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ダウン応酬の激闘を制し、ライト級2冠王者となった宇津木秀

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
撮影:山口裕朗

 2024年11月21日、OPBFライト級チャンピオンの宇津木秀がWBOアジア・パシッフィック同級王者の保田克也を6ラウンド2分47秒で下して2冠を達成した。宇津木は3度ダウンを奪ったが、自身も2度倒れている。激闘を制した19時間後、宇津木は「さっき、CTを撮って異常無しでした。でも、ちょっとダメージがあるので少し休みます」と、快活に話した。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 21日、21時3分。『パイレーツ・オブ・カリビアン』が後楽園ホールに響き、青コーナー側の花道よりOPBFチャンプが姿を現した。宇津木が青コーナーから登場するのは、OPBFタイトルを奪った今年の7月19日に続いてである。一時期は他の曲を選んでいたが、元に戻した。

 「前回から、またパイレーツにしたんです。日本タイトルを獲った時もそうでしたし、闘志が湧いてくる曲なんですよね。青コーナーから上がるのは2試合連続で、挑戦者という気持ちでした。ただ、今回はそれ以上に保田選手に勝ちたい気持ちが強かったです。大学1年次にアマチュアの国体で負けているのもありましたが、強い相手を食ってやろうと。ボクシングスタイルが綺麗で上手いし、安定感もある人ですから、上回り高いなと」

 宇津木はオープニングから、上体を上下に振ってフェイントをかけた。この夏のラスベガスキャンプで得たものだった。

 「意識しました。イスマエル・サラスさんに、それプラス下から攻めろと言われていたんです。ですからボディにジャブ、ストレートと打っていきました。2ラウンド目に保田選手の左ストレートをもらいました。効きはしませんでしたが、このタイミングは良くないな、ポイント持っていかれたかな、と感じましたね」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 宇津木はオーソドックス(右構え)がサウスポーと対戦する際の鉄則通り、右から入ることをテーマとし、何度も保田を捉えた。そして迎えた第4ラウンド、ショートレンジの右フックでダウンを奪う。だが、同ラウンド、接近戦での撃ち合いの中で、保田の狙い澄ましたカウンターをもらい、ダウンを喫した。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 「接近戦では僕の右フックが入るだろうな、と思っていましたが、保田選手もカウンターのタイミングを計っていたんでしょうね。食いました。僕が大雑把になるところを突いてきましたよ。

 倒れた時は、何をもらったのか分からなかったです。ただ、KO負けで日本タイトルを失ったシーンを思い出しました。あぁ、似てるなって。だから、落ち着いて、膝を付いてコーナーからの指示を聞いて、カウントギリギリまで休んだんです。ゆっくり立ち上がれましたし、前回の敗戦を肥やしにできた気がします」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 翌5ラウンドにも、宇津木は連打の最中に左ストレートのカウンターを喰らってダウンする。

「やっちゃったな、と。保田選手がカウンターを狙っていることは分かっていたんですよ。合わせてくることも。それなのに、僕は出てしまった。どうして、あんな風に戦ってしまったのか、自分でも理解出来ていない部分があります。仕留めようと思っちゃったんですかね。セコンドには『お前の距離じゃないだろう!』と物凄く怒られました。ただ、相手も効いているような表情とか雰囲気を出してきたんで…(笑)。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 行く必要もないのに、出てしまった。一呼吸置いて、落ち着けばよかったんですよね。ダウンした場合や、効いてしまった際にはクリンチで凌ごうと考えていました。今回の試合は、ただでは終わらないだろうと、自分が倒れるケースも想定していましたよ。でも、1回目のダウンに比べて、5ラウンドのダウンは足にはきていなかったんです」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 第6ラウンド、息を吹き返した宇津木は、ジャブ、ワンテンポ置いての右ストレートで、WBOアジア・パシフィック王者を沈める。

 「6回に入って、僕のリードも強いのが当たるようになっていました。いいのが入ったな、と感じましたが、倒れ方がそこまでのダメージじゃなかったので、保田選手は立ち上がってくると感じました」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 そこから宇津木は怒涛のラッシュを見せ、フィナーレを迎える。

 「青コーナーに追い込んで右フックを当てて、保田選手の頭が下がったところに左フックを打ったらカスって、レフェリーがストップしました。最後のショート連打中は、今度こそカウンターは食わないぞと、左ストレートと右フックを警戒していました。反応しながら攻めていましたね」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 宇津木が所属するワタナベジム、渡辺均会長はリングサイドでこのファイトを見詰めていた。会長自身が「凄い試合でしたね。宇津木から元気をもらえたので、まだまだ頑張ります」と周囲に漏らすほどの熱戦だった。

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 しばし、休息した後、宇津木は次に向かって走り始める。

 「年明けくらいに、またサラスさんのところに行きたいですね。来年は、世界に触れられるよう、上を目指して行きます」

撮影:山口裕朗
撮影:山口裕朗

 後楽園ホールを大いに湧かせたバトルにファンは熱狂した。2冠王者宇津木は、2度目のラスベガスキャンプで、何を掴むのか。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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