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Facebookが「人気コンテンツリスト」をひた隠しにした後ろめたい理由

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
フェイスブックがひた隠しにした「人気コンテンツリスト」。人気記事のトップは――(写真:ロイター/アフロ)

フェイスブックがひた隠しにした「人気コンテンツリスト」で、最も読まれた人気記事のトップは、「ワクチン接種後に医師死亡」だった――。

新型コロナのワクチンデマ拡散をめぐり、内部データ公開をかたくなに拒否し、米政府などから厳しい批判が相次いでいたフェイスブック。

そのフェイスブックがしぶしぶ公開した内部データから明らかになったのは、その最大の人気記事が、ワクチン忌避のグループなどが大規模に拡散した「接種後死亡」のニュースだった、という事実だ。

フェイスブックの隠蔽体質と拡散力を、改めて浮き彫りにする騒動だ。

だが騒動の一方で、その記事の発信元にも注目が集まった。記事を掲載していたのは、米国でも有数の名門新聞社のサイトだったのだ。

記事は誤解を与えかねない見出しによって、ワクチンに否定的な文脈で拡散する。

フェイスブックに対するワクチンデマ拡散批判の矛先が、今度は、批判の急先鋒であるメディアに向けられる事態となっている。

●公開を取りやめたレポート

フェイスブックは第1四半期のレポートを準備していたが、経営幹部は一切、外部には公開しなかった。経営幹部の内部メールによれば、レポートが同社に対して悪い印象を与えることを懸念したためだ。

ニューヨーク・タイムズは8月20日、フェイスブックについての、そんなスクープを報じた。

ニューヨーク・タイムズが暴露したのは、フェイスブックでどんな記事や投稿がよく読まれているか、2021年1月から3月までの内部データをまとめた10ページの「コンテンツ透明性レポート」だ。

このレポートを公開直前になって、分析担当副社長兼最高マーケティング責任者のアレックス・シュルツ氏ら経営幹部が「広報面での問題点」を検討し、棚上げを決めたのだという。

レポートによれば、フェイスブックユーザーの閲覧者数が最も多い人気サイトは、ユーチューブの1億8,000万人、次いで国連児童基金(ユニセフ)の1億2,640万人。

だが個別の記事で、閲覧者数が5,380万人と最も多かったのは、ワクチン接種から2週間後に南フロリダの56歳の男性医師が死亡したことを伝える記事だった(だが後述の通り、検視の結果、ワクチンとの関連を示す証拠はない、とされた)。

さらに人気フェイスブックページの19位には、陰謀論拡散で知られるサイトも含まれ、8,000万を超す閲覧者数を獲得していた。

「悪い印象」とは、これらの結果を指すと見られる。

フェイスブックのスポークスマン、アンディ・ストーン氏はニューヨーク・タイムズの取材に対して、「レポートのもっと早い公開を検討していたが、注目を集めることが分かっていたため、システム改修を行いたい点があった」と述べている。

「悪い印象」のコンテンツが紛れ込まないように、集計システムを修正した、ということだろう。

フェイスブックは結局、タイムズの報道の翌日、8月21日にこのレポートを公開している。

●「透明性」への圧力

フェイスブックはニューヨーク・タイムズのスクープの2日前の8月18日、第2四半期の4月分から6月分までをまとめた「コンテンツ透明性レポート」を正式版として発表している

この正式版でも、人気サイトのトップはユーチューブ。次いでアマゾン、ユニセフの順。

個別の人気記事のトップは、アメリカンフットボール(NFL)のグリーンベイ・パッカーズOBのファン向けサイト、次いでCBD(カンナビジオール)オイルなどの販売サイト、さらにユニセフのサイト。

デマや陰謀論をめぐって批判を呼びそうな内容は姿を消している。

そもそも、フェイスブックが「コンテンツ透明性レポート」をまとめた理由は何か。

フェイスブックは透明性を重んじ、コンテンツの大半は右派や陰謀論のコンテンツではなく、無害――そんなイメージの訴求だ。

「ニュースフィードのコンテンツ閲覧のほとんどは、ユーザーがつながっている友達、グループ、ページからの投稿だった」「ニュースフィードで表示されたコンテンツの大部分(87.1%)には、フェイスブック以外のソースへのリンクが含まれていなかった」

そんなレポートの表現からも、フェイスブックの意図がうかがえる。

だが実際には、フェイスブックに対して、そんなイメージとは真逆の批判が相次いでいた。

コロナをめぐる誤情報・偽情報の氾濫に対する批判と、データ開示要求の圧力。それらがこのレポートを作らせた動機のようだ。

●「人々の命を奪っている」

その圧力が最高潮に達したのは7月16日、報道陣の「新型コロナの誤情報について、フェイスブックのようなプラットフォームへのメッセージを」との質問に対し、バイデン大統領が「彼らは人々の命を奪っている」と異例の強い表現で非難した時だ。

※参照:「命を奪ってる」ワクチンデマでFacebookを大統領が非難する事情(07/17/2021 新聞紙学的

ただバイデン氏は週明けの7月19日には、「フェイスブックが人命を奪っているわけではない。(中略)誤情報が人々の命を奪っている」とトーンダウンしている

このほかにも、米公衆衛生総監のビベック・マーシー氏は7月15日、「誤情報が命を犠牲にした」と断じ、ソーシャルメディアのアルゴリズム見直しなどの対策強化を求める勧告を出している。

※参照:「SNSはアルゴリズム見直せ」コロナデマ拡散で衛生トップが勧告(07/16/2021 新聞紙学的

またワシントンDCの司法長官は6月、フェイスブックに対してコロナワクチンをめぐる誤情報対策に関する文書の提出を命じている。

※参照:コロナワクチンのデマ対策、Facebookに司法長官が問いただす(07/04/2021 新聞紙学的

さらに、フェイスブックは8月3日、ニューヨーク大学の研究チームが実施していた、政治広告のターゲティング研究のためのデータ収集を、「プライバシー保護の規約違反」を理由に遮断したことが大きな批判を呼ぶ。

研究チームは、協力者のブラウザ(閲覧ソフト)に拡張機能をインストールしてもらい、フェイスブックのデータ収集を行っていた。

フェイスブックは、遮断の理由として、プライバシー保護についての連邦取引委員会(FTC)の命令によるもの、としていた。

フェイスブックは、2018年に発覚した英選挙コンサルティング会社「ケンブリッジ・アナリティカ」による8,700万人分のユーザーデータ流出事件をめぐり、2019年に50億ドルの支払いでFTCと和解。2020年にプライバシー保護命令の強化でFTCと合意している。

だがFTCは、データ収集遮断の理由としてその合意が持ち出されたことに反論。「(命令は)公益のための誠意をもった研究を例外とすることは妨げていない」との書簡をCEOのマーク・ザッカーバーグ氏宛てに出したことを明らかにした。

これ以外にも、ニューヨーク・タイムズのテクノロジーコラムニスト、ケビン・ルーズ氏がフェイスブックが所有するソーシャルメディア分析ツール「クラウドタングル」を使ってツイッターで公開中の、フェイスブックページのエンゲージメントトップ10リストの大半を右派のアカウントが占めていることから、「右派のエコチェンバー(反響室)」との批判も出ていた。

これに対し、フェイスブック副社長のシュルツ氏は2020年11月、「トップ10リスト」はユーザーがフェイスブックで実際に見ているものの全体像を示していない、と反論していた

フェイスブックに対して渦巻くそんな批判や圧力への回答が、「コンテンツ透明性レポート」だったようだ。

結局、それも最初のレポートの棚上げが発覚し、逆効果になってしまった。

●メディアへの批判

ただこの騒動は、もう一つの問題にも注目を集めた。

お蔵入りとなった「コンテンツ透明性レポート」で、閲覧者数トップとなった記事を掲載したメディアの責任だ。

メディアサイト「ニーマンラボ」のジョシュア・ベントン氏がこの問題を検証している。

上述のように、記事はコロナワクチン接種後に医師が死亡したことを伝えるものだった。2021年1月7日、同じ新聞チェーン「トリビューン・パブリッシング」傘下のサウスフロリダ・サン・センチネルからシカゴ・トリビューンに転載された記事だ。

その見出しは、「“健康だった”医師が新型コロナワクチン接種後2週間で死亡;疾病予防管理センター(CDC)が原因調査」。記事の中でも、「ワクチンに関連した米国で最初の死亡例になる可能性がある」としている。

記事によると、2020年12月18日に、1回目の接種をした南フロリダの56歳の男性医師が、2週間後に脳卒中で死亡したという。

米国のワクチン接種は2020年12月14日から始まったばかりというタイミングだ。社会の関心は高い。

結果的に、死亡から3カ月後の4月、ワクチンとの関連を示す証拠はない、との結論が示されている

「ニーマンラボ」のベントン氏は、この「接種後死亡」の記事をめぐって、こんな指摘をしている。

フェイスブックのコンテンツの井戸に毒をたらせば、その拡散には極めて効果的だ。それは恐ろしくも重要な現実だ。

だが、そもそも毒をたらすからこそ、それが問題になる。それもまた現実だ。

そして、こうも述べている。

この記事が、ワクチンは秘密の殺人マシンである“証拠”だ、として流布されることは100%予想できることだった。

“健康だった”と見出しの冒頭で強調するなど、角度がついた記事であったことは間違いない。

記事にはその後、死因をワクチンと結び付ける証拠はなかった、との注記が冒頭に追加されている。

シカゴ・トリビューンは創刊174年、20回以上のピュリツァー賞受賞歴を持つ名門新聞社、元の記事を発信したサウスフロリダ・サン・センチネルも、創刊111年、2回のピュリツァー賞受賞歴がある新聞社だ。

ベントン氏は、因果関係が不明な段階で、このニュースを掲載すべきではなかった、という立場だ。ベントン氏が調べたところ、米3大ネットワークのABCニュース、CBSニュース、NBCニュース、さらに英BBCにはこのニュースは見当たらなかった、という。

そして、フェイスブックの最初の「コンテンツ透明性レポート」を報じたニューヨーク・タイムズもまた、ずっと抑制の効いた扱いではあるが、この医師死亡の記事を掲載していた。ただし元記事には、その後の検視結果の追記などはない。

ベントン氏は、トリビューンとセンチネルの記事に誤りはなかった、という。だが、こう続ける。

本物の記事であっても、事実を正しい文脈なしに示した場合、誤情報と同じ効果を及ぼす――特にそれが、すでにある間違った考えのストーリーの中に流れ込んでしまうと。

ニューヨーク・タイムズ、英ガーディアンで活躍し、データジャーナリズムのパイオニアとして知られるテンプル大学准教授、アーロン・フィルホファー氏もこう指摘している。

私たちジャーナリストは、これがフェイスブックだけの問題ではないことを、いつになったら理解できるのだろうか?

フェイスブックのスポークスマンのストーン氏も、遠回しながら、こう述べている

ニュースメディアは南フロリダの医師が死亡したという記事を書いた。検視結果が発表され、シカゴ・トリビューンは元の記事に追記をした。ニューヨーク・タイムズはしなかった。これがコロナの誤情報だったとしてタイムズは記事を削除するのが正しかったのか?

もちろん違う。私を含め、そんなことを言っている人はいない。ただ、誤情報を定義することがいかに難しいかを、この件はよく示している、ということだ。

●フェイスブックの問題、メディアの問題

フェイスブックの透明性や説明責任の果たし方に問題があることは、「コンテンツ透明性レポート」棚上げをめぐる騒動と、そこにいたる多くの批判が示す通りだ。

それについて、改善の兆しもあまり見えてこない。

ただ、「ニーマンラボ」のベントン氏が指摘するように、フェイスブックに広がる有害情報には、その発信者がいる。そして、事実関係に誤りはなくても、文脈次第で誤情報として機能することはあり、メディアが発信するニュースも例外ではない。

ジャーナリストはそれについて、あまりに鈍感ではないか、というニューヨーク・タイムズ、ガーディアン出身のフィルホファー氏の指摘は、改めて考えるべき問題だろう。

(※2021年8月27日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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