キャリア初の連敗を喫した伝説のファイター、ノニト・ドネア
WBCバンタム級王座返り咲きを狙った40歳のノニト・ドネアだが、113-115、112-116、112-116で黒星を喫した。
新チャンピオンのアレクサンドロ・サンチアゴにとって、ドネアはアイドルだった。かつて目標としていた男との勝負を終えたサンチアゴは、敗者を労わるというより、尊敬の念を示しながら抱擁を交わした。
涙にくれながら、サンチアゴは言った。
「今、この瞬間を言葉で説明するのはとても難しい。自分がやってきた作業は、全てこの瞬間のためだ。タイトルを獲れて最高だよ。ノニト・ドネアのような伝説の男と戦えて、本当に光栄だ」
42勝(28KO)8敗となったドネアだが、敗北の度にそれを乗り越えてリングに戻ってきた。私は彼を「美しき敗者」と評したことがあるが、佇まいも立ち居振る舞いも、常に人間性を映し出していた。だからこそ、伝説と呼ばれる男なのだ。
https://news.yahoo.co.jp/byline/soichihayashisr/20191110-00150037
判定が告げられた後、ドネアはサンチアゴに向かって「おめでとう」と言った。このWBCバンタム級空位決定戦では、ファイターとしての衰えを見せることになったが、潔さ、そして若き対戦相手への眼差しは、やはりノニト・ドネアだった。
ドネアはリング上で語った。
「自分にがっかりしています、長く、祝福されながらやってきましたがね。躰は何ともないですよ。アレクサンドロの勝利を称えます。彼は、それだけの仕事をやりましたよ。タフな男です」
ドネアとは、素直にこんな言葉を吐ける人だ。百戦錬磨の伝説のチャンピオンは、世界タイトルを手にすることの意味、選手がいかなる壁を乗り越えて、頂に辿り着くかを理解している。
「アレクサンドロには『おめでとう』と告げました。彼には子供がいるんでしょう。子供たちに誇れることを成し遂げたんです」
SHOWTIMEのリポーターは、ドネアに現役続行するか否かを訊ねた。すると、彼は応じた。
「私はボクシングを愛しています。この試合の前に、戦い続けるかどうか妻と話しました。まずはロッカールームに戻り、彼女と話し合って、どうするか考えます。
ただ、(チャンスに)行けなかった部分がありました。それが最大の問題ですね。カウンターを狙い過ぎて、パワーが足りなかったように思います。練習通りではなく、戦士のようにファイトしてしまった」
確かにドネアは完敗した。おそらく、サンチアゴ戦がラストマッチとなるだろう。が、これまでの足跡に傷が付く筈もない。数々の激闘を見せてきた彼に、こちらこそ、感謝の言葉を贈りたい。