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「将来は大物」芸人が支持する“下衆キャラ”さらば青春の光・森田の魅力

鈴木旭ライター/お笑い研究家
(写真:アフロ)

2021年1月19日に放送された『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)で、出演者の芸人に「この中で将来大物になっていそうなのは?」とのアンケートを実施。栄えある第1位に輝いたのが、さらば青春の光・森田哲矢さん(以下、すべての名称敬称略)だった。

メンバーはダイアン、とにかく明るい安村、さらば青春の光、ぺこぱ、ミキ、宮下草薙、四千頭身の7組14名。いずれも、バラエティーに欠かせない売れっ子の芸人たちだ。一般のアンケートよりも、リアリティーのある結果と言えるだろう。

四千頭身・石橋遼大は、「どの現場でもメチャクチャ笑いをとっている」「何より漫才もコントもできてしまうので一生ネタ番組にも出続けるでしょうし、賞レースの審査員もやりそう」と森田を称賛。宮下草薙・宮下兼史鷹は、「誰よりも上を見てお笑いをやっている」「ポジション的には今でいうフット(ボールアワー)・後藤(輝基)さんくらいになっていそうです」と、その姿勢に感服しているようだった。

では、具体的に森田はどんな特徴を持つ芸人なのか。その魅力について考えてみたい。

目を見張るバイタリティーと人間力

何と言っても、森田の持ち味はバイタリティーにある。2013年に松竹芸能から独立した直後、相方・東ブクロの不倫騒動によって仕事が激減。地道にライブ活動を続け、「キングオブコント」「M-1グランプリ」といった賞レースで結果を残し、着実にバラエティーでの露出を増やしていった。

森田は個人事務所「ザ・森東」の社長を務めている。独立後はタレントとしてだけでなく、経営者目線で物事を見る能力も養われたのかもしれない。「ギャラはマネージャーと三等分」という方針で身内の士気を高め、テレビ関係者や出版関係者とも積極的に交流し、確実に仕事やネタへとつなげている。

同業者の先輩からも慕われ、番組でイジられている印象も強い。おぎやはぎ・矢作兼は、『ゴッドタン』(テレビ東京系)や『おぎやはぎの「ブス」テレビ』(AbemaSPECIAL)といった番組で、「マジで一番俺が嫌いな顔」「なのに笑っちゃう」と森田の実力を認めている。ジャンルや年齢を問わず好かれるのは、話術に長けていてイジってもイジられても笑いを生む森田の人間力によるところが大きいだろう。

また、記憶力もすごいものがある。昨年8月、私はあるテレビ番組の取材で初めて森田と顔を会わせた。とはいえ、複数いる出演者へのリモート取材であり、こちらも編集者と2人。時間も約30分と短かったため、普通なら私の印象など残っているはずもない。

数カ月後、別のテーマで取材することとなり、実際に対面する機会に恵まれた。初めましてのスタンスでいこうと緊張して待機していると、私を見るなり森田のほうから「あれ、この前の。鈴木さんですよね?」と声を掛けてくれた。些細なことかもしれないが、「こういうところが信用につながるのだな」と痛感したものだ。

絶妙なラインで遊ぶ策士

もう一つ突出しているのが、「相方・東ブクロの活かし方」だ。先述した2013年のスキャンダルを受けて、通常ならば「不祥事の話題から遠ざけよう」と動くのが定石と言える。ところが、森田はむしろそれをネタにしてコンビの芸風へと昇華しているのだ。

たとえば、深夜ラジオ番組『さらば青春の光がTaダ、Baカ、Saワギ』(TBSラジオ)で最近始まった新コーナー「セフレ限定!東ブクロあるある」は、過去に東ブクロと肉体関係を持ったことのある女性リスナーのみから“セフレが共感できる東ブクロあるある”をメールで募集するという常軌を逸した企画だ。

ハガキ職人がセフレを装うことはNG。メールには電話番号を明記させ、スタッフが嘘偽りはないかチェックする徹底ぶりだ。さらには審査員として、過去に何度か関係を持ったことのある女性リスナーが電話出演するというカオス状態……。この企画が通ることもすごいが、笑いとして成立させてしまう森田もすごい。

YouTubeチャンネル『さらば青春の光Official Youtube Channel』でも、東ブクロをターゲットとしたドッキリ企画が人気を博している。

現時点で「【ドッキリ】相方のバイクを勝手に金ピカに塗ってみた【さらば青春の光】」は294万回再生、「【ドッキリ】相方の愛車レクサスを勝手に金ピカに塗ってみた」は126万回再生を記録。今年1月23日に投稿された動画「【ドッキリ】GPSでガチ追跡!東ブクロの謎のプライベートを暴く!!」は、たった1週間で54万回再生を突破している。

“ミステリアスな東ブクロ”というキャラを活かし、森田は「薬物使用疑惑」「不倫疑惑」を持ち出して徹底的に動画のネタにしていく。しかも、こうした攻めた企画にもかかわらず、視聴者は一切不快感を覚えない。それは、怒りこそするが決して激昂しない東ブクロの人柄によるところも大きいだろう。

森田は、東ブクロのリアクション、視聴者の反応も見越して企画を立てているはずだ。この“絶妙なライン”をついて遊ぶ策士なのである。

楽しみながら武器を拡張する芸人

最後に取り上げたいのが、趣味と芸風が見事にシンクロしている点だ。森田の著書「メンタル童貞ロックンロール」(KADOKAWA)には、合コン、風俗などにまつわる下世話なエピソードがたっぷりと詰まっている。

とくに森田が悪友(または親友)と慕う先輩のバイク川崎バイク(BKB)、後輩のニューヨーク・屋敷裕政と遭遇した珍事は必見だ。BKBのネットワークビジネスにまつわる話、屋敷が仕込んだ女子大生との合コンで森田が27000円を盗まれた話は、ちょっとエッチでほろ苦い短編映画を思わせるような読み応えがある。

何より感心するのは、文章から“芸人・森田”が見えてくることだ。本では「とにかく女性と関係を持ちたい」と必死に食らいつくも、ほとんどが失敗に終わる。しかし、「性欲」という本能に翻弄され、撃沈するまでの過程が何とも楽しげなのだ。読み手に“学生時代のワクワク感”を呼び起こしてくれるのである。

森田の芸風は、まさにここにあると言えるだろう。あらゆるところからゴシップ情報をキャッチし、仲間たちに嬉々として語る延長線上で、『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「ゲーセワニュース」、『ダウンタウンDX』(読売テレビ・日本テレビ系)の「ゴシップコーナー」などの出演へとつながっている。

また、ビジネス開発バラエティー番組『今日からやる会議』(テレビ東京系)では、森田の“風俗好き”が活きている。森田が提案した妄想風俗小説「ザ・ゲリラ」は、事前に料金を支払うことで、街中にゲリラ的に“嬢”が現れプレイが始まる……という斬新な風俗店をモチーフとしたストーリーだ。これが電子書籍化され、コミック連載もスタート。番組きってのイチオシ商品となっている。

合コンで磨いたトークが、バラエティー番組やYouTube動画で発揮されているのは周知の通りだ。つまり、森田は自分自身が楽しみながら、自然にタレントとしての武器を拡張しているのである。

バッシング浴びない下衆キャラ

元大御所お笑い芸人・島田紳助は、ある番組で「若手は合コンやってトークを回す練習せなあかん」といった趣旨の言葉を口にしていた。とはいえ、タレントにクリーンなイメージが求められる昨今、芸人と言えどこれを実践するのはなかなかリスクが高い。

世間が抱く印象は芸人によっても異なり、そこにギャップが生じればちょっとしたことでバッシングを受けてしまう。世知辛い世の中だが、そうした風潮を踏まえたうえでの自己プロデュースが必要になっているということだ。

森田は、この難題から巧妙に逃れている。「合コン」「風俗」「ゴシップ」という下衆キャラを鎧に、磨かれたトークの剣で見る者を虜にしていく。まるで“お笑い”という名のアクションゲームを楽しんでいるかのようだ。

こうした芸風が許されるのも、ある種の余裕からくるものだろう。一度は仕事が激減し、地道に這い上がってきた芸人だからこそ、自分たちコンビのNGラインがはっきりと見えているのかもしれない。

果たして、冒頭で触れた芸人アンケートの予想は的中するか。今後の森田に注目したい。

ライター/お笑い研究家

2001年から東京を拠点にエモーショナル・ハードコア/ポストロックバンドのギターとして3年半活動。脱退後、制作会社で放送作家、個人で芸人コンビとの合同コント制作、トークライブのサポート、ネットラジオの構成・編集などの経験を経てライターに転向。現在、『withnews』『東洋経済オンライン』『文春オンライン』といったウェブ媒体、『週刊プレイボーイ』(集英社)、『FRIDAY』(講談社)、『日刊ゲンダイ』(日刊現代)などの紙媒体で記事執筆中。著書に著名人6名のインタビュー、番組スタッフの声、独自の考察をまとめた『志村けん論』(朝日新聞出版)がある。

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