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秘境にお茶あり!宮崎・高千穂の「釜炒り茶」の魅力 ~昔ながらの製法を守る希少なお茶~

日本茶ナビゲーター Tomoko日本茶インストラクター

前回の記事「フルーツ大福にぴったりのお茶」として紹介した「釜炒り茶(かまいりちゃ)」。

日本茶の中でも生産量がわずか0.3%未満と希少で、知名度もあまり高くありません。

九州地方の一部で生産されている釜炒り茶ですが、佐賀県の嬉野の方が目にする機会が多いかもしれません。

今回は釜炒り茶の中でも少しマニアックな、宮崎県の高千穂(たかちほ)の釜炒り茶にクローズアップします。

日本の秘境「高千穂」に昔ながらの製法が残り、今でも国産の釜炒り茶が飲めるという奇跡(個人的見解)とその魅力を存分にご紹介します。

言わずと知れた茶産地「宮崎」

宮崎県は実は、静岡、鹿児島、三重に次いで全国4位の生産量。

平野部の大規模な産地では大型の機械(人が乗り芽を刈り取る「乗用型摘採機」)を取り入れるなど「宮崎茶」として、主に煎茶を生産しています。

しかし、宮崎で煎茶が生産されるようになったのは江戸時代からで、それまでは広く「釜炒り茶」が作られていたそうです。

宮崎県のお茶の歴史

15世紀に中国で生まれた釜炒りの製茶技術は、朝鮮半島を経て熊本県に伝わり、その後は九州など他の地域でも釜炒り茶が作られていました。

転機となったのは、江戸時代の中期。1751年に都城島津藩の池田貞記氏が、京都の宇治で蒸し製の製茶法(煎茶)を学んで帰り藩内に広めたことから、宮崎での煎茶の生産がスタートします。

その後、釜炒り茶より手間がかからず大量に生産できる煎茶がどんどん広まり、煎茶の人気も高まったことから、現在は宮崎県のほとんどの地域で煎茶が主流になっています。

一方、現在でも釜炒り茶を生産している宮崎県西臼杵郡の高千穂町・五ヶ瀬町・日之影町は、標高400mを超える山間地のため、良い意味で昔ながらの文化や技術が保たれた形となっているようです。

参考: 宮崎茶推進会議ホームページ

みやざきブランドの釜炒り茶「釜王」

宮崎県内で生産される釜炒り茶の中でも、宮崎県のブランドとしてお墨付きのものがあります。

それがみやざき釜炒り茶「釜王」

みやざきブランド推進本部では、宮崎県の釜炒り茶でみやざき茶推進会議が実施する認証審査に合格し商品ブランド認証基準をみたしているものを「みやざき釜炒り茶「釜王」」として認証しています。

「釜王」は黒地に金色の丸いマークが目印
「釜王」は黒地に金色の丸いマークが目印

様々な釜炒り茶がありますが、「釜王」のマークは宮崎の釜炒り茶を選ぶ際の指標にもなりますね。

秘境「高千穂」の釜炒り茶

釜炒り茶の産地である高千穂などの山間地は傾斜の多い地形のため、茶畑も斜面に作られているところが多くなります。

高千穂の茶畑。新芽が出そろっています。(写真提供:谷岩茶舗 谷岩さま)
高千穂の茶畑。新芽が出そろっています。(写真提供:谷岩茶舗 谷岩さま)

山間では霧が発生しやすく自然に日光が遮られ、茶葉に自然な甘味やうま味が保たれ、高千穂では昼と夜の寒暖差により茶葉の味や香りにも良い影響が与えられると言われています。まさに自然の恵みですね。

しかし、茶畑での作業は大変で、高千穂に限らず、山間地は傾斜に加え手作業も多くなるため、後継者不足に悩まされていると聞きます。

大型の機械が入れられないため、2人で持ちもう一人が袋を支えて歩きながら茶の芽を刈り取る「可搬式摘採機」と呼ばれるものを使うことが多いそうですが、こちらは重さもあり、かなりの重労働。

新茶の時期の茶の新芽は待ってはくれませんから、一番良い状態で茶摘みを行いすぐに製茶するのでスピードが勝負です。

今回、取材にご協力くださった宮崎県のお茶を扱う谷岩茶舗の谷岩さんは現在「高千穂みどり会」という釜炒り茶を扱う団体の会長をされていて、釜炒り茶の普及に取り組んでいらっしゃるそうですが、高千穂でも、毎年廃業する生産者さんが後を絶たず、耕作放棄地が増えているとのこと。なかなか深刻な問題です。

昔ながらの製法を守る

谷岩さんによると、釜炒り茶が廃れていった大きな要因の一つは取引単価の低迷にあるそうです。

茶葉の形状が似ている「蒸し製玉緑茶」と比べると、釜炒り茶は茶葉に照りが少なく水色(お茶を淹れた時の色)が黄色いということで評価されないことが多いとのこと。

急須で淹れた高千穂の釜炒り茶。美しい山吹色。
急須で淹れた高千穂の釜炒り茶。美しい山吹色。

それが釜炒り茶本来の特徴であるのにもかかわらず、釜炒り茶の特徴は茶業界の中では欠点とみなされることが多いのだそうです。

今求められている「(消費者にとってわかりやすい)はっきりした緑色の茶液で、茶葉に艶がある」など、現代における「理想的なお茶の姿」からは遠くなってしまっているためのようです。

さらに、全国茶品評会においては白ずれ(白っぽくマットな質感)した昔ながらの「本釜(ほんがま)」と呼ばれる釜炒り茶はさらに評価が低くなってしまうのだとか。

昔ながらの製法「本釜」で作られた高千穂の釜炒り茶
昔ながらの製法「本釜」で作られた高千穂の釜炒り茶

そんな中でも「良い意味で、進化しない古くさい釜炒り茶」を提供したい、と谷岩さん。

現在、地域色のあるバラエティー豊かな日本茶が味わえるのは、「右へ倣え」を敢えてしないで昔ながらの製法を守る方々のおかげなのですね。

歴史のある釜炒り茶、飲むとその香りと優しい味わいにほっとします。一般的な煎茶とは違いますが、その違いが面白く、また魅力でもあります(私は一度飲んで虜になりました♪)。

高千穂の釜炒り茶の味わいと魅力

では、高千穂の釜炒り茶の魅力はどんなところにあるのでしょうか。

こちらの釜炒り茶を、カナダで日本茶のオンラインショップを立ち上げた方や日本人の参加者の方との日本茶ワークショップ(オンライン含む)で飲んでいただいたところ、「ナッツのような香ばしい香りが素晴らしい」「上品で自然な甘味がありしつこくなくすっきりしている」と高評価でした。

高千穂では被覆栽培(茶畑に覆いをかける栽培方法)をしていないため、お茶の葉が持つ自然な甘味やうま味がほんのりと感じられるお茶になります。渋味も少なく、すっきりと軽い味わいです。

高温でさっと淹れて朝のお茶として楽しむも良し。午後は少し温度を下げてゆっくりと淹れお茶そのものを味わい、二煎目は気取らないお饅頭や大福、お団子、初夏なら柏餅といった庶民的な和菓子やお煎餅に合わせても良し。幅広くいろいろな楽しみ方ができます。

カナダの方にオンラインレッスンをするに当たり、事前に水の硬度による様々なお茶の味や色の変化も実験したのですが、渋味が少ない釜炒り茶は硬水で淹れた場合も煎茶より影響は少ないと感じました(硬度約300mg/Lのお水と軟水とを比べた場合)。硬水でも美味しく飲める日本茶の一つです。

これまで海外に旅行に行く際は煎茶のティーバッグを持って行っていましたが、外国のお水でお茶をいれると、色が茶色っぽくなったり、日本で飲んでいた時より渋く感じた経験があります。水の硬度が違うから仕方ないか・・・と諦めていましたが、もし今後海外に行く機会があったら、釜炒り茶を持って行こうと思っています。

日本茶の魅力と味覚

味覚は人それぞれです。

うま味が凝縮された味を好む人、すっきりした味を好む人。

このお茶は夏に飲みたい、このお茶は秋冬に向いている、と、季節によっても違いますし、体調によっても、味覚は変わります。

いつも飲んでいるお茶と、ちょっと特別な日のお茶、気分転換に違うお茶を飲んでみたりと、その日の気分で変えるのも楽しみの一つです。

全国津々浦々の日本茶を飲んでいると、このお茶はAさんが好きそうだな、こちらはBさんの好みだな、と、その人その人に合うお茶が見つかります。そして実際にそのお茶をご紹介すると、「そうそう、これこれ!」とおっしゃいます。

その人が、お茶に何を求めているか、どういう味が好みなのか、そのお茶の背景やストーリーに関心があるか、など、個人個人でで選ぶお茶は違ってくると思います。

人もお茶も「みんな違って、みんないい」(どこかで聞いたセリフですが)。

日本茶を飲んでも美味しいと思ったことがない、特に魅力も感じない、という方は、もしかしたら自分にぴったりのお茶に出会えてないだけかもしれません。

今後も様々な日本茶を紹介していきますが、お茶選びのお手伝いができるような記事を書いていきたいと思います。

取材協力: 谷岩茶舗 谷岩孝彦さま

日本茶インストラクター

【お茶の世界の扉を開く日本茶ナビゲーター】 日本茶専門店で7年勤務、茶道歴25年の経験を活かし、大手百貨店や外国の大学等でのワークショップで国内外2,000名以上の方に日本茶の魅力を伝える。 美味しい日本茶とそれにまつわる伝統工芸品を後世にも繋いでいきたい、日本茶への愛と想いで日本茶情報を発信中。 日本茶の商品開発、カフェ・飲食店での日本茶コーディネートや淹れ方指導も行う。 NPO法人日本茶インストラクター協会認定日本茶インストラクター(2004年取得)。 日本語教師(外国人対象)。

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