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知られざる数億ションの世界(12)だから立派な玄関が2つ必要なのか、と分かる写真がこれ

櫻井幸雄住宅評論家
三田ガーデンヒルズのモデルルーム。写真は、三井不動産レジデンシャル提供

 分譲価格が数億円、ときに10億円以上となる高額マンションでは、一般とは異なる発想でつくられる部分が多い。

 そのことを改めて実感させるモデルルームが公開された。

 今、都心部で注目を集めるマンションの1つ、三田ガーデンヒルズのレジデンシャルサロン(販売センター)に設けられた約255平米の住戸だ。

 三田ガーデンヒルズは5棟構成・全1002戸の大規模マンションで、5棟のうち1棟は三井不動産レジデンシャルの最上位ブランドである「パークマンション」の名前が付けられている。

 通常は「パークマンション」の後に地名が付くのだが、今回は「三田ガーデンヒルズ内に設けられたパークマンション」ということになるのだろう。特殊なケースとなるのだが、モデルルームのつくりは、さすがはパークマンションといえるもの。そして、近年、都心高額マンション住戸に求められる要素を見事に満たしていた。

 今回の知られざる数億ションの世界は、予約が取れない「三田ガーデンヒルズ」、モデルルームを報道公開も、まさかの撮影不可の記事に続く形で、255平米住戸が示す数億ションの最新トレンドについて解説したい。

 なお、前出の記事でも説明したとおり、このモデルルーム公開は撮影不可となったため、写真はすべて三井不動産レジデンシャルから提供されたものとなる。

よくわからない「ストレッチルーム」も

 三田ガーデンヒルズの255平米モデルルームは、基本となる間取りが3LDK+4ウォークインクローゼット+3シューズインクローク。これをモデルルーム用に、1LDK+プライベートダイニング+ストレッチルーム+WTC+3シューズインクローク+ユーティリティにされている……読むのが面倒で、つい飛ばしたくなる「間取り」だ。

 要約すると、255平米もの広さがありながら、寝室は1つでLDK(リビングダイニングキッチン)が付く間取りということになる。ただし、プライベートダイニングとストレッチルームが付くのが大きな特徴。WTC(ウォークスルークローゼット)とシューズ・イン・クロークは収納。ユーティリティは洗濯室だ。

 プライベートダイニングとストレッチルームのうち、想像しにくいのが「ストレッチルーム」だろう。このストレッチルームは、下の画像をご覧いただきたい。

三井不動産レジデンシャルから提供されたストレッチルームの写真
三井不動産レジデンシャルから提供されたストレッチルームの写真

 写真奥に見えるのがガラス張りの浴室だ。その手前右側にサウナのスペースがあり、左に洗面スペースがみえる。そして、ボクシングのサンドバッグが吊されている一帯が運動できる場所。白いベッドに見えるのは、寝るスペースではなく、休んだり、体を伸ばすための場所。以上がストレッチルームで、広さは15.2畳ある。

 このあたりは、数億ション・モデルルームのお約束といえるもの……ご希望に応じて、このようなスペースもつくることができます、とアピールしているのだ。

 しかしながら、三田ガーデンヒルズ・255平米住戸のモデルルームで私が注目したのは、このストレッチルームではなかった。

 興味深いのは、ダイニング(食堂)スペースが2つあること。そして、玄関が2つ設けられていることだ。

 「玄関が2つ」は、多くの見学者にスルーされがち。しかし、この点こそが、今、都心の数億ションに求められている機能を明らかにしている。

2つのダイニングスペースが意味すること

 冒頭に掲げた写真がダイニングのもので、説明のため、ここに再掲した。

画像提供:三井不動産レジデンシャル
画像提供:三井不動産レジデンシャル

 255平米のモデルルームでは、リビングとダイニング、キッチンを合わせて約56畳大となっている。そこから推測すると、写真のダイニングだけで20畳程度の広さがありそうだ。十分に広く、ゆったりとテーブルが配置されている。

 じつは、このモデルルームでは、もうひとつ別のダイニングスペースが設けられており、そちらが「プライベートダイニング」となる。プライベートダイニングは約10畳で、上の写真のダイニングより狭い。

 なぜ、ダイニングが2つあるのか、お分かりだろうか。

 答えは、大きなダイニングで仕事の取引先などを招いて食事会が行われている間、家族が食事を取るためのスペースとしてプライベートダイニングが必要になるからだ。

 そのような使い方が想定されている、という前提でもう一度、上の写真をみると、家族が食事するスペースとしてはムダに広いことが分かる。大きなテーブルが、ゆったりと配置されている。これは、給仕係がいて、サービスしやすい広さになっているわけだ。

 奥にあるキッチン部分も10畳ほどの広さがあり、2,3人のシェフが作業しやすくなっている。つまり、客を招いて特別な食事をしたり、ホームパーティを開くといったゲストハウスとしての利用が考えられているわけだ。

 現代の数億ションは、このように「ゲストハウス」利用のために購入されることが多い。当然、数億ションの商品企画も「ゲストハウス」として使いやすいことを目指している。

 数億ションには、玄関が2つ付いているプランが多く、255平米のモデルルームも玄関は2つ。玄関2つは基本プランでも変わらない。それはゲストハウスとして使うとき、玄関が2つあったほうがよいからだ。

2つの玄関といっても、勝手口を付けるのではなく……

 「2つの玄関」というと、1つは勝手口と思う人が多いだろう。

 たしかに、一戸建て住宅では玄関のほかに勝手口のある間取りが少なくない。マンションでも、希に玄関とは別に小さめの勝手口を付けて出入りできるプランは存在する。

 しかし、現代の数億ションで玄関を2つつくるときは、小さな勝手口をつけるのではない。メインの玄関とは別に、もうひとつきちんとした玄関を設けるのだ。その場合、サブの玄関もメインと同様のデザイン、素材で仕上げられて、見栄えがよい。サブもメイン同様に立派なのである。

 理由は家族が日常的に使用するため、サブの玄関も簡素にはしない。それが、数億ションのトレンドなのである。

 「ゲストハウス」としての使い勝手を考えて、ダイニングを2つ設け、玄関も立派なものを2つ設置……三田ガーデンヒルズの255平米住戸もそのセオリーどおりの住まいとなる。つまり、企業もしくはオーナー社長がビジネス用に購入するケースが多いと想定されているわけだ。

 それこそが、多くの人が知らない数億ションの実情なのである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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