを再び掲載しただけでなく、「ファクチャー」の実態に関する疑惑への反論にも触れていなかった。音喜多議員は「誤りを認めたこと自体はよかったが、全く不十分。訂正・謝罪について一切の連絡が事前になかったことは極めて遺憾です」とコメントしている。

実際にしていないコメントを掲載した問題では、過去に産経新聞が記事を取り消し、記者を処分した事例がある(=【GoHooレポート】産経、江川氏コメントを不正流用 朝日前社長「顧問辞退」で【GoHooトピックス】コメント不正流用で記者らを処分 産経発表)。

【追記】

ニュースサイトの記事中、音喜多議員のコメントに「郵送物や書類のやり取りのために個人事業主が事務所の一部を借りていたが」という文言が加筆されていた。「現在は調査依頼を休止している」という文言は残されている。19日夕方ごろに修正されたとみられる。(2016/8/19 21:30追記)

弁護士

慶應義塾大学卒業後、産経新聞記者を経て、2008年、弁護士登録。2012年より誤報検証サイトGoHoo運営(2019年解散)。2017年からファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)発起人、事務局長兼理事を約6年務めた。2018年『ファクトチェックとは何か』出版(共著、尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。2022年、衆議院憲法審査会に参考人として出席。2023年、Yahoo!ニュース個人10周年オーサースピリット賞受賞。現在、ニュースレター「楊井人文のニュースの読み方」配信中。ベリーベスト法律事務所弁護士、日本公共利益研究所主任研究員。

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