保育士の報酬改善が志望者を増やし、離職を防ぎ、さらには子どものためにもなる
保育士の志望者を増やし、仕事を続けたいという保育士を増やすには、なによりも給与の引き上げを優先すべきである。昨年10月から幼児教育・保育の無償化(幼保無償化)がスタートしたが、「無償化よりも先生たちの待遇改善を優先すべき」という声が保護者のあいだで多いことは拙著『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)でも再三、紹介している。保護者が気になるほど、保育士の働き方と待遇は見合っていない。
厚生労働省(厚労省)は8月24日、「保育の現場・職業の魅力向上検討会」の第5回会合を開いている。検討会の役割は、保育の職場環境の改善などをつうじて魅力向上につなげる方策を協議することだ。
第5回会合では報告書の骨子案が示されたが、そこには保育士の志望者を増やすために、中学校や高校の職場体験学習を促進したり、進路指導の教員や保護者に保育の仕事を理解してもらう取り組み案が盛り込まれている。保育士の離職を防ぐために、結婚、出産、子育てと仕事が両立する体制づくりもすすめる、との文言もあるそうだ。そうそう目新しい案ではなさそうだ。
この会合で注目すべきなのは、出席した佐藤博樹中央大学教授の発言ではないだろうか。8月26日付の『教育新聞』によれば、佐藤教授の発言は次のとおりだ。
「魅力向上をアピールする際に『やりがい搾取』にならないようにすることが大事だ。働きに見合った報酬でないといけない。現状とそのバランスが取れていない」
どんなに保育士という仕事の魅力をアピールしたところで、保護者にも待遇の悪さが分かるような状況では、志望者も増えないし、離職者が後を絶たないのも当然である。まず大事なことは、佐藤教授も指摘するように「見合った報酬」である。
2019年11月26日付で内閣府が発表している「幼稚園・保育所・認定こども園等の経営実態集計結果」によれば、保育士の給与月額(賞与込み)は約30万円である。年間収入に直すと、約360万円ということになる。
国税庁によれば、2018年の平均年収は約441万円である。これだけみても、保育士の報酬が満足のいくものではないことが分かる。
さらに、保育現場は多忙すぎるほど多忙である。いまでは「11時間保育」が一般的になっているが、にもかかわらず慢性的な人手不足の状況であり、その負担が保育士にのしかかっている。
そのうえ、責任は大きい。幼い子どもたちを預かるのだから、体調に気をつけなければならないし、ケガなどさせてはいけない。2013年に厚労省は「保育を支える保育士の確保に向けた総合的取組」という資料をつくり、保育士として登録しながら保育士として働いていない、いわゆる「潜在保育士」へのアンケート結果を載せている。
そのなかで、保育士への就業を希望しない理由として「責任の重さ・事故への不安」と答えている人が40.0%になっている。多忙であるうえに、責任は重く、事故への不安に怯えなくてはならないのだ。それに見合う報酬になっているかといえば、そんなことはないのだ。ちなみに、同じアンケートで、保育士にならない理由として「賃金が希望と合わない」と答えている人も47.5%となっている。
前述した拙著では、「無償化は嬉しいんですが、そういうところ(保育士の待遇)に、まずおカネを使うべきじゃないでしょうか。保育士さんたちが充実して働ければ、結局、子どもたちのためになりますからね」という保護者の声も紹介している。佐藤教授の指摘する「働きに見合った報酬」にすることは、保育士の志望者を増やし、仕事を続けたいという保育士を増やすだけでなく、子どもたちのためにもつながるのだ。