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「あっぱれさんま大先生」SNSの声を受け復活 人気の理由は個性的な生徒とさんまのトークスタイル

鈴木旭ライター/お笑い研究家
(写真:アフロ)

「アハーハ ウフーフ エヘーヘ ギャハーハ どうする どうする♪」。

これは、1988年から始まった人気バラエティー『あっぱれさんま大先生』(フジテレビ系)のオープニング曲の冒頭フレーズだ。番組スタート当初小学生だった筆者は、この曲に合わせて明石家さんまと子役の生徒たちが歌って踊る姿をワクワクしながら眺めていた。

7月1日、その生徒たちが30代中盤~40代前半になって『あっぱれさんま大先生2023同窓会スペシャル』(フジテレビ)に登場する。自由奔放だった生徒たちが今どんな大人になっているのか。リアルタイム世代の視聴者としては、同じ会に参加するような気持ちが湧き上がってきてしまう。

今振り返ると、1980年代は子役全盛の時代でもあった。1984年、85年の『うちの子にかぎって…』、1987年の『パパはニュースキャスター』や『ママはアイドル』(いずれもTBS系)といったドラマが続々とヒットし、クイズバラエティー『所さんのただものではない!』(フジテレビ系・1985年~1991年終了)に出演する間下このみやカケフくんらも大活躍していた。

そんな流れの中で、『あっぱれさんま大先生』がスタートしたのは必然だったのかもしれない。『オレたちひょうきん族』(同)のメインコーナー「タケちゃんマン」でブラックデビル、アミダばばあといったユニークな怪人を演じたさんまは、子どもからも高い人気を誇っていた。

番組が始まったきっかけ

『あっぱれさんま大先生』の演出を担当した三宅恵介の著書『ひょうきんディレクター、三宅デタガリ恵介です』(新潮社)によると、女優の故・岸田今日子がさんまに1本のカセットテープを渡したことから企画が持ち上がったようだ。

テープの内容は、コメディアン・三木のり平と当時幼稚園生だった中村勘三郎(18代目・当時は勘九郎)によるラジオ番組でのトークを録音したもの。子どもらしい屈託のない勘三郎の発言に、のり平は決して否定することなく同じ目線で返した。これを気に入ったさんまが三宅にテープを渡し、意気投合して番組の立ち上げに至ったという。

そんな背景もあってのことだろう。番組には個性の強い生徒ばかりが出演していた。大人も舌を巻くお調子者・内山信二、小柄ながら物怖じしない山崎裕太は、今もタレントや役者として活躍している。

そのほか、大柄ながら“べそっかき”の福長康一(あだ名:ふくちゃん)、マジメで優しいメガネキャラ・上野秀樹(あだ名:市役所)、小柄でキャップがトレードマークの鳴海晃司(あだ名:むし)、ブランドものを身に着けるキザな少年・増川浩行(あだ名:ブランド)。

「髪切ったの。かわいい?」など大人びた発言が光った中武佳奈子(あだ名:かなちゃん)、テレビの収録に緊張してほとんど笑わない矢川菜穂美(あだ名:なおみちゃん)、アラブの石油王を思わせる風貌の父親を持つ小嶋亜由美(あだ名:あゆみちゃん)。

「段ボールに住んでる(大人にはなりたくない)」とさんまを笑わせた村岡綾佳(あだ名:あーやん)、番組のメンバーに恋するロマンチストな湯山絵梨(あだ名:えりちゃん)、番組の衣装の件で祖母と揉め「(私は)着せ替え人形じゃない」と涙した歌代未央(あだ名:みおちゃん)と、それぞれにまったく違う面白さがあった。

今回の『同窓会スペシャル』には出演しないようだが、エキセントリックな言動で目を引いた有田気恵(あだ名:きーちゃん)、関西弁の軽妙なトークが印象深い住吉ちほ(あだ名:ちほちゃん)、延々と宇宙の神秘について語る高橋章久といった名物キャラも忘れられない。

Mr.オクレ、村上ショージ、ジミー大西などと絡んで笑わせたさんまは、思わぬ言動をする生徒たちとも抜群の相性を見せた。

「あっぱれ教室」にさんまの原点

『あっぱれさんま大先生』は、さんまにとって初めての子ども番組だった。

初期はさんまと生徒1人がトークする「あっぱれ相談室」、生徒たちが体当たりで学ぶ「あっぱれ隊が行く」、さんまと生徒たちが横並びに座ってトークする「あっぱれホームルーム」の3部構成。いずれも、“子ども番組らしいコーナー”と言える。

ただ、番組のイメージはそれ以降に根付いた印象が強い。「あっぱれ隊が行く」と「あっぱれホームルーム」のメンバーが合体し、1991年から授業形式でトークする「あっぱれ教室」がスタート。また、ニュース番組形式でロケVTRを流す「あっぱれニュースデスク」も新たな人気コーナーとなった。

定番コーナーのほか、全国各地の小規模校を訪ねるロケ、家族歌合戦、スポーツの祭典など様々な企画があったが、何よりもその後のさんまを決定づけたのは「あっぱれ教室」ではないだろうか。

『さんまのからくりTV』(TBS系・1992年~『さんまのSUPERからくりTV』2014年終了)では女優の中村玉緒や浅田美代子らの天然ぶりを引き出してお茶の間を笑わせ、『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系・1994年~2011年終了)では素人の女性陣を相手に「水戸泉」「グレたメーテル」といったあだ名をつけて番組の名物キャラを作った。

また、『踊る!さんま御殿!!』(同・1997年~)はテーマに沿ったエピソードを持つタレントが集結し、さんまが全体の司令塔の役割を担うトークバラエティーだ。「あっぱれ教室」における“先生と生徒”というポジションを、“司会と共演者”に置き換えて独自の番組フォーマットを確立していったように感じてならない。

大人と同じように生徒たちと向き合っていたからこそ、大人数を相手にトークを盛り上げていくさんまのスタイルが開花したのだろう。

番組復活はSNSから

あっぱれシリーズはタイトルと生徒を変えて継続し、2007年~2009年の『あっぱれ!!さんま新教授』で22年近く続いた番組の歴史に終止符が打たれた。

今回の『同窓会スペシャル』は、1988年~1996年3月までの1期生による同窓会だ。企画の発端は、山崎裕太のYouTubeチャンネル『あれこれ言うた!!』(チャンネル名の命名、文字は明石家さんまによるもの)から始まった。

かねて裕太のSNSに「あっぱれの同窓会やらないんですか?」といったコメントが寄せられ、「俺に言われても……」と悩んでいたという。そもそも裕太は番組に執着がないうえ、同窓会企画を望むのであればテレビ局やさんま宛にメッセージを送るべきだと考えていたからだ。

しかし、その後もコメントが絶えなかったことから、ついに裕太が行動を起こす。昨年7月、“番組メンバーをできるだけ集め、ダメ元でテレビ局に同窓会企画を持ち込む”YouTube企画をスタートさせたのだ。

連絡先を知っていた福長康一を皮切りに、上野秀樹、矢川菜穂美や歌代未央と再会を果たすなど続々と1期生のメンバーとつながり、昨年11月には番組の生みの親であるテレビディレクター・三宅恵介に企画を持ち込む動画を公開。その後、ファンから具体的なアイデアを募る生配信も実施した。

そんな番組が、さんまの誕生日(7月1日)に放送されるのは感慨深い。これまでも『あっぱれさんま大先生』の同窓会企画はあったし、『3年B組金八先生』(TBS系)といった学園ドラマでも同様の特番は放送されている。しかし、生徒の自主的な行動によって番組が制作された例は聞いたことがない。この点は、ファンの声が反映されやすくなったSNS時代ならではの動きと言えるだろう。

2006年12月、『あっぱれ!!さんま大教授』の「ミニ同窓会」で内山や裕太ら数人は10年ぶりの再会を果たしているが、ビデオレターで出演するメンバーも目立った。それが今回は12人も顔を合わせるのだから期待も膨らむ。

27年ぶりに復活する番組で、さんまと生徒たちはどんなやり取りを繰り広げるのか。明日の放送を心待ちにしている。

ライター/お笑い研究家

2001年から東京を拠点にエモーショナル・ハードコア/ポストロックバンドのギターとして3年半活動。脱退後、制作会社で放送作家、個人で芸人コンビとの合同コント制作、トークライブのサポート、ネットラジオの構成・編集などの経験を経てライターに転向。現在、『withnews』『東洋経済オンライン』『文春オンライン』といったウェブ媒体、『週刊プレイボーイ』(集英社)、『FRIDAY』(講談社)、『日刊ゲンダイ』(日刊現代)などの紙媒体で記事執筆中。著書に著名人6名のインタビュー、番組スタッフの声、独自の考察をまとめた『志村けん論』(朝日新聞出版)がある。

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