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日本野球ゆかりの地で台湾球界期待の星が復活のマウンド【台湾リーグレポート】

阿佐智ベースボールジャーナリスト
台北市天母棒球場で行われた味全対富邦の首位攻防戦

 来月行われるU18ワールドカップのホスト国・台湾。プロで構成される代表チームも度々来日し、野球ファンにはおなじみの国だ。しかし、新興国が年々力をつけてきている世界野球シーンの中で、その存在感はここ10年ほどの間で急速に薄れてきている。

 それでも、ナンバーワンスポーツの地位は不変だ。近年はバスケットボール人気が高まってはきているものの、一時はプロ発足当初の4球団までに縮小したプロリーグ・中華職棒(CPBL)は、2019年に「オリジナル4」の一角ながら一旦は活動を休止した味全ドラゴンズが復活。今シーズンから6番目の球団として台鋼ホークスが参加するなど(ただし二軍リーグのみ)、その人気はますます高まってきている。

昨日の試合ではプロバスケ・新竹JKOライオニアーズのメンバーによるセレモニアルピッチがスピードガン競争というかたちで行われた。
昨日の試合ではプロバスケ・新竹JKOライオニアーズのメンバーによるセレモニアルピッチがスピードガン競争というかたちで行われた。

日本野球ゆかりの台北・天母棒球場

 台湾チャンピオン4回の名門、味全ドラゴンズの本拠地が台北市にある天母棒球場だ。CPBL草創期の主会場として使用されていた旧市立球場に代わる球場として、また、プロ参加が解禁された中、台湾が優勝した2001年IBAFワールドカップのメイン会場として1999年に完成したこの球場は、日本野球にとっても縁の深い球場である。

 2002年5月、戦後初となるNPBの国外公式戦、ダイエー対オリックスの2連戦がここで行われた。その初戦は松中信彦の劇的なサヨナラホームランによりダイエーの勝利。始球式には当時トップアイドルだった松浦亜弥が登場するなど、今から思えば時代を感じさせるが、すでに前年にはメジャーへ旅立ってはいたが、台湾でも大人気だったイチローが在籍していたオリックス・ブルーウェーブ相手ということもあって、1万人収容のこの球場での2連戦に計2万3000人が来場するほどの盛況だった。

 そして2019年のシーズン前には、楽天イーグルスがCPBLの人気球団、ラミゴ・モンキーズとこの球場で親善試合2試合を行い、その年のオフにラミゴ球団を買収している。

天母棒球場
天母棒球場

 台北郊外の住宅街という立地から騒音問題を抱え、ながらくここをホームグラウンドとする球団はなかったのだが、1999年限りで解散していた味全球団が活動を再開するにあたって、2020年秋に人工芝化され、球場の運営権が味全球団に委ねられた。

 味全ドラゴンズは2020年シーズンより二軍リーグに参加。2021年から一軍に参戦することになったが、本拠地は当初、市立球場の建て直しが予定されていた、台北から70キロほど南西の新竹市とした。天母棒球場は、この新竹の新球場完成までの暫定的な本拠という位置づけであったが、昨年シーズン途中に開場した新竹新球場に欠陥が多く、市当局と球団との対立もあり、結局現在に至るまで、事実上の味全の本拠として使用されている。

台湾球界期待の星の復活登板

 昨日、27日の試合は、富邦ガーディアンズを迎えての首位攻防戦。このチームは2016年オフに南部の都市・高雄を本拠とする義大ライノスを買収し、本拠地を新荘棒球場に移してその名を改めている。新荘棒球場のある新北市は、台北市を取り囲むかたちで存在する衛星都市である。いわば、味全との一戦は「ダービーマッチ」だ。首位攻防のこのダービーには、8000人を超える観客が詰めかけた。

台湾球界の次世代のエースとしての呼び声も高い徐若熙(味全ドラゴンズ)
台湾球界の次世代のエースとしての呼び声も高い徐若熙(味全ドラゴンズ)

 味全の先発投手は、徐若熙(シュー・ルオシー)。20年ぶりに復活した味全が最初のドラフトでいの一番に指名した投手で台湾球界きっての逸材と言われている。高卒2シーズン目の2020年には二軍戦で157キロのストレートを披露。翌年の一軍デビュー戦では取ったアウトはすべて三振という、11奪三振の離れ業を演じ、その名を轟かせた。しかし、昨年キャンプ中に肘を痛め、7月のトミー・ジョン手術を受け、リハビリ生活を送っていた。この日の先発はリハビリ明け最初の一軍登板。多くのファンが見守る中で、復活を期してマウンドに立った。

 ファンの熱狂的な声援を背に久々のマウンドに立った徐だったが、先頭打者をサードゴロに打ち取った後、連打を食らう。その後もストレートが抜け、バックネットに当たるなど不安定な投球が続き、4番打者にはデッドボールを与えてしまい、1アウト満塁のピンチを迎えた。それでもこのピンチをサードゴロゲッツーで切り抜けると、続く2回は2アウトを簡単に取った。しかし、この直後突然マウンドを降りることに。リハビリ明けとあって、この日はあらかじめ30球と球数を決めていたらしく、そのリミット直前の28球でリリーフ陣にマウンドを任せることとなった。この日のストレートの最速は154キロ。もう少し制球力がつけば、後期シーズン終盤あるいはポストシーズン「秘密兵器」になるだろう。

 試合は5回まで両軍無得点の締まった試合。台湾野球といえば、豪快な空中戦が売りで、実際4年前に取材したときは打撃戦ばかりを見せられたものだが、その後、低反発球が採用された影響で、近年は投手戦が増えてきているらしい。実際、打球音も乾いたそれではなく、鈍い印象がした。

 試合は、6回に両軍が2点ずつを取り動き出し、8回に3安打を集め2点をとった富邦が小刻みな投手リレーで逃げ切り、味全に代わり0.5ゲーム差で首位に立った。

富邦はメジャー経験のあるエンダーソン・フランコらの強力リリーフ陣をつぎ込んで逃げ切った。
富邦はメジャー経験のあるエンダーソン・フランコらの強力リリーフ陣をつぎ込んで逃げ切った。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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