『見取り図じゃん』本音トークで感じた芸人の多様性 「天下取る時代ではない」からこそ共通するものとは
4月22日、5月6日深夜、『見取り図じゃん』(テレビ朝日)の「この7人だからこそ言える会」が放送された。
本企画は、見取り図、さらば青春の光、ニューヨーク、相席スタート・山添寛が集結し、酒を飲みながらのお花見セットで本音トークを繰り広げるというもの。ゆかりの深いメンバー(昨年は、東ブクロ不在の「この6人だからこそ言える会」)による1年ぶりのトークは、ゆるさとシリアスさが入り混じる見応えある内容だった。
まずは『文春オンライン』の「好きな芸人ランキング」で3年連続1位となったニューヨークの話になると、山添が自身も含めた男女コンビは「人気が出にくい」と口火を切る。「男同士は、イチャイチャがあるんですよ。BL感」とその理由に触れ、「だってイチャイチャで売れたから」と見取り図を指差す。
これに見取り図・盛山晋太郎が苦笑しつつも、「ニューヨークとかもイチャつかんイメージあるけど、ちょっとでもなんか(相方のリリーの肩に触れ)こんなんしようもんならもうイチャついてる認定されるやん」と賛同。続けて山添が「屋敷(裕政)がイチャつくのうまい」と具体的な例を挙げ、「『根底でつながってる』のときにみんな見てて嬉しい」とランキングV3の背景について持論を展開した。
一方で、「女性側が男の文句言ってるときが一番笑えるから、そうなったら逆イチャイチャじゃないですか。構図としては」と男女コンビに熱烈なファンがつかない理由も分析。その後、今の若手でイチャついているコンビを聞かれ、「9番街レトロ」と言い放って笑わせるなど、序盤から山添らしいトークで場を沸かせた。
上京組ならではのプレッシャー
昨年の放送を見返すと、それぞれの番組の変遷も含めて興味深いものがある。そこで同企画での個々の発言を振り返りながら、彼らアラフォー芸人たちに共通する特徴をあぶり出してみたい。
現在、キー局で冠番組を持つのは、見取り図、ニューヨークの2組だ。昨年、さらば青春の光・森田哲矢が「(冠番組を持つのが)お前らやっぱ向いてんねん」と口にし、続けてこう語っていたのが印象深い。
「意識の問題やと思う、単純に。例えば、それこそ千鳥さんかまいたちさんというああいうモデルがあって。そこに憧れてるやん、一応2組とも」
まさに見取り図は、千鳥、かまいたちと同じ路線を辿っている。いずれも大阪の番組でロケやトークの腕を磨き、『M-1グランプリ』で知名度を上げ、満を持して拠点を東京へと移した。また若手の登竜門とも言われる『笑神様は突然に…』(日本テレビ系)で存在感を示し、人気を獲得していった点も共通する。
これに加え、千鳥・ノブが司会を務める『ノブナカなんなん?』(テレビ朝日系・現『1泊家族』)のレギュラーに抜擢され、さらば青春の光やニューヨークと冠番組を持つなど、2022年の東京進出前からキー局での露出を増やしていた。その意味では、非常に恵まれた新天地だったと言える。
とはいえ、1年前にリリーは「山添とか屋敷とかと俺らがちゃうのは、大阪から東京に出てきたやん。そのときは毎番組がけっこう勝負のときやなぁと思って。ヌメ~と仕事が増えるんじゃなくて、イチかバチかで『これ無理やったらもう大阪帰る』っていう気持ちぐらいで臨むから」と語り、続けて毎日が成績をつけられているように感じ、「1年ぐらいめっちゃ辛かった」とも口にしている。
昨年10月、『ジョンソン』(TBS系)のレギュラーに抜擢された人気コンビだが、その裏にはテレビスターを目指す上京組ならではのプレッシャーがあったのかもしれない。
余計な気負いも嘘もないスタンス
見取り図とともに『ジョンソン』の出演メンバーとして活躍し、今年4月から全16回の放送を予定している『ニューヨークですが…何か?』(フジテレビ)がスタートするなど、安定した人気を誇るのがニューヨークだ。
ちょうど1年前は地上波初のレギュラー冠番組『NEWニューヨーク』(テレビ朝日)が終了したタイミング。この件について嶋佐和也は「寂しさはありますね、初めて終わったんでレギュラーが」と語り、屋敷は「(寂しい感覚が)M-1とか落ちたときの感じと違いますね」と口にしていた。
また、屋敷はバラエティーの難しさについて触れ、「『大丈夫か、これ?』ってやったらめっちゃおもろいときもあるから、『俺の考えなんて正しくないかも』とかの繰り返しなんすよ」と率直な思いも語っていた。
そもそも若手時代から“ネクストブレイク芸人”と期待されながら、なかなかチャンスを掴めなかったニューヨーク。2019年にYouTubeチャンネル『ニューヨーク Official Channel』を立ち上げ、ラジオ番組「ニューラジオ」を人気コンテンツとして定着させるなど、地道な活動でファンを獲得していった。
ブレーク前のバラエティーでは霜降り明星に「第七世代に入れてくれ」と懇願し、M-1決勝で審査員のダウンタウン・松本人志に噛みつく泥臭いスタンスが印象に残っている。しかし、ひとたび露出が増加すると、「忙しくなりすぎるのは嫌」「気付いたら、欲しいモノ何もなかった」とリアルな思いを吐き出す。彼らには余計な気負いもなければ嘘もないのだろう。
昨年、あるインタビューで顔を合わせた折、最後まで誠実に対応しようとする2人のスタンスが垣間見え好感を持った。視聴者が“やらせ”演出に敏感な時代、彼らのような芸人が支持されるのは必然なのかもしれない。
“クズ芸人”からの変化に期待
ニューヨークと入れ替わるように、昨年4月から深夜番組『スーパー山添大作戦』(テレビ朝日)をスタートさせたのが山添だ。
とはいえ、冠番組に対するスタンスは真逆で「たぶんすぐ終わりますよ」「『あの番組おもろかったのにな』が一番いい」とあっけらかんと語っている。実際、今年3月に番組が終了したばかりなのだが、「この7人だからこそ言える会」では少し触れたのみで淡々としていた。
この図太さこそが山添ならではの芸風であり、もはやブランディングが確立されているといっても過言ではない。2019年あたりから借金や遅刻などにまつわるエピソードを多数持つ“クズ芸人”がジワジワと注目を浴び、岡野陽一、空気階段・鈴木もぐら、ザ・マミィ酒井貴士らに加わって活躍したのが山添だった。
相方の山﨑ケイから借りた金は、4年間で約400万円。そのほとんどをデート代やギャンブル代に注ぎ込んだ。しかし、山添はこの借金を“キズナ”と呼び、貸し手を満足させるよう動いたことでより関係性が良好になったと力説する。この平然とした姿が今の山添の芸風を決定づけたように思う。
昨年の「この6人だからこそ言える会」の中でも、山添が「スベった後も、最後の最後までスベってんの認めんようにしてます」と言って笑わせると、さらば青春の光・森田から「山添しか出せないワザ」と称賛されていた。その一方で見取り図・盛山とリリーが「めちゃめちゃ回せるMCになり切ろうと思ったらなれる」「能力が高い」と断言するオールラウンドプレーヤーでもある。
今年5月4日深夜放送の『ゴッドタン』(テレビ東京系)では、アンガールズ・田中卓志から「アイドルグループの公式お兄ちゃんをやれ」とアドバイスされ、まんざらでもない表情を浮かべていた。その姿が見られるかも含め、今後の山添の活躍に期待したい。
意外にお前が天下取ってんのかもな
そして、もっとも現代らしい活動が目立つのがさらば青春の光だ。テレビ、動画配信、劇場など幅広い場所に露出し、彼らのYouTubeチャンネルではSNSを使い一般視聴者も巻き込んで企画を成立させたりもする。そのフットワークの軽さと影響力の大きさには目を見張るものがある。
「とんねるずってデビューしてたぶん3、4年目ぐらい(実際には、本格的な歌手デビューから6年目)で東京ドーム埋めてんすよ。あの頃ってカリスマが東京ドーム埋める時代やったんやけど、今ってオードリーさんみたいに弱い部分とか内面をラジオとか本でさらけ出して、それに共感したやつらでドーム埋める時代なんすよ。だから、えらい違いやなと思います」
「この7人だからこそ言える会」で、今のお笑い界の天下取りに一番近い芸人としてオードリーの名が挙がると、ニューヨーク・屋敷はこう語った。たしかにオードリーは、従来通りのテレビ、ラジオを通して確固たる人気を獲得している。その求心力はトップクラスだろう。
ただ、“個人事務所らしいスピード感で活動するコンビ”という点では、とんねるずに近いのはさらば青春の光だ。とんねるずは一度も大手芸能事務所に入ることなく、自分たちで人脈を広げ一世を風靡した。さらば青春の光も2013年に松竹芸能を退所後、個人事務所「株式会社ザ・森東」を設立。以降、その形態のまま活動を続けている。
これが結果的に今の時代にフィットした。SNSやVOD、オンラインサロンといったサービスが定着し、ローカル番組が配信される時代になり、小回りが利く個人での活動を選択するタレントも珍しくなくなった。昨年、森田が「この6人だからこそ言える会」の中で「もう天下取る時代ではない」と語ったシーンが強く印象に残っている。
「日本国民全員が言わなあかんわけやろ? 天下って結局。だってさ例えばよ、『TikTokで天下を取った』って思ってるやつがいても、俺らから見たら別に天下を取ってるかどうかわかんない。って考えたら、俺らも『テレビで天下を取りました』と思っても日本国民が『別にテレビで一番出てるだけであって』って言う可能性もあるからな」
そんな発言をしつつ、“10年後の自分へメッセージ”を送る後半のコーナーで「天下取りがうんぬんかんぬん、興味ないだの何だの言ってるけども、意外にお前が天下取ってんのかもな」と茶目っ気を見せていたのが森田らしい。
幼少期や学生時代にテレビの痛快さを享受しながら、細分化された今のエンタメ業界を泳ぐアラフォー世代の7人。チャンスを掴んだ経緯やスタンスこそ違うものの、いずれも時代の変化にうまく適応しながら人気を獲得していった点では共通する。
来年の企画では、どんな話が飛び出すのか。先が見えない時代だからこそ、1年後の彼らの変化にも注目したいところだ。