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性的人身売買容疑の超大物ラッパー、パフ・ダディ。500億円生活→いつ拘置所から出られるか?の状況へ

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
17日、マンハッタン区連邦裁判所に出廷したコムズ被告の法廷スケッチ。(提供:ロイター/アフロ)

70億以上の保釈金も却下され...

ニューヨーク出身の超大物ラッパーが逮捕されたというニュースが流れ、しかも性的人身売買などの容疑だと聞き、驚いた。

ディディ(Diddy)、以前はパフ・ダディという名で大活躍していた。本名ショーン・コムズ(54歳)は、性的人身売買ほか恐喝、売春行為関与などの容疑で16日に逮捕され、その後起訴された。

過去数年間にわたりいくつもの訴訟や法廷闘争に巻き込まれていたコムズ被告。今年3月にはFBIにより自宅を捜索されていた。

このたびの起訴状によると「性的人身売買、強制労働、誘拐、放火そのほかの犯罪」の容疑という。コムズ被告は無罪を主張し、拘留から逃れるために5000万ドル(約70億7千万円)もの保釈金の支払いを申し出た。通常は殺人などの重罪でなければここで釈放となるが、コムズ被告はそれが却下された。そして強制的な人身売買の容疑で有罪判決を受けた場合、最短で15年の禁固刑最長で終身刑に処される可能性があると米メディアは報じている。

500億円規模の優雅な暮らし→悪名高い拘置所へ

黒人文化の聖地、ニューヨーク・ハーレムで生まれ、世界でもっとも裕福なミュージシャンの一人にまで這い上がったコムズ被告。

米経済誌によると、彼の純資産は2019年の時点で7億4000万ドル(約1043億円)、今年6月の時点でおよそ4億ドル(約564億円)だったとされる。

彼が今回逮捕された場所もマンハッタンの高級ホテル、パークハイアットだった。

地元メディアによると、拘留が命じられた今、彼が収監されているのはネズミやうじ虫がわく不潔な収容施設として悪名高い市内の拘置所だという。暴力が横行し、拘置所内で2件の殺人事件、4件の自殺が発生したという報道も。

筆者は拘置所や刑務所を実際に見たことはないが、普段より古い地下鉄の駅など人の集まる雑多な場所においてネズミやゴキブリなど害虫・害獣の多さに辟易しているので(今夏、高級ホテルでさえも入り口にネズミがいるのを見かけた...)、衛生面の管理がおざなりになりがちな強制収容施設がどれほど劣悪で不衛生な環境であるかは訪れなくとも想像できる。

90年代から何十年にもわたって超一流の裕福な生活を送り、一時期ほどの勢いはないにしても今でも500億円規模のラグジュアリーな生活を送っていた人物が夢の世界から一転、劣悪な環境下に置かれるとは...。

彼はいったい何をしたというのか?

ディディと、アダムス市長。昨年9月、NY市主催の式典で。
ディディと、アダムス市長。昨年9月、NY市主催の式典で。写真:REX/アフロ

ディディ(パフ・ダディ)はいったい何をしたのか?

このたびの起訴は、元交際相手が起こした民事訴訟に端を発する。コムズ被告の元恋人の歌手、キャシー(キャシー・ベンチュラ)が交際中、被告から性的・身体的虐待を受けたというものだ。

キャシーさんはコムズ被告からレイプされ、抑えきれない怒りが爆発して殴打され、人生を著しく支配されたと訴えた。ほかにもコムズ被告に、ほかの男性(コムズが手配したセックスワーカー)たちとの「フリークオフ」と呼ばれる性行為をコムズ被告が見たいがために強要されたこともあるという。この虐待は2007年からキャシーさんが彼のもとを去る2018年末まで続いたという。コムズ側はこれを否定したが、訴訟が提起された翌日に和解したことが報じられていた。

しかしこれを発端に別の女性も次々にコムズ被告を裁判で訴え始めた。例えばジョイ・ディッカーソン・ニールさんは学生だった1991年、コムズに薬物を飲まされて性的暴行を受け、その様子をこっそりと録画されたと主張している。また別の女性も同様の性的被害を訴えた。ほかにも集団レイプや性的嫌がらせなど、コムズ(息子のクリスチャンも含む)が行なったとされる横暴が次々に暴露された。そこで3月のFBIの自宅捜査へとつながったのだ。

コムズ被告が行なったとされる悪行はここでは書けないほどたくさんあり、NBCニュースがそれらをタイムラインに掲載している。

すべてを手に入れ善悪の判断ができなくなり女性を奴隷とでも思ったのだろうか。これから裁判で罪が次々と明るみに出るであろう。ラップ界の超大物が関与したとされる事件は、第2のエプスタイン事件(有罪判決後、拘留されていたニューヨークの矯正施設で死亡)、そしてハリウッドを震撼させた第2のワインスタイン事件(禁錮16年を言い渡され服役中)に発展していきそうだ。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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