Yahoo!ニュース

今夜放送『天空の城ラピュタ』。ラピュタを空中に浮かせる「飛行石」の原理を、空想科学で考える!

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。

マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。

さて、今回の研究レポートは……。

8月12日の「金曜ロードショー」で『天空の城ラピュタ』が放送される。なんと18回目のテレビ放映だ。

しかも毎回高視聴率だから、いまでは滅びの呪文「バルス」も、シータとパズーが食べていたパンがおいしそうなことも、そして、ラピュタが浮かんでいるのが「飛行石」の力であることも、広く知られているだろう。

1986年の劇場公開時の観客動員数が77万人に留まったとは、いまとなっては信じがたい……。

『ラピュタ』の大きな魅力の一つは、浮遊感だ。

劇中では、天空の城を浮かべるのは「飛行石」だとされている。

飛行石がなぜ物を浮かせるかは、劇中では説明されないが、いったいどんな原理なのだろう? 本稿では、この問題を考えてみたい。

◆飛行石の浮力がすごい!

飛行石が浮かべている天空の城は、どのくらいの大きさなのか?

シータとパズーがラピュタに着いたシーンで、城の全景が映し出される。

いちばん下が黒い半球、その上に円筒形の建物が二段重なり、さらにそのやや下に城をぐるりと一周する回廊がある。

建物の屋上は庭園になっており、そこにもドーム型の建物が林立している。上段の庭園には温室があり、その中央からは大きな木が枝を広げている。まことに壮麗な天空の城だ。

パズーの身長を1m40cmと仮定して、2人が降り立った建造物(見張り台か?)の大きさを計測し、それを元にラピュタ全体の大きさを割り出すと、一段目の建物の直径は1.6km。

アンコールワットでさえ南北1.3km、東西1.5kmだから、ラピュタはそれより大きいことになる。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

円筒部の体積は、推定5億2千万m³で、その15%を大理石ほどの密度の建材が占めていると考えよう。

これに、最下部の半球(直径は推定1.2km)や屋上中央に生い茂る木の重量などを加えると、天空の城の全重量は推計2億4千万t。日本の最高層ビル・あべのハルカス840棟分だ。

ラピュタの重量が2億4千万tなら、これを浮かべる飛行石の力も2億4千万tのはずである。

人類が空中に浮かべたもののなかで最も重かったのは、全長245mの飛行船・ヒンデンブルク号。重さは230tだった。

ラピュタは、その100万倍も重い!

◆反重力で浮かんでいたら?

これほど重い天空の城を、飛行石はどうやって浮かべるのだろう?

風船が浮くような原理とは思えないから、すると「反重力」だろうか。

反重力がモノを浮かせる力で、もし飛行石に2億4千万tの反重力が働き、その力でラピュタを持ち上げているとしたら……?

この場合、ちょっと心配なことになりそうだ。飛行石には反重力が働いているが、天空の城には「重力」が働いているからだ。

飛行石は、城に接する点で、その全重量2億4千万tを支えざるを得ない。これには城の強度が耐えられず、飛行石はたちまちラピュタを突き抜けて、天空の彼方へ飛んでいくのでは……!?

滅びの呪文を唱えなくても、バルスになってしまう。

同じことが、物語冒頭のシーンにもいえる。

シータは飛行船から落下した後、ペンダントにしていた小さな飛行石の力で、ゆっくり降下していった。

このシーンを「反重力で飛行石が浮いている」と考えると、落ちるシータには重力が働き、首にかかった飛行石だけが反重力で浮こうとすることになる。

すると、ペンダントの鎖でシータの首はキュ~ッと絞まってしまう。これは苦しい。

イラスト/近藤ゆたか
イラスト/近藤ゆたか

◆重力が働くのはなぜか?

だったら「反重力が働くのは飛行石だけ」という考えを改めたらどうだろうか。

劇中の飛行石は、浮かぶ力を発揮するときに青く光る。その光がシータやバズーの顔を照らすと、二人は浮かび始めるのだ。

ひょっとしたら、飛行石には、その光が当たった物体を浮かべる力を持っている……ということでは?

実はこれ、科学的にまったく考えられないわけではない。

われわれの生きる宇宙には、重力、電磁気力(磁石や静電気の力)、強い相互作用(原子核を構成する力)、弱い相互作用(ニュートリノが関わる力)という4つの力がある。

それらの力は、物体や素粒子のあいだを「ボソン」と総称される粒子が行き来することで生まれると考えられている。

電磁気力のボソンは、目に見えない光「フォトン(光子)」。磁石が鉄を引き寄せるとき、両者のあいだを無数のフォトンが飛び交っているということだ。

強い相互作用のボソンは「グルーオン」。

弱い相互作用のボソンは「ウイークボソン」。

重力のボソンは、これだけまだ発見されておらず、「グラビトン」という名前だけが決まっている。

――ということは、飛行石の青い光は、重力を伝えるグラビトンの働きを阻害するものなのでは!?

とってもシンプルな推測だけど、もしそれが当たっていたら、飛行石によってラピュタやシータが浮遊した現象も、かなり説明がつくような気がする。

グラビトンの1日も早い発見を待ちながら、それまで繰り返し『天空の城ラピュタ』の浮遊感を楽しみたい。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

柳田理科雄の最近の記事