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「人を貸し出す図書館」に行ってみた

なかのかおりジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員
作業所で働くMさんが「本」。「読者」3人と対話した なかのかおり撮影 

生きている人を本に見立てて貸し出し、希望する「読者」と対話する「ヒューマンライブラリー」。病気や障害、LGBTなどの当事者が語り、質問に答えるという。東京・渋谷でこのたび開かれた「超福祉展」内のイベントに行ってみた。

自己紹介しあって対話

ヒューマンライブラリーはデンマークで始まった試みで、偏見や誤解を持たれがちな人を本に見立て、その人生に耳を傾ける。本を読む以上の経験が得られると世界で広まっているという。私が訪れた日は、障害や病気、LGBTなどの当事者や家族16人が「本」として参加。「貸し出し」は1回30分で「読者」は1~3人。

知的障害のある人の作業所「おかし屋ぱれっと」で働くMさんも、本の一人。ライブラリーの会場で、Mさんがレーズン切りを担当したクッキーが売られていた。Mさんの仕事や日常の話を聞こうと3人の読者が集まり、私も同席させてもらった。

予約した読者は、大学生2人と女性の3人。Mさんには、作業所のスタッフが付き添った。自己紹介しあってから、Mさんが仕事について説明。対話が始まった。

「汚れた鉄板をふいたり、レーズンを細かく切ったりします。洗い物もします。洗い物はたくさんあります」「ここで働いて4年目です」

「それまで働いていたんですか?」

「学校に通っていました」

「なぜそこで働いているんですか」

「お菓子を作りたいからです」「販売もあります。会社に販売に行っています。買ってもらえると嬉しいです」

Mさんが作ったクッキー なかのかおり撮影
Mさんが作ったクッキー なかのかおり撮影

仕事は週5、友達と外出も

作業所の仲間と9月にマレーシアに行って、クッキー作りのデモンストレーションをしたといい、そのときの写真を持参した。「英語も話せます」と言うと、「すげえ」と驚く大学生。「自分で勉強しました。英検を受けました」とMさん。

それからも、マレーシアで何が楽しかったか、どれぐらい働くかなど、質問は尽きなかった。Mさんは「週に5日間、働きます。忙しいときは残業があります」「お給料は月に3万円ぐらいです」と具体的に説明した。

休日の過ごし方について聞かれ、「休日は友達と連絡を取り合って、出かけます。学校のときの友達です。メールをします」とMさん。ボーリングの団体に入っていて練習に行っていること、音楽が好きで「嵐」のファンであることも話してくれた。

ヒューマンライブラリーの会場(毎日新聞が協力) なかのかおり撮影
ヒューマンライブラリーの会場(毎日新聞が協力) なかのかおり撮影

グループホームで自立目指す

今は実家を出てグループホームで暮らせるよう練習しているそう。様子を聞かれ、料理は作ってもらえるが洗濯は自分ですること、不安はあるけれど学校時代の友達もいることを説明し、対話がテンポよく進んだ。

ブーツやかわいらしい洋服などMさんのファッションも話題になり、「毎朝、自分で決める」「お母さんと買い物する」と嬉しそうに答えた。これからの目標を聞かれ、Mさんは「もっとお菓子作りが上手になりたい」。30分の対話を終えて、「楽しかったです。緊張しませんでした」と感想を話した。

仕事や友人の話に感心

2人の男性は、大学で異文化コミュニケーションの授業を取っており、興味があって参加した。

「これから就職もするので、仕事と休日の話も聞きたかった。週5で働くって聞いた時はすごく驚いた。友人も大事なんだと思いました。働いてからもそういうつながりが必要なんですね」

「障害者とは会ったことがあっても、近い距離で話したことがなかったから、どういうことを思って生活しているのか知りたくて。明るくて、仕事にやりがいがあって、友人と励まし合いながらやっているのがいいと思いました」

女性は「障害の重い軽いって区別があって助成が違ったりするけど、そういう区別でなくて個人として関われるのがよかった。軽やかで明るいMさん。今はいい職場があるけれど、これから日本はどうなるのか心配もあります」と語った。

少人数なので話しやすく、会話が途切れないのが印象的だった。お互いに知りたい、話したいという気持ちがあるから「こんなこと聞いていいのかな」という遠慮もなかったのだろう。障害があっても週5で働き、友人と交流するー。本人に聞けて、「自分たちと変わらない」とより身近に感じられたと思う。

車いすダンサーも「本」に

笑顔でポーズを取る岡安さん なかのかおり撮影
笑顔でポーズを取る岡安さん なかのかおり撮影

他に「本」役を務めた岡安みほさん(34)は「エーラス・ダンロス症候群」という難病で、関節がゆるく脱臼しやすい。今は車いすを使っている。障害の有無に関わらず体を動かして表現するダンスグループに参加、学校などで開くワークショップでアシスタントとして活動を始めた。

小さいころから転びやすく出血が止まりにくかった。幼稚園教員の免許を取り、20歳から6年は学校で障害児をサポートする仕事をしていた。けがをきっかけに整形外科に通ったが、病名はわからなかった。自分で調べてエーラス・ダンロス症候群かもしれないと思い、専門の病院を受診して診断された。

診断後も上司の理解で仕事

職場の上司が「病気にとらわれて生きるのではなくて、無理なくやっていきましょう」と言ってくれて理解があった。手首、足首に装具をつけ、車いすや杖を使って通勤。4年は仕事を続けた。仕事を通して、車いすで参加できるダンスを知った。

その後、仕事をやめてふさぎ込んでいたが、思い出してダンスのイベントに行ってみたらすごく楽しかった。車いすの友人に誘われて別のグループ「記号カラダンス」に参加するようになった。岡安さんは、主に手を使って表現する。「例えば朝ごはんを、1人ずつ体の動きで表現して、それをつなげていきます。障害者ではなく、岡安みほとして見てもらえるのが嬉しかった」

「障害者と出会って」

今年2月、インストラクターに誘われ、都内の学校で70人の中学生がダンスを作るイベントにアシスタントとして参加。分け隔てない子どもたちを見て、「同じじゃない人、障害ある人と知り合うのが大事」と改めて思った。

「私は兄に障害がありますし、保育園や学校にも障害のある子がいたので何とも思いませんでした。でも差別する子もいたので、早い段階から知り合えたらいいと思います。外出先で何で車いすなの?って子どもに聞かれたら話すし、電動車いすの使い方を教えたりしますよ」

12月にはダンスグループで幼稚園を訪問し、来年から活動の機会を増やす予定だ。

ヒューマンライブラリーは友人に聞き、経験を話したいと思っていたので参加した。「障害ある人にどうやって対応したらいい?」といった質問に答え、ダンスの写真や動画を見せた。「事前に本を傷つけない、という約束があるので不安はなく、どんな読者が来ても大丈夫と思っていました。講演という形より、少人数で話せるのがよかったです」

岡安さんの感想を聞いて、この試みは「大変な状況を知ってもらう」というよりも、対等な関係なんだと感じた。本になる人も、関心を持って足を運ぶ読者と出会い、経験が役に立てば充実感がある。普段は知り合えない境遇の人と知り合える図書館、約束を守った上で、機会が増えればいいなと思った。

ジャーナリスト(福祉・医療・労働)、早稲田大研究所招聘研究員

早大参加のデザイン研究所招聘研究員/新聞社に20年余り勤め、主に生活・医療・労働の取材を担当/ノンフィクション「ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦」ラグーナ出版/新刊「ルポ 子どもの居場所と学びの変化『コロナ休校ショック2020』で見えた私たちに必要なこと」/報告書「3.11から10年の福島に学ぶレジリエンス」「社会貢献活動における新しいメディアの役割」/家庭訪問子育て支援・ホームスタートの10年『いっしょにいるよ』/論文「障害者の持続可能な就労に関する研究 ドイツ・日本の現場から」早大社会科学研究科/講談社現代ビジネス・ハフポスト等寄稿

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