先生の数が多少増えても、学校は忙しいままだ
先生は増えて、学校の忙しさはマシになっているか?
今朝(2018年1月21日)の朝日新聞トップは、「公立小中、独自配置の教員1万人 多忙化解消など図る」という見出しだった。小中学校の問題を大きく報じてくれることは有り難いことだが、正直、誤解を招く内容だと思う(教師をしている私の知人複数も同じ感想だった)。誤報とはまでは言わないが、舌足らずのところも多いので、3点に分けて解説する。
まずは問題の記事から、冒頭部分を引用する。
おそらくこの記事を読んだ、多くの方は、こう思うのではないか。
「学校の先生は忙しいと言うけれど、都道府県・政令市は国よりもよく頑張っているじゃないか。1万人も独自に増やしているわけだし、学校現場は少しはマシになっているのだろう。」
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はい、「学校現場は少しはマシになっている」という箇所、誤解ですから!
国の実態調査によると、2006年と比べて、2016年は小学校も中学校も長時間労働がひどくなっている。過労死ラインを超えている人も非常に多く、今日、明日にも倒れる人が出てもおかしくない、非常に危機的な学校は、全国各地にある。
一方、同じ朝日新聞の3面では、「教員 連日の長時間労働」という見出しで、帰宅が深夜0時過ぎになることもあるという、ある小学校教諭の実態等を報じている。
ぱっと見ると、この1面と3面の記事は矛盾しているように思える。「数が増えているのに、先生たちはすごく忙しい、どういうこと?」「まだまだ足りないの?」というギモンを抱く人もいることだろう。
どういうことか。
1)学級数が増えているほどは、先生は補充されていない
新聞にあったとおり、県等は国の定めた定数以上に教員数を増やしている。これは何かと言えば、国の制度では小1のみ35人学級(小2~中3は40人学級)なのだが、県等によっては独自に小2以降も35人学級やティームティーチングを行っているところもあるためだ(あるいは30人学級にしたりする例も)。(ほかの理由で増やしている例もあるが、少人数学級の影響が一番大きいので、ここでは他は省略する。)
こうした動きは、子どもたちによりきめ細かな対応をするという意味では、よい効果もあるだろう。また、たとえば、去年は40人学級を受け持っていたが、今年は35人でよいとなると、多少は仕事もラクになると思う。
しかし、現実はそうシンプルではない。
『いま学校に必要なのは人と予算―少人数学級を考える』という、とてもよい本を書いている、現役小学校教師の山崎洋介さんは、こう述べている。(正確には崎の漢字は異なる。)
たとえば、学級数が2クラス増えても、教員増は1人とするといった例だ。なぜ、これができるかと言えば、去年まで学級担任をしていなかった人を学級担任に据え、学校内でやりくりするなど、いくつか方法はある。学級担任をしていなかった人もヒマではなく、教務主任など重要な仕事があって、むしろ学級担任よりも忙しい場合だってあるのだが。
2)そもそも1万人はそれほど大きくないし、非正規雇用も多い
教員実数が増えているといっても、全国の小中で約1万人である。ところで、全国の小中学校はいくつあるか、ご存じだろうか?
正解は、小学校約2万校、中学校約1万校。つまり、約1万人の増といっても、3校に1人追加されているくらいだ。これでは、正直、先生たちの長時間労働にとっては、それほど大きなインパクトはないだろう。
※より正確には、都道府県・政令市ごとに増加数は異なり、地域格差も大きいことに留意。
しかも、データをもっと詳しく見ないと確定的なことは言えないが、おそらく、県等が増やしている教員のうち、多くが臨時的任用教員と呼ばれる非正規雇用であろう。1年ごとの契約である。実際、全国の公立小中学校で働く臨時的任用教員は、正規教員が出産・育休ときの代替補充の方を除いて、約4万人いる(2016年度、文科省まとめ)。
非正規では、給与水準が正規よりも低く押さえられていることが多いので、イメージとしてお話すると、2人の正規を雇う予算で3人の臨時的任用教員を雇うといった感じ。そのため、県等は厳しい財政事情の中でも教員数を多少は増やせている。
もっとも、非正規だからといっても、臨時的任用の場合は、ほぼ正規と同じ仕事ぶりである。たとえば、学級担任もやるし、部活指導も担当するし、校内のさまざまな仕事も担う学校は多いようだ。実際、ものすごく頑張っている方が多いことを私も見てきたし、そういう先生の長時間労働も大きな問題である。今回の主題とは別だが、今の学校の多くは、「同一労働、同一賃金」にまったくなっていない。
なお、臨時的任用教員のなかには、教員採用試験に受かっていない、今年再受験するという人も多い。そういう方に校内のとても重要な仕事はお願いしづらいというところもあるだろうから、正規教員の仕事の忙しさは変わらないか、むしろ増える場合もある。
また、非正規の場合は立場上も弱いので、何かを改善したいと思っても、校長等に意見しにくい。校長等の知り合いが今度の採用試験の面接官になる可能性だってあるのだから。こうした事情もあって、非正規の増加は、学校の多忙解消にプラスかと言われれば、数が増える分はいいことだが、プラスばかりとは言い切れないのだ。
3)多忙化対策としては、学級数増よりも、教師の空き時間増が大事
次の表は、教員勤務実態調査2016年のデータで、教師ひとりあたり、週に何コマの授業をもっているかを示したものだ。
※参考までに有休の取得状況についても掲載。
小学校では週26コマ以上が4割、21~25も34%もいる。中学校は21~25が5割で、26コマ以上も2割いる。26コマというと、5時間×4日+6時間×1日ということなので、週で3コマ前後しか空き時間はないということだ。その空きコマも休憩ではなく、授業準備、提出物や宿題のチェックとコメント書き、各種事務、場合によっては会議なども入る。なお、放課後も、授業準備や様々な校内の仕事、場合によっては研修、部活動指導、児童生徒へのカウンセリング、保護者対応など、ひっきりなしだ。
つまり、どういうことか?小中学校の実態としては、1万人程度の教員数を県等が増やしても、教師ひとりひとりに空きコマもなく、余裕のない毎日であれば、多忙は深刻だ、ということ。
少人数学級等の意義を否定するわけではないし、厳しい財政事情のなか県等のがんばりを否定するつもりはない。しかし、多忙化解消を本腰を入れて進めるならば、教師に授業準備等を勤務時間中にできる時間をいかに確保するかに、もっと知恵と予算を使うべきである。これは、国の役割としても重要な話だ。
もちろん、学校や教育委員会としても、国や県等にもっと人をくれ、とばかりではいけない。各自ができる改善、改革を進めることも同時に大切なことだ。
長くなったし、今日はこのあたりまで。少しPRになるが、学校の多忙の背景や各学校でできることについては、拙著『「先生が忙しすぎる」をあきらめない―半径3mからの本気の学校改善』や私の関連記事を、山崎さんの本と一緒に読んでほしい。
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