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メジャーリーグの黒歴史となった賭博事件を、映画で知る

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『フィールド・オブ・ドリームス』より(写真:REX/アフロ)

嘘だと言ってくれ

そんなキーワードが頻出した、ロサンゼルス・ドジャースの通訳解雇問題。このフレーズは、メジャーリーグでスキャンダルが起こると、必ずと言ってもいいほど引用される。メジャーリーグの歴史でも最悪の事件のひとつで、賭博が絡んで選手に八百長疑惑が降りかかった、1919年のブラックソックス事件。最終的に刑事告訴されたシカゴ・ホワイトソックスの8人のうち、スター選手だったジョー・ジャクソンに対し、ファンの子供が「嘘だと言ってよ、ジョー!」と叫んだことが由来になっている(実際には違った言い回しだったが、Say, It ain’t so, Joeとして、その後定着した)。

今回の事件とともに言及されるのは、1989年、ピート・ローズの違法賭博による永久追放のケースだが、その基準を作ったのが、8人が八百長に絡んだとされるブラックソックス事件。今回のドジャースの場合は野球に賭けていたわけではないので一緒くたにはできないが、メジャーリーグが賭博に厳格であることを、過去の黒歴史が証明している。

ブラックソックス事件が重要なポイントとなった映画で、多くの人に親しまれているのが、1989年の『フィールド・オブ・ドリームス』。ケビン・コスナーの主人公が、耳にした予言の声に従い、トウモロコシ畑を潰して野球のグラウンドを作る。そこにブラックソックス事件で野球界を永久追放され、今はこの世にいない8人が姿を現す……という感動作。アメリカ人、とりわけ野球ファンにとって、いかにブラックソックス事件が遺恨を残したのがかよくわかる。『フィールド・オブ・ドリームス』はアカデミー賞作品賞にノミネートされ、今もなお愛し続ける人が多い名作だ。

その前年、ブラックソックス事件を直接描く映画も作られていた。『エイトメン・アウト』だ。ただこの作品は、日本では劇場未公開だったため、『フィールド・オブ・ドリームス』ほど話題にならず、知る人ぞ知る一本である。ビデオレンタルなどで観た人は多いかもしれない。ジョー・ジャクソン役はD・B・スウィーニー。“アンラッキー・エイト”と呼ばれた8人の選手のキャストにはチャーリー・シーン(この翌年に映画『メジャーリーグ』に出演)、ジョン・キューザックらもいて、なかなか豪華である。

基本的に事実を基にしながらも、選手たちの心情や友情にも深く切り込み、じつにエモーショナルな人間ドラマになっている。ワールドシリーズ優勝を確実視されたホワイトソックスがなぜ敗けたのか。そしてどのように裁かれたのか。さらに永久追放の後、独立リーグでプレーする選手の姿まで、ブラックソックス事件が手に取るようにわかり、野球への人々の熱狂も胸を熱くする隠れた名作である。監督はジョン・セイルズ。

『エイトメン・アウト』はDVDやVHSでソフト化されたが、現在、AmazonプライムビデオのMGMチャンネル無料体験で観ることが可能だ。

ではピート・ローズの事件を扱った作品はあるのか。『ラストショー』などの名匠、ピーター・ボグダノヴィッチが監督し、TV用に作られたのが『HUSTLE 堕ちた打撃王 ピート・ローズ』。メジャーリーグで当時の最高安打を記録したローズが、監督となり、野球殿堂入りも間近という状況で、ギャンブルに溺れていく過程を克明に追う。野球賭博に手を出すという、最後の一線を超えたことで、ローズの人生は破滅へと向かった。ローズを演じたのは『プライベート・ライアン』などのトム・サイズモア。「ギャンブルをしないで、人間、生きていけるのか?」など辛辣なセリフでローズの闇に迫りつつ、サイズモアがどこか憎めない人間として表現した。

この作品は残念ながら、いま日本で観ることができないが、スターチャンネルで放送されたことがあるので、再度の放送を待ちたい。

AmazonプライムHPより
AmazonプライムHPより

ピート・ローズ自身が登場するのが、2022年のドキュメンタリー映画『Facing Nolan』。Nolanとは、メジャーリーガーのノーラン・ライアン(東京ヤクルトスワローズ小川泰弘投手の愛称の語源にもなった)のこと。この作品でローズは証言者の一人としてインタビューに応えている。監督はFOXチャンネルで大谷翔平の番組も手がけた。こちらも現在、日本で観ることはできないが、英語版のDVD、ブルーレイを取り寄せることは可能。最近の作品なので、どこかで公開か放映してほしい。

ピート・ローズに関して、いま日本で観られるのが『レジー 〜伝説の大リーガー〜』。ワールドシリーズで5回優勝、黒人アスリートのレジェンドであるレジー・ジャクソンのドキュメンタリーで、彼と同時代を経験したローズは声のみだが登場する。こちらはAmazonプライムで視聴可能だ。

ドジャースの問題がどう決着をみせるのか、まだ時間がかかりそうだが、メジャーリーグにおける賭博の問題に改めてスポットライトが当たったことで、これらの作品は重要な教科書にもなることだろう。

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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