中絶強要「DVではない」女性蔑視の入管を東京新聞・望月記者が批判―ウィシュマさん報告書で驚愕見解
日本に憧れ留学生として来日したものの、昨年8月に名古屋入管に「不法滞在者」として拘束され、その後、著しい体調悪化にもかかわらず、適切な医療を受けられないまま、今年3月6日に亡くなったスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん。その経緯についての最終報告が、今月10日、入管庁から発表されたが、その内容は女性への暴力に対する、あまりにも無神経極まりないものだった。
○DV被害者救済を放棄
生前、ウィシュマさんは、来日後に交際相手からのDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けていたと、支援者や名古屋入管(名古屋出入国管理局)側に説明していた。DV防止法に基づき、他の政府機関と同様に入管庁にもDVの防止とDV被害者の保護に対する責務がある。具体的には、在留審査や退去強制の手続きの対象者が、DV被害者と判明した場合、
・本人の意志を尊重しつつ、被害実態を把握し、警察や支援窓口に連絡/通報する
・DV被害者が収容施設に収容中であった場合、仮放免*する
*一時的に収容施設の外で生活することを許可すること
などの対応が求められる(「DV事案に係る措置要領」)。体調が悪化したウィシュマさんを入院させるか否かとは別に、そもそも彼女をDV被害者として認知し、仮放免及び上述のような対応を名古屋入管はうべきだったのである。つまり、DV措置要領通りの対応がなされていれば、ウィシュマさんが命を落とすこともなかったかもしれないのだ。
だが、名古屋入管の職員らは、そもそもDV措置要領を知らず、同要領に沿った対応を行なわなかったのだという。行政機関としてあり得ない大失態であるが、上川陽子法務大臣の指示の下、ウィシュマさん事件の最終報告をまとめた入管庁調査チームも、ウィシュマさんのDV被害をあまりにも蔑ろにしている。
○妊娠中絶をDV被害と認定せず
最終報告はむしろDV加害を擁護するような内容であるが、中でも酷いのが、当時の交際相手B氏に妊娠中絶を強要されたと、ウィシュマさんが繰り返し訴えていたことを、軽視したことだ。ウィシュマさんが支援者や名古屋入管側に語ったところによれば、2019年に妊娠したウィシュマさんにB氏は詳細不明の薬物を飲むことを強要し、ウィシュマさんは流産してしまったのだという。
内閣府の男女共同参画局のDVの定義には、「中絶を強要する」ことも具体例として明示されている。それにもかかわらず、入管庁調査チームは、その最終報告の中で、ウィシュマさんが「中絶を強要された」と語っていることを記述しながら、それについての事実確認や評価を行なわなかったのだ。その他にも、何度も殴られ頭を負傷し流血した、スリランカへ帰国するなら「罰を与える」と脅迫された等のウィシュマさんのDV被害についても、「DV被害者として退去強制上特別の取り扱いをするべき事案とまでは言えない」と結論づけたのである。
○東京新聞・望月記者の追及
最終報告には、聴取に応じたB氏の言い分も反映されたものではあるものの、そもそもウィシュマさん側の言い分をDV措置要領に沿って確認したわけではないので「死人に口なし」(ウィシュマさん遺族の代理人)という印象は否めない。今月10日の最終報告の公表についての法務省/入管庁の会見では、東京新聞の望月衣塑子記者が「入管庁調査チームにはDVについての専門家がいない。妊娠中絶の話もうやむやになっている」「DVについては、もう一度、専門家を交えて検証し、報告書を作成しなおすべきでは?」と問いただした。また、望月記者は「ウィシュマさんの銀行口座をB氏が管理してしまっていた」*1「B氏はウィシュマさんが家族と電話で話すことも許さなかった」等のウィシュマさんの遺族の訴えが最終報告には反映されず、B氏の言い分のみが掲載されていることを指摘した。だが、入管庁側の回答は「報告の専門性、客観性は確保されている」「(ウィシュマさんを)DV被害者と認めるかどうかは有識者*2の方々の意見をふまえて評価・検討したもの」と全く噛み合わない。上川法相も最終報告の内容を機械的に読み上げるだけで、望月記者の質問に対する具体的な回答はなかった。
*1 収容中のウィシュマさんと面会していた支援団体STARTも「通帳やカードを奪われた」との訴えをウィシュマさん本人から聞いているが、これも入管の最終報告には反映されていない。
*2 この有識者とは、弁護士や医師でありDVの専門家ではない。
○問われる最終報告の信頼性
ウィシュマさんが留学生としての在留資格を失ったのは、日本語学校に登校せず除籍されたことによるものだ。だが、こうした経緯にもDV被害が関係している可能性もあるし、もし、そのような事情があり、それが考慮されていたならば、上述のDV措置要領「DV被害者が配偶者からの暴力に起因して旅券を所持していない時は、在留資格を交付する」との規定に基づき、ウィシュマさんも留学生としての生活をやり直せた可能性もあったのだろう。その機会を奪った挙げ句にウィシュマさんを死なせてしまったことに対して、入管庁の幹部ら、上川法相の問題意識はあまりに乏しい。元々、入管問題に詳しい弁護士や市民団体、国会で本件を追及していた野党議員達からは「調査・報告は、法務省/入管から独立した第三者によって行なわれるべきだ」と指摘されていた。ウィシュマさんのDV被害への調査ひとつ取っても、法務省や入管の「身内への甘さ」が露骨に表れている。その信頼性には疑問を持たざるを得ない状況だ。悲劇を繰り返さないためにも、ウィシュマさん収容中の監視カメラ映像等、法務省や入管は国会等に対しても情報開示するべきだろう。
(了)