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芸人たちの欲望が渦巻く番組「大脱出2」 注目はさらば青春の光とトム・ブラウンみちおの存在感

鈴木旭ライター/お笑い研究家
©DMM TV

今年のGW期間中にまとめて視聴したい番組と言えば、4月24日から配信されている『大脱出2』(DMM TV)になるだろう。現在、第5話まで公開されており、5月8日に第6話と最終話の配信を予定している。

企画・演出・プロデューサーを担当するのは、放送開始10周年を迎えたばかりの人気番組『水曜日のダウンタウン』(TBS系)を手掛ける藤井健太郎氏だ。昨年2月に配信された『大脱出』の第1弾と同じく、本シリーズには彼のテイストがいかんなく発揮されている。

前作の主な出演者は、クロちゃん(安田大サーカス)、トム・ブラウン、みなみかわ、お見送り芸人しんいち、岡野陽一、高野正成(きしたかの)。新作では、クロちゃん、みちお(トム・ブラウン)、みなみかわ、しんいち、高野の5人が続投し、さらば青春の光、酒井貴士(ザ・マミィ)、井口浩之(ウエストランド)の4人がメインに加わっている。

脱出に挑戦する彼らのVTRをモニター越しに見届けるのは、前作同様にバカリズムとバイきんぐ・小峠英二だ。たびたび2人が俯瞰的なコメントを放ち、果敢にもがき続ける芸人との温度差が露呈する。そのギャップが妙におかしい。

出演者の多くが『水ダウ』でお馴染みのメンバーであることからも、一筋縄ではいかない過酷な番組だとイメージしやすいだろう。では、具体的に『大脱出2』にはどんな魅力があるのか。第1弾との違いを含めて紹介してみたい。

リーダーシップが光ったさらば青春の光

まず何よりも新作のカラーを決定づけているのが、さらば青春の光の森田哲矢と東ブクロの存在だ。

前作は、「各部屋の脱出」「全メンバーで囲われた村からの脱出に挑む」とブロックがはっきり分かれていたのに加え、全体をけん引するような芸人がいなかった。だからこそ、メンバー総勢で村を練り歩く姿には妖怪たちが集結したかのような絵面の面白さがあった。

これに対し、新作の見どころはあくまでも脱出劇と駆け引きの妙にある。これは第1弾の村よりも狭いスペースで脱出劇が展開されること、各部屋にある1000万円をいかに使わず賞金として持ち帰るか、という巧みな仕掛けからくるものだろう。

何も知らされていない芸人が密室から脱出し、さらに外の世界からも脱出を図る。このシステムは前作と同じだが、“外の世界”が狭いことから、各部屋と全体の仕掛けが連動しやすい。ここで絶妙なリーダーシップを発揮したのが、さらば青春の光の2人というわけだ。

スタート当初、彼らは壁の片面に六角形の柱がいくつも詰められた部屋に閉じ込められている。部屋には1台の公衆電話。これをうまく使い、それぞれ柱の表面に書かれた問題に正解すれば、1本ずつ押し出すことで外へと脱出できる。

ここまでは前作でも見られた密室のパターンだが、大きく違うのは100万円単位の自販機でテレフォンカードを購入しなければならないことだ。知人に連絡してはカードの度数が切れ、みるみる減っていく札束が生々しい。どうにか部屋を脱け出すと、廃墟の工場を思わせる空間にいくつかの建物が見える。ほかの芸人たちが閉じ込められている(もしくは閉じ込められていた)部屋だ。

以降、森田と東ブクロが各部屋の芸人と接触し、時に協力し合い、時に裏切られながら、仕組まれたからくりを次々と見破っていく。ヤンチャな芸風もあり、まるで頼れる先輩が札束を手に地元で巻き起こったトラブルを解決していくような痛快さだ。

前作は「この脱出で本当に正解なのか?」と感じるパワープレイも見られ、その豪快さが魅力でもありモヤモヤする部分でもあった。しかし、新作ではそうしたシーンがほとんどない。制作側の意図を理解し実行できる、さらば青春の光ならではの見応えだったように思う。

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トム・ブラウンみちおの存在感

『大脱出』シリーズには欠かせない人物がいる。それが、トム・ブラウンのみちおだ。

そもそも漫才の冒頭でにこやかな表情を浮かべながら「スマートフォンはベロでタッチします」「豚骨スープでお尻を洗います」といった薄気味悪いフレーズを放って笑わせているが、その異常性をじっくりと堪能できる場所はあまりなかったように思う。

ところが、“密室からの脱出”という特殊な状況下に置かれた『大脱出』シリーズでは、みちおの潜在的な狂気が十二分に発揮されているのだ。

例えば、第1弾でトム・ブラウンは、ポテトチップス、ふ菓子、ウェハース、クッキー、ドーナッツ、バームクーヘンなど、壁一面に様々なお菓子で詰められた狭い部屋に閉じ込められている。

そのお菓子を食べて脱出を図るわけだが、彼らの腕は互いに手錠でつながれているため、自由に動くこともままならない。ひとしきり口にして食べられなくなると、川の字になって寝そべる2人。そこでみちおは、「こんな感じで、2人で横になるってもう高校以来じゃない?」と心躍らせて笑う。

どことなく気恥ずかしそうな相方の布川ひろきが「そりゃないよ……嬉しいの?」と横目を向けると、みちおは「なんか懐かしいよねぇ~」とニンマリ。その後、無言のまま時間が流れる生々しいVTRを見た小峠の「やりそうな雰囲気ありますよね」とのコメントに思わず笑ってしまった。

さらには、過剰に糖分を摂取した影響からか、「本当に幻覚見えてきた……」「天国行ってきまぁす」と口にして宙を見つめるみちお。その後も、自身の初体験時に1000円を拾ったエピソードを口にするなど不可解な発言は続いた。

番組独自のルールで煙草を手に入れれば、ゆっくりと煙を吸い込み「効くぅ……」と目をバッキバキにさせ、一方で布川が念願だった水を手に入れると、「あぁ~っ!」と悔しがって地団太を踏み、あたりをウロウロしながら「クソォ~!畜生~!!」とありったけの声を上げたりする。

新作においても、序盤から「自分に辛いこととか痛いこととかあるとパチンコで当たる」と自身の頭を引っ叩いて賽の目を振るなど、理解不能な言動でたびたび周囲を戸惑わせている。とくにトイレのシーンは必見だ。クロちゃんはもちろんだが、みちおもまた『大脱出』シリーズの要だと改めて感じた。

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集大成とも言える実験的な番組

本作をプロデュースする藤井氏は、著書『悪意とこだわりの演出術』(双葉社)の中で「構造で遊んでいるモノが好き」「フェイクドキュメンタリーモノは必ずチェックしています」と書いている。

その要素は『水ダウ』の企画だけを見ても随所に感じ取ることができる。例えば対戦する2人がどちらも負けるように指示され、あり得ない行動を取り合う「ダブル八百長対決」シリーズ。“負けなくてはいけない”という動機があることで、当人たちはふざけることなく八百長に走る。この絶対的な構造がおかしい。

また、みなみかわときしたかの・高野が延々とドッキリ合戦を繰り広げた「『人がいる』の仕掛け人をやったあと帰宅した自宅に人がいたら気の緩みもあってめちゃ怖い説」は、“まだいるかもしれない”という拭い切れない不安が単なるドッキリを超えたリアリティーにつながっていた。

まるで芸人やタレントを使った実験だ。『大脱出2』は、ある意味でその集大成といっても過言ではない。脱出ゲームの過程で、“大金を手に入れたい”“空腹を満たしたい”といった芸人たちの欲望がみるみる渦を巻いていく。それでも、“脱出する”という共通の目標に向かって手を取り合う姿にワクワクするのだ。

それもこれも、緻密に張り巡らされたシステムがあってこその展開で、ため息が出るほどよくできている。ケレン味溢れる仕掛けと芸人たちの奮闘をぜひその目で確かめて欲しい。

ライター/お笑い研究家

2001年から東京を拠点にエモーショナル・ハードコア/ポストロックバンドのギターとして3年半活動。脱退後、制作会社で放送作家、個人で芸人コンビとの合同コント制作、トークライブのサポート、ネットラジオの構成・編集などの経験を経てライターに転向。現在、『withnews』『東洋経済オンライン』『文春オンライン』といったウェブ媒体、『週刊プレイボーイ』(集英社)、『FRIDAY』(講談社)、『日刊ゲンダイ』(日刊現代)などの紙媒体で記事執筆中。著書に著名人6名のインタビュー、番組スタッフの声、独自の考察をまとめた『志村けん論』(朝日新聞出版)がある。

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