頓挫した、ベイルのエース継承計画。レアル・マドリーの戦術の変遷と、再建への道。
フロレンティーノ・ペレス会長のエース継承計画は、頓挫してしまったのかもしれない。
レアル・マドリーは今季開幕前にクリスティアーノ・ロナウドをユヴェントスに放出した。ペレス会長が「ポスト・クリスティアーノ」時代に対峙するため、期待していたのはガレス・ベイルだ。
だが、いまだベイルに萌芽の時は訪れていない。
■ベイルの時代
2017-18シーズン。チャンピオンズリーグ決勝リヴァプール戦で、ベイルはスタメンから外されながら勝負強さを見せ、オーバーヘッドでスーパーゴールを沈めて優勝に大きく貢献した。
しかし、試合後のベイルに笑顔はなかった。「毎週、試合に出る必要がある。今シーズン、そのような状況は起こらなかった。この夏に代理人と話し合うつもりだ。今後どうするかを決めなければいけない」と語り、戴冠の余韻に浸るチームメートを余所に移籍をほのめかしたのである。
奇しくも、同じタイミングで移籍を考えていたC・ロナウドがユヴェントスに新天地を求め、ベイルの思惑通りに事は運んだ。ベイルの時代が到来するはずだった。
C・ロナウド不在のファーストシーズンで、マドリーとベイルは混沌の渦に巻き込まれた。フレン・ロペテギ前監督はリーガエスパニョーラで10試合を戦ったところで解任され、サンティアゴ・ソラーリ監督の下でカンテラーノを登用しながら結果を求める方針に切り替えられた。セルヒオ・レギロン、ルーカス・バスケス、ヴィニシウス・ジュニオールが重宝される一方で、マルセロ、イスコ、ベイルの名前は先発メンバーから消えていった。
■戦術の変遷
ベイルはこれまで決して冷遇されてきたわけではない。
カルロ・アンチェロッティ政権では、「BBC」が形成され、カウンターの速さで欧州中に脅威を与えた。ラファエル・ベニテス監督はベイルをトップ下に組み込み、C・ロナウドとカリム・ベンゼマの2トップにした攻撃陣を操縦するタスクを課した。
ただ、ジネディーヌ・ジダン元監督は最後までベイルに特権を与えなかった。重要な時期に負傷離脱を余儀なくされた背景はある。だが最終的にジダン元監督が選んだのは、C・ロナウドをエースとして、イスコ、クロース、モドリッチの中盤の構成力に頼る4-4-2だった。
ロペテギ前監督の指揮下においては、ベイル、ベンゼマ、マルコ・アセンシオの「BBA」が主軸に据えられた。そこにイスコが加わり、4-3-3と4-4-2を使い分けながら、ポゼッション・フットボールの質を高めるというのがロペテギ前監督の狙いだった。
ソラーリ政権でも、当初は丁重に扱われていた。ソラーリ監督は4-3-3を採用して、3トップの右にL・バスケス、中央にベンゼマ、左にベイルを配置した。しかしリーガ第17節ビジャレアル戦で負傷し、ベイルの歯車が狂い始めた。気付けば、定位置をヴィニシウスに奪われていた。
■審判の時
ベイルの足枷になっているのは、負傷の多さだ。マドリー加入後、これまで20回以上筋肉系の負傷で戦線離脱を余儀なくされている。彼の試合出場数は全体の60%に満たない。
歴代の指揮官は、ベイルを中心にチーム作りを進めようとしていた。だが組織を構築するプロセスで幾度となくベイルの離脱があり、ジレンマを抱えた。
ベイルはマドリーでの5シーズンで、44試合出場22得点12アシスト(2013-14シーズン)、48試合出場17得点10アシスト(2014-15シーズン)、31試合出場19得点11アシスト(2015-16シーズン)、27試合出場9得点3アシスト(2016-17シーズン)、26試合出場21得点6アシスト(2017-18シーズン)という数字を残している。最多得点を記録しているのは移籍一年目だ。
ベイルの適応とエース継承には想像以上に困難が伴っている。そして、ベイルは移籍から5年が経過しても公の場でスペイン語を話そうとしない。リーガ第25節レバンテ戦では、決勝点を記録しながら、ベンチに座らされた苛立ちを隠せず、チームメートのゴール祝福を拒絶した。そういった姿勢もまた、メディアやマドリディスタから好感を得られないひとつの要因となっている。
マドリーはベイル獲得の際、トッテナムに支払った移籍金を公表しなかった。その額は1億ユーロ(約126億円)だといわれている。それはC・ロナウドの移籍金を上回るものだった。ペレス会長はC・ロナウドの尊厳を損なわないようにしながら、ベイルを保護したのだ。
ベイルには、非凡の才能がある。爆発的なスピード、左足のキャノン砲、驚異的なジャンプ力...。アスリートとしては、完璧と言っていい能力を備えている。しかしーー、それだけでは足りないのが、レアル・マドリーというクラブだ。
ベイルは、ルービックキューブのようだ。どうしても、うまく噛み合わない。そして、彼は30歳を迎えようとしており、若手と呼べる年齢ではない。本当に、ベイルがマドリーのエースにふさわしいのか。審判の時は刻一刻と近づいている。