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闘将・星野仙一監督が闘った「膵臓がん」は、こんなに怖い!

柳田絵美衣臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士
2008年 北京五輪(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

星野仙一氏死去 死因はすい臓がん

星野仙一という偉大な男が闘った

膵臓がんは

「最も恐ろしいがん」の一つといわれている

「恐ろしいがん」

膵臓がんは診断時に、腹痛や腰背部痛といった痛みが現れていることが多い。

膵臓がんと新たに診断される人数は、やや男性に多い傾向にある。

膵臓がんは年齢別では、60歳ごろから増え、高齢になるほど多くなる。

膵臓がん

出典:国立がん研究センター がん情報サービス

膵臓がんの恐ろしさ

2016年にがんで死亡した人は、372986人(男性219785人、女性153201人)である。

2016年の死亡数が多い部位は

男性で1位肺がん、2位胃がん、3位大腸がん、4位肝臓がん、5位膵臓がん

女性で1位大腸がん、2位肺がん、3位膵臓がん、4位胃がん、5位乳がんだ。

男女計では、死亡数4位に膵臓がんとなっている。

さらに膵臓がんは、がんと診断されてからの5年生存率が他の部位のがんと比べて格段に低い

大腸がんは72.2%、肺がんは27.0%。膵臓がんは、なんと7.9%だ。

この数値から、膵臓がんは治療でも生命を救い難いがんであり、

膵臓がんはあらゆるがんの中でも最も生存率が不良である。

最新がん統計

出典:国立がん研究センター がん情報サービス

膵臓がんが、「難治がん」と呼ばれている理由に、

「早期発見が困難」「がんが転移しやすい」などが挙げられる。

早期発見が困難

膵臓は、胃の後ろ側に位置し、長さ20cmほどの細長い臓器。

体の深部に位置すること自体が、がんの発生が発見しにくいことにもつながっている。

さらに、膵臓がんの早期では、ほとんど症状が無く

進行がんになると「胃が重い」「食欲不振」「腰背部痛」「体重減少」であり、膵臓がんに特異的な症状が無いことが早期発見を遅らせ、ステージ4期になると胆管が閉塞して黄疸や黄疸尿が現れるのだ。

慢性膵炎でもよく似た症状が起こる。

さらに、膵臓がんと診断された時点でも12.4%の患者は全く症状が認められないというのだ。

膵臓がんが疑われる症状から診断まで  

出典:日本消化器病学会

これが、診断の遅れにつながっている。

膵臓がんが発見されてから2年で多くの患者が亡くなっている。

がんが転移しやすい

膵臓には血管やリンパ管とつがる管があるため、リンパ管や静脈への浸潤が起きやすくリンパ節転移も高確率で認められ、膵臓がんは発見された段階ですでにステージ4(肝臓・腹膜・肺などの他臓器に転移している状態)であることがほとんどである。

7~8割の患者で外科手術の適応にならない場合や、たとえ切除可能でも早期に再発を生じるのだ。

膵臓がんでの検査

第一段階として「血液検査」「腹部超音波検査(エコー検査)」であり、異常が疑われた場合は精密検査としてCTやMRIなどの高度な検査を受けることになる。

膵臓は、食物の消化を助ける膵液の産生と、血糖値の調節などをおこなうホルモン(インスリンなど)の産生をおこなうため、「血液検査」で血液中の酵素やホルモンの濃度を測定し、膵臓の機能を調べる。

さらに、がん細胞が作り出す特定のタンパク質や酵素である「腫瘍マーカー」の濃度を測定することで膵臓がん疑いを発見する。

しかし、早期のがんでは腫瘍マーカーの上昇は認められないことが多く、早期診断には用いることができない。

血液検査では、膵臓の酵素(でんぷんを分解して糖を作り出す「膵臓型アミラーゼ」など)や

腫瘍マーカー(CEA、CA19-9、DUPAN-2)、胆道の酵素(ALP、γGTPなど)の上昇、

血糖やHbA1cの上昇、インスリンの低下が参考となる。

独立行政法人 国立病院機構 大阪医療センター

出典:膵臓がん

しかし、これらは必ずしも膵臓がんに特徴的なものではないのだ。

膵臓がんのリスク要因

喫煙は膵臓がん発症の危険性を2~3倍に増加、肥満ではBMI(肥満指数)が30以上で男性では3.5倍、女性では1.6倍に増加、糖尿病で1.85倍とされている。

慢性膵炎がある場合も膵臓がんの危険性が増すと指摘されている。

特に若年時に過体重である場合には、膵臓がんリスクが最も増加するといわれており、運動習慣や青魚などの不飽和脂肪酸を含む食事がリスクを軽減する。

日本消化器病学会

出典:膵臓がんが疑われる症状から診断まで

血縁のある家族内に膵臓がんになった人がいることもリスク因子といわれている。

膵臓がん治療の可能性

近年、がんゲノム研究が進み、膵臓がんのゲノム的プロファイルが明らかとなってきた。

ほとんどの膵臓がんでは「KRAS」と呼ばれる遺伝子に変異があることがわかった。

この遺伝子異常では、がん細胞の細胞分裂が盛んとなり増殖していくのだ。

(Waddell et al, Nature 518:496, 2015, Witkiewica et al, Nat Com, DOI: 10.1038)

また、細胞増殖のブレーキ役を担っているp53やCDKN2といった遺伝子も、同時に異常があることが多い。

現在では、KRASに対する薬剤が存在しないため、膵臓がんの薬剤治療が困難なのだ。

しかし、今後、このKRASに対する薬剤が開発されれば、ほとんどの膵臓がんの増殖を止めることが可能であると期待されている。

現在、がんゲノム研究、がんゲノム医療が急速に進んでいるため、その日が来るのも近いだろう。

日本中の野球ファンから、国民から愛された

闘将・星野仙一元監督の突然の訃報

心から哀悼の意を表します。

臨床検査技師(ゲノム・病理細胞)、国際細胞検査士

医学検査の”職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる”サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として活躍。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。現在、米国にある世界トップクラスのがん専門医療施設のAI 病理ラボ研究員として奮闘中。

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