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Koki,「親の七ひかり」無縁の海外デビュー作 英語演技が端正で美しい… 原爆が題材で日本でも注目か

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『Touch』より

木村拓哉と工藤静香の娘であるという“冠”も不必要になるか──。

Koki,がメインキャストとして出演した、アイスランド/イギリス合作の映画『Touch』が、7/12からアメリカで公開される。

そしてこの作品、配給のFocus Featuresのアワード(賞レース)担当が、監督のオンライン会見を設けたりして、次のアカデミー賞に向けた各映画賞にプッシュされている様相。実際に作品自体が高い評価を受けているので、このような動きになっている。

この記事の最下部にあるポスターでもわかるが、Koki,は3人のメインキャストの1人。監督のオンライン会見前に完成作を観たところ、当然のごとく出番はたっぷり。英語と日本語のセリフをこなすが、英語もじつに美しく流暢。もちろんまだキャリアは短いので、演技力はまだ発展途上だが、画面に現れると、どこか爽やかな風が流れるような存在感は確実に発揮している。本作で彼女を初めて観た海外の観客は、多くがそのピュアな魅力に惹きつけられるのではないか……。そんなことも確信できた。

『Touch』は、アイスランドに住むクリストファーが認知症の初期だと診断され、50年前、ロンドンで出会い、恋におちた美子(ミコ)との日々を回想する物語。現在と過去が行き来するが、50年前の美子をKoki,が演じている。突然目の前から姿を消した美子が忘れられないクリストファーは、どうしても彼女に会いたい一心で日本へ向かう。

美子の父親役が本木雅弘。50年後の美子を奈良橋陽子(本作のキャスティング・ディレクター)が演じ、そのほか中村雅俊柴田理恵らが共演。アイスランド人で『エベレスト 3D』や『ビースト』などハリウッドでも活躍するバルタザール・コルマウクル監督がメガホンをとった。日本でもロケが行われ、東京や広島、呉が背景になる。

若き日のクリストファーは、ロンドンの日本食レストラン(店名が「ニッポン」!)で、経営者の娘である美子に一目惚れ。ゆっくりと愛を育む2人の関係が、ジョン・レノンとオノ・ヨーコに重ねられたりもする。Koki,はクリストファー役のパルミ・コルマウクルとロマンティックなラブシーンにも挑んだ。

コルマウクル監督は、ミコ役のキャスティングについて「アメリカやイギリスで生まれ育った人ではなく、日本と英語圏、両方の文化を知る、英語を話せる俳優を探した」と語る。そうなると候補者は限られていったようで、ある段階でkoki,についてのメールを見直し、セリフを読んでもらったところ、もう後戻りできなくなったという。

ただKoki,が日本の有名人の娘であることを、コルマウクル監督は知らなかった。工藤静香は、Koki,が出演した日本映画『牛首村』ではマスコミとのインタビューにも同席するなど“ステージママ”として有名。コルマウクル監督はその件を次のように語る。

「Koki,の母は撮影を見に来ました。レストランのシーンの撮影で日本人のエキストラたちの様子から、彼女、そして父親が大スターであることを知ったのです。すみません、私は母の名前をうまく発音できませんが……。ただKoki,を選んだのは、あくまでも彼女自身の才能と外見であることは断言しておきます」。

そしてこの『Touch』のもうひとつの注目点は、広島の原爆がテーマになっていること。海外の話題作ということで、期せずして『オッペンハイマー』における原爆の描写が論議を呼んだばかりだが、本作では物語に沿って正面から向き合った印象。

「私は広島の原爆死没者慰霊碑や平和記念資料館も訪れ、多くのことを学びました。広島の機関から、映画に使用できる映像や写真も提供してもらいました。私がこの物語に惹かれたのは、悲劇が起こった時に生まれていなかったのに、その影響を受けた人を通し、恐ろしい兵器が何世代にもわたって何かをもたらすこと。それを責任の押し付け合いではなく、観る人と分かち合うように伝えたかったのです」

その原爆のテーマにも、Koki,が演じる美子は深く関わっており、切実な感動を届ける役割を果たす。

『Touch』の日本での公開はまだ決まっていないが、こうして高い評価を受けていることから、そう遠くない時期に劇場で観られるはず。ちなみにKoki,の海外作品は、この後もイギリス映画『Tornado(原題)』があり、すでに撮影は終わっている。ジャック・ロウデン、平岳大、ティム・ロスと共演するこの作品で、Koki,はタイトルのTornado役。つまり主役である。1790年のイギリスで、旅回りの“サムライ人形劇”の一団が、犯罪に巻き込まれる物語のよう。

『牛首村』に続く、2本目の日本映画『女神降臨』への主演も発表されたばかりで、俳優としてのKoki,の活躍はフルスロットルになってきた。その実力がどこまで本物か。“親の七光り”が通じない海外作品での評価とともに、注目していきたい。

2024年3月、ルイ・ヴィトンの秋冬コレクションより
2024年3月、ルイ・ヴィトンの秋冬コレクションより写真:REX/アフロ

『Touch』画像クレジット:Lilja Jonsdottir / (c) 2024 FOCUS FEATURES LLC

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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